6-15
ここからの話は、ゆきのからの又聞きになる。まぁ、ゆきのの観察眼は確かだから、間違っていることもないと思う。
あたしの体からアースクリスタルの衝撃が消えたのは、あたしの体が失われたからではなかった。めぐみとさおりが到着したタイミングで、フライングローズもその場に到着していたのだ。サンフラワーが素早くその場に下りてきて、ブルーローズの作った防壁の小型版……といっても、ローズイージスよりはるかに大きく、交差点一帯を完全に二分する防壁を作り出し、アースクリスタルをすべて遮断した。
サンフラワーはあたしを背後から抱きかかえた。それから、延髄かどこかを殴ったか、それとも彼だけが知っているドラえもんの尻尾みたいな非常停止スイッチがあるのか、ともかくあたしを昏倒させた。そのまま、いわゆるお姫さま抱っこで抱え上げると、さぁ一度引き揚げますよと、直ちに全員に撤退を命じた。有無を言える雰囲気ではなかったという。
サンフラワーの作り出した壁は強固で、クリスタルの追撃はなかった。とはいえ、その壁はクリスタルにかかればものの一分で破壊される代物だそうで、だからサンフラワーは撤退を急いだらしい。
一瞬だけサンフラワーとクリスタルは、壁を隔てて睨み合った。
「いいところなんだがな」クリスタルが言った。
「すみませんね、邪魔立てして」サンフラワーがにっこりヒマワリ顔で微笑んだ。そしてすぐ冷徹な表情に変わる。「けどこちらとしても、ローズフォースを簡単に壊されるわけにはいかないんですよ」
「おまえらにとっちゃ、ただのモノだろ? ずいぶん大事に扱うんだな」
「そういう性分なもので」
サンフラワーは踵を返した。その場を立ち去ろうとし───最後に、クリスタルに背を向けたまま言った。
「あぁそうだ───ひとつあなたには伝えておいた方がいいことがあります」夏の暑さにうだった役所の窓口のように。「あなたに大きい顔をさせておくのもそろそろ終わりです。すべて自分の思い通りになるなんて、ゆめゆめ思わないことです」
「そうかよ」クリスタルはちっと舌を打った。「まぁ、せいぜい首根っこは洗っておいてやる。だが、わざわざ首切り役人のお越しを待つつもりはないぜ」
「それはブルーローズ様のことを言っていますか? ───いいえ、クリスタル。その言葉でわかりました。あなたはいろいろな言葉を投げかけて、けれどその言葉の重さを知らない。……何もわかっちゃいないんでしょう、本当は」
サンフラワーは、ちらとだけ振り向いた。
「クリスタル! あなたの首を切るのはこの子たちです。ローズフォースがあなたに引導を渡します! そう───念入りに首を洗っておくがいい!」
そうして、サンフラワーはみなを引き連れて、クリスタルの前から去った。
……その間、あたしはずっとサンフラワーの腕の中で、みどりごのように縮こまって抱かれたままだったというのだ。気を失っていてよかったと思う。かなり男冥利なシチュエーションで、逆にあたしは赤面ではすまなかったろう。さおりなどには後からもだいぶからかわれたものだ。
フライングローズに戻ると、サンフラワーは全員の変身を解除した。「Falling down, Rose Force」全員が戦闘形態から人間の体に戻り、あたしの体もリセットがかかって見た目には元に戻ったが、あたしは目を覚まさなかった。修復作業をするのだといって、サンフラワーはあたしの体を、例の液体の入ったカプセルに放り込んだ。
メンテナンス後の保健室には、しばらく重い空気が漂っていた。
「みずきお姉ちゃん、大丈夫なの?」
「処置が早かったから、大丈夫だと思います───」サンフラワーは、泣きそうな顔のめぐみを見て、言い直した。「いいえ、大丈夫です。みずきさんは僕が必ず元通り修復します。安心してください」
サンフラワーは、めぐみの表情が元に戻るまでヒマワリ顔でいた。だがやがて、一転厳しい顔になった。
「だからこそ」サンフラワーは腕を組んで言った。「どうしてこういうことになったのか、ワケが知りたいんですけどね」
三人は押し黙った。
「責めるつもりはありません。まったくありません。むしろ僕は、こういう混乱が起きるだろうと思っていました。混乱の予兆をいくつも感じていましたが、それをあえて放置していました。……ただ、そこにクリスタル本人がつけ入ってくるとは思っていませんでした。ヌガーと戦った後に彼が出てきたことを考えれば十分予測しえたはずなのに。迂闊でした」
「どういうことですか?」ゆきのは驚いて言った。
「端的にいえば、あなた方をケンカさせたかったんですよ。というより、あなた方の性格はバラバラですから、必ず一度はなるだろうと思っていました。そのときを僕は待っていました」
「じゃあ、」めぐみが絶句した。「……ひどいよ、それ! たいへんだったんだからぁ!」
「ケンカしてほしいからやってください、って言ったらできるんですか? できないでしょう? ───それより、なぜクリスタルがつけ込んでくる事態になったのか、教えていただけませんか」
またみなが押し黙るかに見えて、「はぁい」そこで手を挙げたのは、さおりだった。「ほんとうは黙ッテロって言われてんだけどさ。ま、そーも言ってらんないよね」
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