4-9.真犯人は他にいる

 カルナシオン・カンティネスは赤い髪を掻き上げ溜息をつく。

 そしてシガレットケースから煙草を一本摘み上げて口に咥えた。


「お前さん、利用されたんだよ」

「どういう意味だよ」

「いいか。おかしな点はいくつもある。何でそんなに詳細に思い出せるのに、そこに行きつかなかったのか疑問だが……お前さん、あまり頭は良くないだろう」


 スイは虚を突かれた表情になったが、すぐに頷いた。


「確かに、俺は馬鹿だけど……」

「あんた、その男を見てないだろ。本当にいたのか、そんな奴」

「え、でも四人とも……」

「いいか、女がまず男のことを言った時に「どの部屋だったかしら」と聞いた。つまり女は男がどの部屋にいるか把握出来ていなかった。更にその後、少女が「お爺さんに聞いてからにしようとしたけど」と言っている。つまり老人も、男には会っていない」

「でも女は薬をあげたって言ってたぞ」

「直接薬をあげたのなら、部屋ぐらい覚えてるだろうよ。多分、先に着いていた兄妹から「具合の悪い男」の話を聞いて、二人のどちらかに薬を渡したんだ」


 煙草の煙を天井に向かって吹き上げた後、カルナシオンは自分のシガレットケースをスイに差し出した。

 一本受け取ったスイは、カウンターに置かれたマッチを手に取り、火をつけた。


「おかしいのは荷物だ。あんたがブーツを暖炉の前に置いた時、自分のを含めて五つだと言っていた。それに山小屋を出る時に残ったのは、老人の荷物だけ。そいつの荷物は何処に行った」

「部屋の中に持ち込んだんじゃねぇの?」

「風邪気味を装う男が、濡れたままの靴と服で部屋で寝るのか?クローゼットに吊るしたなら、濡れた跡や汚れぐらい残ってるはずだ。逃げる時にそんなのわざわざ拭く奴はいないからな」


 スイは混乱する脳を落ち着かせようと、忙しなく煙草の煙を吸いながら考え込む。


「男がいるように装って、罪を被せたってことか?」

「だろうな。被害者にしたって、おかしい。山小屋に入る直前で殺された男が、顔も手も泥だらけになるなんてことは考えにくい」


 灰皿を手に取り、カルナシオンは煙草の灰を指で落とした。


「思うに、男はずっと前に兄妹によって致命傷を負わされた。だがまだ息があったんだろう。自力で山小屋まで辿り着いたんだ。兄妹が被害者を見て怯えていたのは、殺したはずの奴が生きていてビックリしたせいだろうな。でも無事に目の前で事切れたので、安心したってわけだ」

「それで自分から推理を始めたってのか?」

「本当は、そのまま翌朝まで過ごして、男がいないことを騒ぎ立てるなりなんなりするつもりだったんだろう。その後で死体が見つかれば、殺されたのはそのいなくなった男ということに出来るからな」


 だが、とカルナシオンは咥え煙草で続ける。


「被害者が山小屋に来ちまったから、急遽「男」を犯人に仕立て上げたんだろう。女によって追跡魔法による殺人だってバレちまったからな。下手に隠すよりは利用しようと。あいつららしい考え方だ」

「そういえば知り合いかもって言ってたな」

「よーく知ってるよ。行動力だけは無駄にあるから、警戒しろって言ったんだけどなぁ。無駄だったか」


 スイは「ふぅん」と相槌を打ちつつ、煙草を吸っていたが、ふと思い出すと顔を上げた。


「あれ、ちょっと待てよ。俺、あの女の子が男と会話してるの聞いたぞ。あれはどうやったんだ?」

「ん? あぁ、それは……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る