一の五【山梨県森林化作戦】

 小鳥遊に教えてもらった図書館は、沙織さんがタイムスリップの前に言っていた通り、若草図書館だった。

「通信しなければならない時は、小鳥遊の家から一番近図書館に行きなさい。そこは若草図書館という名前で、そこの貸し出し図書の検索機にコマンドを入れると通信ができるようになるから」と大体そのようなことを言われていたのを、思い出した僕は小鳥遊に近くの図書館を聞いたのである。

 通信と言っても、僕がこの時代に.txt形式で文章データを保存し、未来で僕のタイムスリップ前にシラキラボの誰かが発見し、僕のデータに返答となるデータが元々ことにするというものだった。

 僕は未来から来たため、タイムパラドックスの影響を受けることはない。つまり、何を質問したのか忘れることはないのだ。

 そんな訳で、僕は貸し出し図書の検索機にあるコマンドを入れ、メモ帳を開き「山梨県とはなんだ山無県ではないのか」と書いて保存し、次の瞬間記憶メモリが書き換わる。

 新しく追加されたデータには先ほどの質問の答えとなるものがあった。

『山梨県の由来は様々なものがあるが一番有力なのは、「ヤマナシ」というバラ科ナシ属の木が多かったからというものがある。』

 そんなデータの後にボイスメッセージがくっついていた。

「山梨県が山無県となったのは二〇二〇年八月一六日、東京オリンピックの閉会式から一週間後の事」沙織さんの声だった。「東京オリンピックが行われるって日本人が浮かれていた裏で、日本全体を機械化するという計画が動いていたの。もちろん、様々な企業が反対したわ。日本の見栄のために、労働者を減らして良いのかって。それでもね、政府はその計画を推し進めたの。まぁ、IT企業が増え始めていた頃だから大丈夫だと思っていたのかもしれないわね」ここで沙織さんの声が少し暗くなった。つまりは少し低くなった。それは、辛い思い出を思い出すような感じがした。「だけどね、そこで二つの問題が起きたの。景気の悪化と二酸化炭素の急増。どんな企業にも終わりは来る。二〇二五年くらいかしら。企業が増えすぎて、倒産する会社が出てきたの。そこに重なる二酸化炭素の増加。そこで政府はある一つの案を思いついたの。山梨県を酸素を排出する森林にする公共事業よ。私はその時、二十四歳のプログラマーをやってて種まきロボットの一号機を作るのに協力していた。あなたが知っているTR-064のことね。私は六月四日が誕生にだから、TR-001ではなくてその形式番号にしたの。楽しい日々だったわ。種まきロボットを作ってる間はね。でも、後で聞いて驚いたわ。私達が愛情を込めて作ったロボットが、山梨県を無くすのに使われるなんて」

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