一の六【アンドロイドは未来を予知する夢を見るか】

 いつの間にか朝は来ていて、爽やかな風が吹く町で、鳥のさえずりだけが聴こえている。

 久しぶりに夢を見た。泣きながら僕が存在ごと、消えて行く夢だった。もちろん僕が涙を流すことなどないのだが、夢の中の僕は見たことのない顔をして涙を流していた。

 そういえば、沙織さんが言っていた。本当に山梨県を守った時、あなたは消える、と。

 僕の仕事は、山梨県を守ることのできる人に会い、話をし、山梨県をずっと守ろうと思わせることだ。その人の気持ちが変わるたび、僕の何かが消えていく、らしい。

 僕は昨日の続きをしようと、小鳥遊の家へ向かった。

 インターホンを押すと、小鳥遊の母親が出て来て、小鳥遊の部屋へと案内された。

 小鳥遊は勉強机に、熱心な様子で向かっていたが、僕が部屋に入るとこちらに気づいたようでこんにちはと挨拶をして来た。

「昨日、白木さんが帰った後に思ったんです。白木さんって記者じゃありませんよね?」小鳥遊は真剣な表情をして聞いて来た。

「バレたか。まぁ、そうだろうな。初めてだし」

「何のために僕に近づいたんです?」

「君は信じないだろうが、僕は未来から山梨県を、いや、日本を救いに来た。君はそれに必要な人間だった」

 小鳥遊は考えるような顔をした後、ニコッと微笑み、何をすれば良いのですか、と聞いて来た。

「ではまず、質問をしたい。君は山梨県は好きか?」

「あぁ、好きじゃなかったらとっくに東京にでも行っているよ。あっちの方がロボットの勉強はできるからね」

「そうか。じゃあ、山梨県ではロボットの勉強ができないのは不満なんだな」

 釜をかけるつもりだった。小鳥遊は山梨にいなくても山梨を救える気がしたのだ。

「いいや、そうでもない。ロボットの勉強は本なんかを読むだけでもできるからね。それに、最近ではSNSで出会った先生に作ったロボットを見てもらったりもしてる。僕は山梨にいたい。この高齢化の進んだ社会を山梨から変えていきたいんだ」小鳥遊の強い気持ちは僕の心に突き刺さった。小鳥遊は僕が思ったほど悪いやつではなかったようだ。

「そうか」

「あ、笑った」小鳥遊は小さな子供のように無邪気な声で言った。

 いつの間にか僕は笑っていたようだ。「表情に出ていないのに、よく私の感情の変化がわかったものだな」

「いや、今自分では気づかなかったのかもしれないが、君は表情をつけて笑ったんだ」

「そんなことはないはずだ。…それじゃあ、もしかして」どうやら感情表情のロックが消滅したらしい。この機能は種まき作業をする際効率を図るために付けていたものだった。「そうか、ありがとう。その気持ちを持ち続ければ、君は山梨を守ることが出来る。僕が保障しよう」

「そうかい、こちらこそありがとう。やるべきことがやっとわかった気がするよ」

 小鳥遊の部屋へ風が吹き、何か目に見えない明るくないものを飛ばして行った。

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