7-10.父親似
翌日の朝、昇りかけた朝日が建物の隙間から地面を照らすような時間帯に、一人の男が列車を下りる。魔法と機械仕掛けの列車は人々を吐き出してから、同じような人数を飲み込んで、緩やかに発車した。
マズナルク広場の街灯はまだ灯っていて、それが朝日の明るさと拮抗している。
「やぁ、お早いお着きだね」
広場を横切って、自分の店がある商店街に入ろうとしたホースルは、その言葉に立ち止まった。
商店街の入り口にある古びたポールに寄りかかっていたミソギが、軽い調子で右手を振った。
「これはクレキ中尉」
「外国まで出かけてたんだろう?ご苦労様だね」
「荷物は受け取れましたか?」
「うん、双子ちゃんがしっかりとやってくれたから」
「そうですか」
「それより大変なことがあってね」
「大変なこと?」
聞き返したホースルにミソギは静かな口調で返す。
「仕立て屋のご主人が新聞記者に殺されたんだ。カルナシオン・カンティネスが捕まえたんだけどさ、最初に謎を解いたのは双子のお兄ちゃん」
「またあの子たちは、変なことに首突っ込んで……」
「新聞記者が言うことには、スクープが欲しかったらしいよ。フィンは平和で、大きな事件何て滅多に起きないからね。仕立て屋のご主人がそんなことを言ったせいで、いい記事が書けなくてノイローゼ気味だった新聞記者に殺されちゃったというわけ」
「はぁ」
返答に困ったホースルは、気の抜けた声を出した。その様子を見たミソギは肩を竦める。
「詳しいことは双子ちゃんに聞けば」
「そうします」
これ以上立ち話をしたくないとばかりに、ホースルは話を切り上げて歩き出した。しかしすれ違う瞬間にミソギが愉快そうに声を出す。
「リコリー君は父親似だね」
「………は?」
「家族に似てないって気にしてた」
「何か言ったんですか、あの子に」
「俺は言ってないけど、あそこまで似てるとそのうち厄介なことになると思うよ。髪型変えれば瓜二つだ」
ホースルは何か言おうと口を開き、しかしそのまま黙り込む。
「俺は双子ちゃんは好きだから何かあったら助けてあげるよ」
「………あの子達の父親は俺だ。助けてもらわなくても、自分で護る」
「そりゃそうだ。大人のエゴで子供を傷つけちゃいけないからね。まぁ、せいぜい頑張りなよ」
ミソギの言葉に返答はなく、ただ去りゆく足音だけが残った。
そして残されたミソギもホースルの行方を見ることもなく、朝日が昇る中を去って行った。
End
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