山無県

幻典 尋貴

プロローグ【山無県】

 今日、ついに緑が山無やまなし県を埋めた。

 元々、山無県の77.8%は緑だったと言うが、残りの22.2%は人が住んでいたと言える。

 しかし、今はどうか。どこを見ても真っ平らで、木だけが生えている。

 人の住むところはどこにもなく、日本のシンボルマークのはずだった富士山までもが機械の手によって平らにされ、今は白くも青くもなく、緑だけが見える。

 県の境に行くと、ギラギラと緑色をただ反射させるだけの鉄でできた壁がある。

“街”の中はきっと太陽の光が当たることはなく、人工的な光に照らされている。

 もちろん、囲われた場所の中で酸素は減って行く一方で。そのために作られたのが『緑の牧場』山無だ。

『山梨県森林化作戦』によって、山無県を緑だけで覆うというものだ。

 なぜ山では無く山なのかは分からないが、それは山無に住む人々には知らされず、大きな地震が起きたことをきっかけに作戦開始されたと言う。

 何があっても立退かないと言い張る人には、政府が直々にした。

 そうして数十年の間で、山無県は緑に覆われたのだ。

 山無県の面積は4,465平方キロメートルだから、日本の約1/85が林になったということである。

 人の手でそれを行ったわけではない。機械化された日本の技術だ。もちろん機械ーー種まきロボットが行った。

 種まきロボットは人間が山無県全体に、人の手で種まきをするのは難しいと、日本政府が作り出したものだ。

 色々なところに対応できるようにと、人型になっている。

 この話は、その種まきロボットの話。

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