第五章 -1

 目覚まし時計の音に急かされて、俺の瞼は重く開いた。

 朝日が差し込む部屋の風景。

 ベッドは白で、毛布は青。

 カーテンの隙間から覗く窓の外は憎らしいほどの快晴で、それは何百回と繰り返してきたいつもの朝の倦怠感だった。

 それなのに。

 なぜか、ひどく現実感がなくて、俺の頭は気怠さから冷めてしまう。

(これが、夢……?)

 ブリゾの言葉を思い出す。

 夢と思っていたものが現実で、現実と思っていたものが夢だと語る、夢の話――だと思っていた、現実の話。

 こうして目が覚めると、そこはいつだって現実だった。

 それが普通だった、はずなんだ。

 それが、こうして目覚めること自体、あちらの世界からS・M・Aの中に帰還して夢を見ている状態だ、なんて言うのだから、滑稽な話以外の何物でもない。

 ……滑稽な話のはずなのだ。

 俺はベッドから立ち上がり、視界を遮っているカーテンを開いて、窓を開けた。

 そこには、いつもの六玖波市の風景が広がっている。

 ――ただ一つ、昨日と違うところを挙げるとするならば。

「あんなところに空き地なんて、昨日まではなかったはずだよな……」

 そこは、昨日の夢の中でプテラノドンが襲った商店街の一角。アーケードの丸い屋根が不自然に途切れ、俺の母さんの友人が経営していたはずの食堂が一棟まるまる消えていた。

 世界が改変されたのだとしたら、あの人はどこへ行ってしまったのだろう?

 それとも、もともとこれは夢なのだから、消えても消えなくても同じなのだろうか?

「この世界が、夢だって……?」

 俺は窓のサッシを痛いほどに握りしめて、この痛みが本物なのかどうかを確かめていた。

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