7話 場所探しと僕の焦り─透

 空は少しずつ茜色に染まっていく。青色から茜色。二つの色は混ざり合う。まるで紫陽花のような紫色だった。梅雨を思い出していた。

 今日も終わりを迎えようとしている。様々なことがあり、久しぶりに充実した。透は彼女と、自殺をするための旅をするとは思ってもいなかった。だから充実していた。

 いったい、歩き始めてどれくらいの時間が経ったのだろうか。あれほどしつこかった蝉の声は、いつの間にか聞こえなくなっていた。他の音は一切聞こえない。静かだった。

 ただ、この静けさがこれからなにかが起こる。そう伝えているようだった。しかしそれは、透には分からなかった。

 ポツン─

 すると、透の頭に水滴が当たった。上を見る。けれど、そこには夕焼けが広がっているだけだった。水滴が降る要素は一つも無かった。

 透は不思議に思った。こんなことは今までに一度もなかったからだ。こんな自然現象は初めてだった。


「急に上なんか見てどうしたの。……珍しい鳥でもいたりした?」

「鳥なんていないよ。ただ、水が頭に当たったから雲でもあるのかなって」

「気のせいじゃないの。晴れてるし、雲なんてないし、雨なんて降ら………冷たっ」


 ポツン─

 そう言っていた彼女にも水滴が当たったようだった。


「ほら、水当たったでしょ」

「うん。けどこんなに夕日綺麗なのに………雨でも降るのかな」

「そうかもしれないよ。とりあえず降ってくる前に、雨宿りできそうな場所でも探そう」

「そうだね」


 彼女と雨宿りする場所を探す。線路から外れて、舗装されていない道路を歩く。砂利道で、なんとなく重心がずれる。

 その間にもポツン、またポツン。水滴は降っていく。先程よりも量が増えている気がする。

 これは本格的に降る前に見つけないといけない。透はそう考えていた。もしも服が濡れたりしたら、着替えがないためそのままでいないといけない。それに、風邪をひくかもしれない。

 この考えは彼女も一緒だろう。もしくは似ているだろう。先程よりも歩くスピードが上がっていたからだ。

 砂利道を歩く。

 ポツン─

 辺りを見渡す。

 ポツン─

 砂利道をまた歩く。

 ポツンポツン──

 辺りをまた見渡す。

 ポツンポツン──


「ねぇ、あそこは?雨宿りできそうだよ。凄いボロいけど……」


 前を歩く彼女がピンと指をさす。

 その指先には古びたバス停があった。全体的に古びていて、いかにも壊れそうだが屋根がある。雨宿りをするにはとてもいい場所だ。


「ほんとボロボロだね。けど周りになんもないし……とりあえず、早くあそこに行こう。雨も強くなってるから」

「うん、そうだね」


 空は紫色のまま。まだ夜には程遠い空だった。それはとても神秘的で、この世のモノだとは思えなかった。

 それでも、雨は少しずつ増えていく。身体はずぶ濡れまでとはいかないが、微妙に濡れている。

 音に例えるならば、ポツンポツンからザアザア。まるで、深夜のテレビで見る砂嵐ような音。どこか気持ちが落ち着かなくなる。


(早く止めばいいのにな)


 透がそう思うには理由がある。しかしそれを彼女は知らない。それは当たり前だ。透は彼女に一つも喋っていないからだ。もしもこれで彼女が知っていたら、超能力者かなんかだ。

 透しか知らない理由がある。とても大切な理由が。それを考えると不安になる。果たして間に合うのかと。


「ほら、急がないとびしょ濡れになるよ。早く早く」


 すると、先を歩く彼女に呼ばれる。手首を上下に動かして手招きもしている。まるで招き猫のようで、透は彼女に向かってしまう。


(今は止むまで雨宿りするしかないな。風邪にでもなったら大変だし)

「今から行くよ」


 先程まで考えていたことを頭の片隅に置き、急いで彼女のもとに向かった。

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