6-16

 そうしてさおりが話し出したところから、これまであたししか知らなかったこと、それぞれが断片的にしか知らなかったことどもが、ひとつひとつみなの共有知識としてまとまっていった。


 何しろ、「んーとねぇ、最初に言わなきゃいけないのって、ナンだろ。……みずきさぁ、もえぎがシトリンで、あいつとバトったことあるって言ってたんだけど、ここらへんてみんな知ってんの?」さおりは簡単に、たったひとことで話の核心のひとつをぶち抜いてしまった。


 シトリンの正体には気づいていたものの、よもやそんな状況とは知らなかったゆきのがびびっと背筋を伸ばした。もえぎをゆきのの友人としてしか見ていなかっためぐみが目を丸くした。サンフラワーはというと、「あぁ、やっぱりねぇ、そんなこっちゃないかと思ってたんですよねぇ」さもありなんとあっさり肯いた。


 彼は日頃の監視名目の覗きで冷戦状態にある状況を知っていた(「アンタねぇ、いーかげんにしときなよ!」とさおりに怒鳴られたことはさておく)し、あたしとシトリンが戦った事実にも気づいていたから、実際のところ、状況を最もよく把握していた。話のうまくないさおりの言葉を受けて、情報をまとめていったのは彼だった。


 ゆきのは終始うなだれていた。


 「……気づいてはいたんです。私、彼女に自分と同じものを感じたんですよ。その『同じもの』が何なのか考えたとき、答えはひとつしか見えなかった。彼女は生きていなくて、これまで生きたこともなくて、かりそめの命を与えられたことが嬉しくてしかたないのだと。でも私、それでもかまわなかった。


 私、間違ったことをしたとは思っていません。みずきさんが間違っていたとも思いません。誰もあやまたないのに、人は傷ついたり傷つけられたりするってことを、……私が信じたくなかっただけです。


 ───それが、こんなことになるなんて……」


 「『こんなこと』にしたのはクリスタルです。あなた方ではありません。シトリンでさえ、おそらくは被害者みたいなもんです」サンフラワーはすっぱりと言った。「みずきさんとシトリンが反目し、戦闘になったのはわかりました。ではさおりさん、そろそろ本題に入りましょうか。問題は、なぜそこにクリスタルが関わってきたか、なんです」


 「んーとねぇ、」サンフラワーに促されたさおりは、片手を頬杖にして、少し考えてから言った。「……すっっっごいドレス。ちょっと汚れてたけど。油で」


 「……はい?」


 さおりの言葉は、肝心なところがいくつも欠け正確な伝達というにはおぼつかず、解析にはやや時間がかかった。とはいえ、クリスタルがあたしに翻意を迫ったというおおまかな事実が伝われば、詳細な理由や過程をサンフラワーが的確に推測するのは難しくなかった。


 「なるほどね」およそすべてを察したサンフラワーは、やがてくっくっくとらしからぬ不敵な笑いを見せた。


 「……な、何笑ってるの?」めぐみの問いにサンフラワーは答えた。


 「だっておかしいじゃありませんか。クリスタルのヤツ、自分で自分の墓穴を掘ったことにまるっきり気づいていないんですから」サンフラワーは立ち上がった。「さぁ、湿っぽい話はここまでです。最終決戦の準備にかかりますよ。


 クリスタルたちは、資源を宇宙に送り出す準備をすべて整えています。彼らは今夜のうちに地球から去るでしょう。それまでに、こちらから仕掛けなくてはなりません。みずきさんの修復が完了次第、動きますから覚悟してください。


 ……ゆきのさん、めぐみさん、さおりさん、今すぐトレーニングルームに入って、ヴァインの最終調整とシミュレーションです。速やかに使用法をマスターしてください。そして、来るべき戦いにどう対処するか、それぞれよくイメージしておいてください」


 「あんた、その間見てるだけ?」さおりが尋ねると、サンフラワーの答えはこうだった。


 「僕はこれから、クリスタルを倒す武器の製作に取り掛かります」


 「そんなのあんの?!」さおりが驚いて言った。「あんだったらなんで最初っから作っとかないのよっ!」


 「これからでないと、作れないんですよ」サンフラワーに貼りついた不敵な笑みは、宿敵追いつめたり、という高揚感に満ちていて、悪意さえ含んで見えるほどだった。「さっき、ケンカや混乱を待っていたと申し上げました。なぜなら、精神体にダメージを与える武器を作るためには、それが必要だからです。


 クリスタルの介入は、みずきさんの心理に混乱を呼び危機といえる状況まで追い込んでしまいました。……みずきさんが抱いた苦悩と葛藤、そして、そこから彼女が自身の意志で目覚めたとき、クリスタルに突き刺さる最強の武器が鍛錬されるのです。……そのときまで、もうしばらく待ってあげましょう」

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