一日目

一の一【タイムスリップ】

 タイムスリップ、してきたようだ。

 転送先であった、鏡中城公園の東屋のベンチに元々座っていた老人が、驚いた顔をしている。

 挙げ句の果てに、老人は持っていた杖を落としてしまっていた。

 私はそれを拾ってあげてから、目的地に向かって歩き出す。

 日本唯一の森『緑の牧場』の地下にある研究施設『シラキラボ』から、転送された私は、恐らくその老人よりも驚いていただろう。仲間だって驚くはずだろう。山無に建築物があったら。だがしかし、もちろん顔には出ない。なんせ私は、ロボットだ。

 正式名ーー形式番号はTR-045ティーアールゼロヨンゴ

 名の通り四十五番目の種まきロボットだ。

 四十五番目と言っても種まきロボットとしては、早い時期に作られたものであり、確か第一生産期か第二生産期に作られたはずだ。

 今は三十生産期まで行っていたことを記憶している。

 そういえば、私にはもう一つ名前があった。

 信玄のぶしずだ。人間の前ではこれを使えとシラキラボの沙織さんが付けてくれた。

 山無には戦国という時代に、同じ字で《しんげん》という武将がいたと言っていたが、そもそも武将という言葉が私のデータに無い。

 種まきに必要なデータしか私のチップには入っていないのだ。

 聞き返す機能というのは私がここに来る前に与えられた。人間は話を聞く時はよく聞き返すのだという。私は種まきにしか使われなかったし、そもそも会話はデータに残るため必要が無かった。

 しかし、今はデータに無い言葉を聞く事が多い。

 武将の意味も聞ければよかった。後で図書館という場所にでも行って調べてみようか。聞いた時にはまだ聞き返し機能は付いていなかったのだ。

 さて、公園から結構歩いたが、設定されていた目的地に着いたようだ。左腕に付いている腕時計型の装置が赤く光っている。

 古い感じの家だった。ーー私のデータの中では。

 もしかしたらこの時代ここでは新しいのかもしれない。

 とりあえずその家のインターホンを押すことにした。人差し指で押すと、ピンッと鳴って離すとポンッと鳴った。

 すると、人の声がした。


 知っている声だった。


 嫌いな声だった。


 ーー僕をこき使っていた奴の声だ。

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