4-4.商売人は逞しく
数日後、店の買い出しで商店街に出向いたアリトラは、ライツィの店の前で主婦たちが賑やかに集まっているのを見かけた。いずれも手にパスタと、何かの紙を持っている。
ライツィは喜色満面でその中にいたが、アリトラに気付くとわざわざ外に出て来た。
「よぉ」
「なんか忙しそう。犯人捕まった?」
「あぁ。お前が言った通りだった。マズナルク広場の定食屋の孫息子」
「どこ?」
「魔女の爪の二軒隣。ずっと前からある老舗だけど、知らないか?」
「外食あまりしないから」
「それもそうか。お前が「イカ墨パスタのあるお店」って言ったからすぐにわかったよ。見張ってたらさぁ、イカ墨ベットリ手に付けた子供が出てきて、うちの店に走っていくから追いかけたんだ。そしたら案の定、あの袋をギューって握ってた」
その時のことを思い出しながらライツィは笑みを深める。
「後ろから捕まえて怒鳴りつけたら、びっくりして泣いちゃったのには参ったけどな。まぁお前が言う通りなら悪気はないんだろうし、そのままぶら下げてその子の家まで連れて行ったんだ」
「悪気がないなら下ろしてあげればいいのに」
「一度掴んだ手前、下ろすのもカッコ悪いだろう。店の裏に回って、父親呼んだんだ。表で呼びつけるのは可哀想だし」
「それで?」
「出てきたのは父親じゃなくて爺さんだったけど、いやー、驚いたなんてもんじゃなかったな、あの顔は。目を白黒させてた。けどさ、お前に言われてたから、俺が先に子供に聞いたんだ。なんでそんなことをしたのかって。そしたら「お店のパスタは黒いから」だってよ」
「やっぱりね」
予想が当たったアリトラは嬉しそうに手を叩く。
「あの黒いのはイカスミだった。手形をよく見ると、スパゲティを覆うようにしてたから黒いパスタにしたかったんだと思う。その子にとっての「お店」は自分の家で、そこのパスタは真っ黒だからね」
「色が間違ってると思って直そうと思ったんだとよ。パスタが売れている時についてたのは、沢山入っている時だと絵柄が見えないから直そうと思わなかったようだな。子供ってのは単純だから、目に見えないものはないのと一緒って考える」
しみじみとした口調で言った幼馴染に、アリトラは思わず笑った。
それで?と促すとライツィは一度店の方を確認してから続けた。
「今後はやらないと約束させて、俺としてはそれでよかったんだけど、その子の爺さんが納得しないんだ。何かお詫びをさせてくれって。だからレシピを貰ったんだ」
「お店のレシピ?」
「ちょっとアレンジしてもらったんだ。うちにある食材で作れるようにな。その材料をそろえて買えばお得な割引が発生する」
その結果は、店先の賑わいを見れば明らかだった。客はレシピを舐めるように見て、食材を次々と手に取っている。
「よく考えるね」
「商売人だからな」
得意気に鼻を鳴らしたライツィは、客に呼ばれると慌てて意識をそちらに戻す。
「アリトラ! 今度お前が好きなジャムとリコリーが好きなウインナー届けるから!」
「ありがとう、楽しみにしておく」
アリトラは手を振って相手を見送ったあと、自身も上機嫌で歩き出した。
END
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