第一章 -5
「っあーもー、なんなんだよマジで!」
晩メシ後、ばふんと自室のベッドに身を投げ出す。
結局あの後、ゆめかが戻ってくることはなく、校門の閉まる時間まで延々と作業をさせられたのだ。
当然、ゲーセンへ立ち寄る気力もなく、家に着いたのが午後七時。風呂に入ってもメシを食っても、モヤモヤとした気持ちが晴れやしない。受験勉強どころかスタハンもやる気が起きなくて、一度電源を入れた携帯ゲーム機を机に放り投げると、俺は枕に後頭部を押し付けていた。
――あのわがままオンナめ、あれくらいで帰ることねーじゃんよ。
あんなん単なる世間話じゃねえか。教室の片隅で、あいつがいつも友達と話している内容とほとんど同じことを喋ったつもりなのに、なんで俺の場合だけ烈火の如く怒るんだよ。
ていうか、これでも気を使ってやったつもりなんだぜ?
なにせ相手は学校のアイドル様だ。お気を悪くされないよう、おべんちゃら使って持ち上げて、退屈させないようにだな――、
「……なんで俺、あいつに気なんか使ってんの」
口に出してみて初めて気づく。
俺は、どうやらあいつに気を使っていた……らしい。
一体どうしてそんなことになったのか。
そもそも、あいつと俺は居るレベルが違う。別段あいつに嫌われていたって問題ないし、気を使う必要すらなかったはずなんだ。
それなのに、少しでも好感度を稼ごうと話しかけたり、怒らせた事を悔しく思うなんて――。
俺はひょっとして、ゆめかに嫌われたくないと思っているのだろうか。
「……いや、ないない。誰があんな奴」
ごろりと寝返りを打って、うつ伏せになる。視界が枕に覆われ暗闇に染まる。俺は手に触れたシーツの表面をかき集めながら、うーうーと身悶えした。
畜生、なんか変だぞ、今日の俺。
なんでこんなに意識してるんだ。久しぶりにマトモに話したから舞い上がっているのか?
あんな奴、別に保育園からのクラスメイトというだけで、どうだっていい存在じゃないか。
確かに見た目は可愛くて友達も多くて、知り合いというだけで胸を張って誇れる奴だけど、あいつは俺とは居る場所が違う。交わることのない二本の平行線なんだ。
それに興味を持つことはあっても、干渉することは決してない。
そうさ、こんなのは気の迷いだ。こんな時は、何もかも忘れて寝ちまうに限る。
ただでさえ竜ヶ崎にコキ使われて疲れてんだ。このまま目蓋を閉じちまえば、意識はすぐにでもレムの海に沈むに違いない。
そうすりゃ明日の朝にはきれいさっぱり何もかも忘れて――。
◇◆◇
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