第三章 -8(period)
九つの首はそれぞれが個別に動き、そして立体的に襲いかかる。
七つ目の首を討ち取るのが限界だった。数にすれば数え切れないほどの切断魔法を振るったソラエだったが、死角から伸びた八つ目の首に背中を殴打され、内臓が破れんばかりの痛みと共に空へと弾き出される。防御役だったはずのリリンは既に建物の壁へと叩きつけられていた。
これで、ナイトメアの進行を妨げるものは何もない――。
「しまった、大通りがガラ空きに……ッ!」
ソラエは何とか体制を整えようとするが、激痛が杖を操る余力を奪ってしまう。気づけばナイトメアは既に宮殿の城壁に取りついていて、今にも敷地内へ侵入するところだった。
「くそ……追うぞガリク! なんとしても奴を止めるんだ!」
「……ッ? いや、待てソラエ。何か様子が――」
そのときだ。
――彼女らの眼には、きっと信じられないことが映っただろう。
城内に伸ばされたナイトメアの頭が、突如として爆発、炎上した。
響き渡る大轟音。
続けて無数の爆発が起こり、周辺のガラス窓がすべて割れるほどの衝撃波が辺りに拡散する。その威力にナイトメアの巨体が大きく傾き、城壁から滑り落ちていった。
そして――城内から浮き上がるようにして現れた、ナイトメアを爆砕したらしき物体の姿に、ソラエは驚愕する。
「な……んだ、これは……ッ?」
それは、鋼鉄の躰に銀色の翼を携えた、鳥に近いシルエットの飛行物体。
全長十五・六メートル。離陸重量二七トン。ジェットエンジンF135を採用した垂直離陸型の最大推力は実に一・八万重量キロという、現代兵器の中でもトップクラスの性能を誇る。
そして同時に、俺の『ホラコン』での全国八位を支える愛機の名称は――。
中世の世界観をぶち壊して現れた現代世界の機動兵器が、ナイトメアを駆逐した正体だった。
「ユメカ、次弾近距離対空ミサイル用意! このまま奴の首を、ひとつ残らず粉砕しろッ!」
垂直離陸でホバリングするF35Bの背に乗った俺は、そこから身を乗り出しつつ背後のユメカに声を掛ける。
ユメカは戦闘機と化した魔法の杖の背に触れて、再び赤い光を放出させた。
「えっと、ミサイルって確か羽根の下についてる爆弾だよね。この飛行機には八発あって……」
「理論はいい。とにかくその爆弾をありったけぶち込め! AIM――ファイア!」
「ふ、ふぁいあーっ!」
掛け声と同時に、F35Bの両翼下から対空ミサイルが計八発、連続して発射される。
最大速度マッハ二・五で飛び出した爆薬の塊は瞬く間に目標へ命中、残る首をすべて粉砕した。
「な……なんですのン、これ? こんな魔法、見たことも聞いたこともありませんわよ?」
遅れて現れたリリンとアルも、俺たちの乗った戦闘機を見上げて口をあんぐりと開けている。……当然だ。戦闘機なんてこの世界のどこにも存在しないだろうし、きっと誰も想像したことすらないだろう。
しかし、ユメカの『想像』を『創造』する魔法――『
これが、俺が夢に呼ばれた理由。――ユメカのアリエスに選ばれた理由。
もしもこの魔法が――想像が彼女の思いのままに具現化するのなら。
誰よりも人々を護りたいという強い想いを持つユメカの前に、敵は存在しない!
「トドメだ! 再生する隙を与えるな、塵すら残すな、すべて焼き尽くせ!」
「いっけえええ!」
ユメカの声と共に、残るすべてのサイドワインダーが飛んでいく。
九つの首を失い、むき出しとなったナイトメアの躰は一瞬で凄まじい爆発に取り込まれ、爆風が吹き飛んだ後には言葉通り、塵すらも残らず霧散していた。
「コータ……やったの? やったんだね? やったよ、コータあっ!」
霧と化したナイトメアの姿を見送って、ユメカはようやく喜色満面に俺に抱きついてくる。相変わらず感情表現の激しい奴だと思ったが……まあ、今日ばかりはいいかと諦めた。
……俺は、コイツを護るって約束しちまったからな。
その褒美と言うことでなら、こいつに抱き付かれる権利をやってもいいと思ったのだった。
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