8-8.片割れの行方

「あぁ、彼なら昨日来ましたよ。人のいない時間帯だったし、何だか物凄く幸せそうに食べてたから覚えてます」


 軽食スタンドの店員がそう答えるのを聞いて、アリトラは顔を輝かせた。

 幼い頃から常に一緒にいたアリトラは、片割れのことを誰よりも理解している。リコリーが真面目すぎることも、仕事は早く終わらせようとすることも、そして終わった後に小腹が空くであろうことも。

 リコリーが書類を届けに行った店から、一番近い飲食店は其処しかない。しかも表にある看板には、中央区では見ない食べ物が宣伝されている。アリトラ同様に食い意地の張っているリコリーが食いつかないわけがない。


「お兄さん、このあたりに新しく出来た古書店知ってる?」

「古書店? うーん、ちょっと記憶にないですね」

「じゃあ、この住所は?」


 メモに書いた住所を見せると、男は首を傾げながら考え込む。


「細かいことはわからないけど…多分ここから大通りに戻って、西を見ると「三番街通り」っていう通りがあるから、そこにあると思います」

「ありがとう」

「見つかるといいですね」

「見つかったら、今度は一緒に食べに来る」


 人のいい店員に別れを告げて、アリトラは駅に続く大通りへと引き返した。

 中央区と比べると西区はこれといって大きな建物はなく、諸外国から来た観光客も訪れないような場所である。

 だが、昔から西区は食文化が栄えており、流行の食べ物の大半は西区から発信される。大通りにも食品関連の店や企業が立ち並んでいて、それぞれの派手な看板が不思議な光景を作り出していた。


「こんな時じゃなかったら、色々見るんだけどな。今度リコリーに付き合ってもらおう。アタシに心配かけた罰」


 三番街通りは大通りの丁度中心あたりから西に伸びる道だった。

 広くもないが狭くもない、ごく普通の道であり、疎らに店はあるものの商店街と呼ぶには閑散とした場所だった。

 少し傾斜のある道を進んでいくと、赤茶けたレンガ作りの建物が現れた。


「………此処かな?」


 入り口に置かれたオブジェに店の名前があることを確認する。営業時間を見ると、まだ開店して間もなかった。

 駅から極端に離れているわけでもないし、迷いやすい場所でもない。軽食スタンドから此処までの間に、他にリコリーが立ち寄りそうな場所もないことから、アリトラは迷いもなく店の扉を押した。

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