一の三【疑念】
三時間前に雑誌の取材と偽って彼の家に上がり込んだ僕は、
「白木さん。僕は、人を守る仕事につきたいんですよ」少年はそう言った。「ロボット作りはその延長線なんですよ」と。
この時代で行動する上で必要だと、沙織さんに渡された名刺には『白木』という苗字が印字されていた。
ロボット作りが得意なその少年の顔は、僕の記憶にある小鳥遊とほとんど変わらないのに、どこかあどけなさを感じ、不思議な気持ちだった。相手がまだ少年だからということも関係してるかもしれないが、あの愛想の悪さは感じないし、そのためか、この小鳥遊からは苛立ちを覚えることはなかった。
だからこそなのか、人を守る仕事は人型ロボットは守られないのかと、釈然としなかった。
「白木さんは僕の苗字読めるんですね。僕の苗字、読める人少ないんですよね。判じ物とかいう技法なんだそうですけど」
「判じ物というと、
「そうです、そうです。ちなみに、これは読めますか」そう言って彼は、鉛筆で文字を紙に書いた。
『月見里』と書かれたそれは「つきみさと」としか読めない気もしたが、問題なのだからそれでは無いだろうと思いながらも僕は、「つきみさと」と答えた。すると、彼はハハッと笑いこう言った。
「みんなそう読むんですけど、違うんです。これで『やまなし』って読むんですよ」
「しかし、どこにも山という字がないでは無いか」と僕は怒り気味に言った。
「それはそうなんですけどね、月が見える里。昔は山無も平らでこう呼ばれていたみたいです。今の、山と果物の梨なんて書き方よりよっぽど意味がわかりやすいと思いますけど」
小鳥遊の今の発言に僕は強い疑念を抱いた。どういうことだ。山無は『山』と全く無いの『無』ではないのか。ということは、さっきまで小鳥遊が山無と言ってた時は山梨と言っていたのか。そういえば『山梨森林化作戦』も山梨と書いた。
「そ、そうだな」と僕は苦笑いで答えた。「ちょっと用事を思い出した。そろそろ帰ろうと思うんだが、近くに図書館というものは無いか?」
これは調べる必要がある。そう思った。
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