一の二【小鳥遊の事】
ーー二〇四八年、富士山跡地にて。
ここの担当になる人は皆、愛想が良かった。だが、この小鳥遊はどうだ。挨拶をしないどころか、こちらから挨拶をしたとしても返さないではないか。
僕がこの男を嫌いになったきっかけはこれであろう。
前にいた石川という女は、この小鳥遊の事をとても素敵な人などと言っていたが、おそらくその女の前でだけ素敵な人を演じていたのだろう。
「おい、四十五番。サボってねぇで仕事しろ。今日中に富士山跡地、木で埋めねぇと俺の給料に響く」
今日も早速、小鳥遊の怒声を浴びる。周りの奴らもヒソヒソと笑っている。よく分からないが、人間でいう胸のあたりに違和感を感じた。
TR-064が言っていたが『小鳥遊を“コウゲキ”することはできない』らしい。そもそも“コウゲキ”とはなになのかを知らない。よくは分からないが何か良からぬ雰囲気のする言葉だ。TR-064はどこで“コウゲキ”という言葉を知ったのだろう。
そういえば、いつもそうだ。TR-064は他の種まきロボットが知らないことを知っている。バグでも起きているのではないかと、他の奴らは彼のことを形式番号も相まって“バグ”と呼んでいた。
そもそもバグは本当に、ロボットなのかなんてことまで言われていた。僕は彼と仲がいいため、その度にロボットにきまってるだろ、と彼をかばい、その度に奴らに殴る蹴るの、体に穴が開くほどの圧力を加えられた。それでも僕は、トモダチのためならスクラップになってでも信じようと、思うようにしていた。
胸のあたりの違和感を置いておいて、作業を再開させた。人間からするとこれは、タイクツな作業らしい。僕は何も思わないが、小鳥遊はアクビというものをしながら眠ろうかと迷ってる様子だった。
監視のくせにナマイキだ、とバグは言っていた。
しばらくすると眠りから覚めた小鳥遊が近づいてきて、僕の右の横腹辺りを指差して突然大声で笑いだした。
「お前、もうすぐだからってスクラップの練習まですることないぞ。機械は面白ぇなぁ」
僕の右の脇腹には、バグをかばって空いた穴があった。そこからは、一本だけ赤い線が出ている。バグはこれを『ユウジョウのアカシ』と言ってくれた。『ユウジョウのアカシ』はトモダチじゃないとないものらしい。
だから僕はそれを笑った小鳥遊を、僕は機械で始めて殴った。
腕が少し歪んで、僕はこの時、このことをコウゲキというのかと理解した。
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