8 結果から言えば。

「あれ?」


 時刻は午後4時。

 朝から昼の間に色々あったわけだけど、ギリギリ明るい時間の内にもう1度400mを測っておきたいとの事で、素直に走った次第。

 ギリギリ明るい内に、などとは言うものの、実の所明るさなんて魔法でどうとでも変えられる。火の魔法で松明みたいに炎を並べればラインは見えるし。単純に光の魔法で上空に光源を作ればもっと楽。火の光なんて、それはもう簡単に再現できてしまう。

 とはいえ、一応此処は帝国や他の地域に対して場所を秘密にしているから、おいそれとそんな事は出来ないか。そんな事をすれば一発でこの場所の事がばれてしまう。そうなれば帝国の事だ。ほんの少しでも土地を広げたいだろうし、森なんて自然の塊は格好の餌場にも見えてしまうだろう。

 この場所を守る守護班が、どれだけ1小隊倒せるほどの実力者がいようとも、1つの国を敵に回せば確実に破壊されるのは間違い無い。

 と、そんな心配事は、ひとまず置いてといても大丈夫だろう。少なくとも、偵察だろうが何だろうが帝国の兵士。……えぇと、1つの隊につき最低4人、最大12人で編成されているはずだよね。それを難無く、というかいとも簡単に倒しちゃうような人がいるわけだし。

 正体が割れる前に、森で調査隊を全滅させて、その間にこの場から移動してしまうだろう。心配するだけムダなような気がする。


「わー、凄いです。400mで3秒。速いですねー」


 1秒切る人が比較的多いとの事で、チェリーは僕の出した過去最短記録を軽い感じで受け流す。

 目が笑っていないけど。


「えぇと。400mを走りきれた事の方が凄いかもしれないのだけれども」

「あ、はい。凄いです。色々」


 色々って何?!


「はい。この調子で色々調べたいので、じゃんじゃん走ってください」

「え、えぇー……」


 チェリーの冷めた目がそれて、僕は指定された位置に付く。

 何があったのか知らないけど、午前は300mで倒れていたはず。なのに、今は400m走り終えても汗が全く出てこない。ほんの少し心臓がドキドキしているくらいで、疲れたとかでは全く無い。明らかに先程とは何かが違う。

 何か、が何かは分からないけど、やはり、チェリーとクロアさんの会話に何かヒントがありそうだ。

 けど、肝心な部分が聞こえなかったから分かるわけが無いか。

 ……でも。

 僕自身の力を抑制する何か。それがある、とクロアさんは言っていた。そしてそれを取り除く為に、失敗すれば僕諸共廃人になるかもしれない魔法を使うとも。

 此処に僕がいてクロアさんがいないのは、とりあえず魔法は成功したけど、その魔法に魔力を使いすぎたから、とかなのだろうか。

 そうだと、良いな。

 何をされたのかは全く分からないけど、感謝しなきゃいけないのは分かる。


「あ、クロアさん」

「!」


 チェリーの声が向かった方へ、顔を向ける。

 そこには、午前より眠そうな顔をしたクロアさんが立っていた。僕とお同じ黒髪黒目。右目の下に、星型のホクロ。いや、アザかな。が、ある。


「あ……」


 そういえば黒髪黒目って、帝国では僕以外にいなかったような。皇帝陛下と、その実子である皇子もそうだと聞いたけれど、帝国では珍しいゼポーネという種族のものらしい。

 ゴーグルで分かりづらいけど、僕と同じような髪型だし。

 ……あれ。何か、凄く親近感が沸いてきた!


「? 何」

「あ、あ、ぉ。その。あ、ありがとうございました!」

「え」


 イキナリ言われて驚くクロアさん。そんなに目を見開いてはいないけども、若干瞳が小さく見えるので、多分本人的には目を見開いて驚いている、はず。

「いや、何と無く、ありがとうって言わなきゃならないのかなって思って! で、その。黒髪黒目で、親近感が沸くなぁって」

 って、そこまで言う必要は無いだろ僕?! もしかして緊張していたのか? 自分でも気付かない内に、緊張しちゃっていたのか?

 うぁ、頬が熱くなるのが自分でも分かる・・・・っ。


「……確かに、帝国ではかなり珍しい。俺以外で一般人にはいないと思っていたけど」

「えっ。クロアさんって、帝国の人だったんですか?」

「……言っていなかったか」


 驚かされ返された。


「まぁ、貴族にはいるらしい。他の国でも、ゼポーネ種の人間は結構珍しい。黒髪黒目は更に珍しい」

「へぇ~」

「あぁ、そうだ。ゼポーネ種の人間なら、知っておいて損は無い知識がある。聞いておけ」

「えっ」


 何だろう。この目、あの某教師の目と似ているような。


「一応、ゼポーネ種の遺伝子は、他の種族の遺伝子と比べた際に驚愕すべき特徴が存在する。ゼポーネ種の子孫が必ずゼポーネ種の人間になるというデータが存在しているのだが、それに対して特に理由を詮索していない者が多かった。これまで解明されなかった事実の1つだったのだが、帝国の科学と魔法による実験の積み重ねで、とある1つの事実が浮かび上がらせる事が出来たのだ。実はこのゼポーネ種の黒髪黒目を含む僅かな外見的特徴が、ゼポーネ種の人間に数多く遺伝され続けていた。しかし、決まってゼポーネ種ではない方の親から、髪質や肌色、体型や病気などを遺伝される子供の割合が90%だった。性別はさすがに遺伝ではないから良いとして、髪の色と身体に現れるアザなどの特徴などは、おそらくゼポーネ種が生まれてから一度たりとも変わっていないだろう。しかし、黒髪黒目以外の特徴がゼポーネ種ではない方の親から受け継がれる事から、つまりはゼポーネ種のもつ遺伝子は容姿や骨格などの一部を除く遺伝子に関しては常に、優劣で言う劣。劣っている存在なのだよ。ちなみにゼポーネ種が持つ身体能力はこれもまた驚異的だ。エドもアザなどの特徴はないが、ゼポーネ種である事は間違い無いと思うから、この機に色々調べたかったのだよ。実は俺自身、俺以外のゼポーネ種を見るのも初めてだから都合が良いなと思っただけなのだが、いや、エドも『邪魔物』が無くなれば面白いほど俺と同じような感じだな。多分年齢的な差もあるだろうがこれはこれからが楽しみだ。あぁちなみに、ゼポーネ種は別名アスター種とも呼ばれる種族でね。というよりも、そちらの方が正式名称である上、世間ではアスター主という呼び名の方が広まっている。これは余談ではあるがアスター種には致命的な欠点も……あれ?」



 あれだ。うん。

 嫌な予感って当たるものだね。

 興味深い話ではあるものの、ついつい眠くなる話ってあるよね!


 ……ね?

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