第二章 -2
昼休みも済んで、五時間目。
数学という全教科の中で最も眠たい授業が一日の中で最も眠たい時間に始まってから十五分、俺はあくびをかみ殺すのも諦めて、一発KOされた矢吹丈のごとく机に突っ伏していた。
「五時間目に数学とか、嫌がらせとしか思えないっつーの……」
机の上に開いて立てた教科書の陰で、そんな言葉すら虚空の中に霧散してしまう。
何だか知らんが、今日は異様に眠かった。
昼メシ直後ということもあるだろうが、それにしても身体がだるい。まるで実際に魔法少女と共に魔法の杖に乗っかってドラゴン退治したみたいに、身体が疲労を訴えているのだ。
昨日は別段スタハンで夜更かししたわけでなし、例の夢を見た以外に体力を使うイベントはどこにもなかったと記憶しているが……まさかあの夢が「実際に起こったこと」と脳が認識して、疲労感を俺の脳に味わわせている――んなわけないか。
それならあの夢に限らず、夢を見た翌日はいつでも疲労困憊のはずだ。あ、いや、竜ケ崎の手伝いは精神的な意味で疲れたが。
ああ、そういや、ゆめかとは喧嘩別れっぽいコトしたはずなんだよな、理科準備室で。
数学教師に指名されて、壇上へ歩いていくゆめかの横顔を見る。いつもと変わらぬ可憐な笑顔。別れ際に俺を睨み付けた人間と本当に同一人物かと疑わしくなるくらいの清艶さだった。
とはいえ、普段と違って朝のバスの中では普通に接せられた気がするが……これは、もう怒ってないという気持ちの表れだったのだろうか。
数式の書かれた黒板の前で、うーん、と悩むゆめかを再び見る。彼女が何気なく指を当てた唇にまたもや目がいってしまって、俺は慌てて教科書の陰に頭を引っ込めた。
……ったく、どうなってんだよ俺の中の第二次成長期は。
自分の厨坊っぷりに嫌気がさして、俺は額を机にくっつける。身体にかかっていた負荷が、すべて机に吸収されていくような感覚。
俺は大きく息を一つ吐いて、ゆっくりと目を閉じた。
そうしているだけで、急激に睡魔が襲ってくる。静かな教室。聞こえてくるのはシャーペンがノートを滑る音と、ゆめかのチョークが黒板を鳴らす音だけだ。
その音が、まるで子守唄を奏でる管楽器のように聞こえてしまって。
ああ――授業中だけど、いいか。ゆめかに演奏をさせる数学教師が悪いんだ。
あんな夢を見ることさえなければ気持ちよく眠れるだろうと、俺は本格的に身体を机の上に投げ出して、失った体力を取り戻すことを最優先とする行動に移行した。
◇◆◇
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