第三章 -1
「――なあ、お前ら。同じ夢を何度も続けて見るってこと、あるか?」
あの夢を見始めてから数日が経ったある日の放課後。
図書委員である友部の手引きで占拠した図書室内第二書庫でPSP版スタハンのクエスト行動中(もちろん校則違反)、何気なく俺が口にした質問に、磯原稔は画面内のモンスターのしっぽを攻撃するのを止めずに返事をした。
「うーん……ごくたまになら。誰かに追いかけられる夢を連続で見たことあるよ」
「ぼ、ボクは教子タソに鞭でシバかれる夢を見たことあるんだな。あれはブヒ、さ、最高の」
「友部集中しろー、ドラゴンにケツ掘られてるぞー」
部屋の隅から
書庫と言っても実情は図書室に置けなくなった古本や備品をダンボールに詰めて壁際に積み上げているだけの物置に近い部屋で、それなりに広い床には赤いカーペットが敷かれており、くつろぐには好条件のたまり場となっていた。
現在は全員がPSPを持ち込んでの同一クエスト探索中。全員男というのが若干むさ苦しいが、いずれも全国ランクで戦える猛者たちに違いなかった。
「稔、その夢を見た連続って何回くらい?」
「何回って……普通、二連続くらいが限度でしょ。疲れてるときとか定期的に見たりもするよね。幸太、それがどうかしたの?」
「いやぁ、さすがに五回以上連続するのは、ちょっとヤバいかもって思っただけ」
「五回ィ? ハハハ、夢見すぎじゃね? 夢ン中でも煌明槍+9振ってんじゃねーの?」
背後で
――未だに、あの夢をたびたび見る。
ゆめかがユメカとなり、魔法少女となる夢だ。
夜眠るときは二日に一回、授業中の居眠りではほぼ百パーセント。
竜ヶ崎に注意されて以来、できる限り授業中は起きるように努めているのだが、まるで夢の中に引きずり込まれるように眠ってしまうことが多々あり、最近は何かの睡眠障害ではないかと疑い始めたくらいだ。
夢の舞台は決まって魔法都市ノイアード。
俺もアリエスとかいう小動物の姿が常で、主にユメカの公務を眺めたり、魔法の特訓に付き合うという内容が多い。幸いと言うか何と言うか、ナイトメア戦は大蛇以降発生しておらず、その点では穏やかな夢とは言えた。
……いや、確かに少し気味が悪いというか、違和感を覚えてはいるのだけどさ。
正直なところ、その夢を見ることにそこまで嫌悪は感じていない。
やはり物珍しさもあるのだろう。中世を感じさせる街並みやファンタジーそのままの世界観は、俺にとっては桃源郷だ。ゲームの中でしか知らなかった幻想の世界を実際に見て触れることができるのだから、いくら夢の中と分かっていても興味が尽きることはない。
それに、ユメカを始めとする夢の登場人物たちも個性的で、飽きることがないのも要因だ。
特にユメカは現実のゆめかとは百八十度違う人間に成り代わっていて、見ているだけでも面白い。変身のたびにアレを迫るのはちょっとアレだが、普段のツンケンしたゆめかばかりを見ている俺にとってユメカの存在は新鮮で、なんだか逆に愛おしささえ感じてしまう。
――ハッ。まったく、なんでこんな夢を見ているんだろうな、俺はよ。
これが代わり映えのしない現実に対する反抗心から生まれたものなのだとしたら、俺はこの夢を望んで見ていることになる。ここまで連続して見るなんて、よほどアイツのことが――、
「てっ、敵襲敵襲ッ! 図書室内のレーダーに感アリ!」
「むう、いかん。皆の衆、クエストは中断! 事前の逃走ルートに従い各個散開せよッ!」
「え、なんだそれ逃走ルートって! 友部テキトーなこと言ってんじゃねえ!」
「やばいって、次捕まったら二度目だぞ。この非公式スタハン部の存続にかかわる!」
絶体絶命に右往左往するスタハン部員たち。
一つの妙策を思いついた俺は勢いよく立ち上がると、PSPをダンボールの陰に隠そうとしていた友部の奥襟をむんずと掴んで拘束した。
「え? な、なんでござるか那珂湊氏?」
「こうなったら最終手段だ。
「ち、ちょ、おま!」
抵抗しようとする友部だったが、他の部員も俺の策に賭けたようだった。皆の手が友部を拘束し、じりじりと部屋の外へ押し出していく。俺たちは友部の雄姿に涙を呑む他なかった。
「友部……ムチャしやがって……!」
「ムチャさせようとしてるのはキミたちの方だと思いますがあああ!」
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