2-05
「それじゃあ、自己紹介しましょう」
あらためて、サンフラワーをじっくりと眺める。いつもにこにこしている、ほんとにヒマワリみたいなヤツだ。顔のかたちは卵形でまん丸というわけではないが、にやけ笑いにも見える目鼻立ちがヒマワリなのだ。つまりはサングラスをはずしたフラワーロック。目が細くて鼻が小さく、顔のパーツを絵で表すのに、曲線三つで事足りる。
顔の形が卵形とはっきりわかるのは、硬そうな髪を短めに切りそろえているからかもしれない。あれで髪を染めていれば───いや、あたしたちやブルーローズと同じように変身して髪が黄色になるなら、ヒマワリそのものになるんだろう。ついでにあごひげも生やしちまえ。
服装は裾の長い白衣だ。その下は、薄く細い縦縞の入ったワイシャツとスラックス。なんていうか典型的理系人間、格は研究助手か講師ってところだろうか。コーディネートがどうでもよさそうなところも、まことに理系らしい。
「僕はサンフラワー。ブルーローズ様があんなことになっちゃったんで、僕がみなさんの管理監督責任を負うことになりました。どうぞよろしく。何か問題があったら僕に報告してください。普段はフライングローズにいますが、みなさんがもう気づいているこのスクリーン」サンフラワーは例の膜のようなテレビを叩いた。「通信機能もありますので、呼べばすぐ出ます。必要であれば、僕ら精神体は短距離なら肉体つきでもワープ可能なんで、ここに文字通りすっ飛んできますから、いつでも呼びつけてください」
ワープ。えらく簡単に言う。そんなに簡単なものなのか、アインシュタイン? まぁ、彼らのなすことに今さら驚くのもせんない話か。要は、ここに彼が、あるいはあのときクリスタルやシトリンが空気を歪めて現れたのは、彼らには空間を瞬間移動する手段があるからだ。後から聞いた話だが、脳みそが生体である関係上、あたしたちには瞬間移動はできないという。ちょっと残念。
「で、さっきの質問。僕は敬語を使うべき立場だから使っています。僕とブルーローズ様の関係は、いちばん平易な言葉を使えば『親子』になるんです」
「親子ォ?!」さおりが素っ頓狂な声をあげた。「『きょうだい』ってカンジじゃん?」
「血縁を表したかったのではありません。正確には『上位精神体』『下位精神体』と呼んでください。
我々精神体は多重人格者のようなものだと、昨日お話ししました。ただ、この多重人格というのは、人間のそれとは少し違います。なぜなら、強力な人格は、別の人格を作ったり消したりすることが可能なんです。僕は、ブルーローズ様によって作られた人格なんですよ。作った側が上位精神体で、作られた側が下位精神体。上位精神体は下位精神体の生殺与奪をすべて支配します」
「難しくてわかんない」さおりが言った。
「つまりですね」ゆきのがぴっと指を立て、思いっきり噛み砕いて説明してくれた。「サンフラワーさんはブルーローズさんの下僕なんです」噛み砕きすぎて粉々だ。
「じゃ、ムチ? びしびしって? おねーさんに?」他人の話の聞き所を知らないさおりは、ブルーローズとサンフラワーが姉弟だと思い込んだようだ。んでもってその目の中に興味津々できらきら浮かぶのは、攻めるあね受けるおとうとイケナイカンケイってところか。反応できる部分とできない部分が実にわかりやすいヤツだ。「あたしさぁ、二ヶ月くらいそーゆーとこでバイトしたことあるんだけど」
「叩かれてません」サンフラワーはぴしりと言った。「話を元に戻しますよ。えーと上位下位の関係ですが、下僕は確かに近いかもしれません。血縁で説明するなら、人間の親子ではなくて会社の親子関係を想像してください。親会社と子会社。子会社は親会社のために働きますが、業績が悪くなれば切られるだけ、ということです。そして僕は、『粒子プログラマー』としてブルーローズ様のために働くようブルーローズ様によって作られた、ひとつの下位精神体です。
昨日クリスタルに従っていたシトリンも同じです。クリスタルのために働くようクリスタルに作られた、戦闘用の下位精神体というわけです。あぁ、ですから、彼女とあなた方の戦闘形態は似た姿をしていますが、装甲に使う素材やデザインが同じというだけで、根本の存在意義が異なることをご理解ください───彼女は『兵士』で、あなた方は『兵器』です。
粒子プログラミングについて説明しましょう。地球の化学ではクォークより小さい単位の粒子は発見できていませんが、我々の科学は、クォークを構成する粒子、その粒子を構成する粒子、そのまた粒子を構成する粒子……という流れが永遠に続くことを証明しており、また、物質を構成する最小単位である分子をクラス
特にクラス
さおりがぽかんと口を開けてしまった。興味津々だったはずが、あっという間に許容範囲を超えてしまったらしい。
あたしだって同じだ。何のことやらさっぱりだ。小難しい話になると耳が自動的に拒んでしまう。「……どういう意味だ?」あたしは熱心に聞いているゆきのに訊いてみた。
「つまりですね」ゆきのがまた指をぴっと立て、思いっきり噛み砕いてくれた。「私たちが一声かけたら変身できちゃうって状態は、サンフラワーさんにとっては科学的にOKなんです。私たちは不思議人間でも魔法少女でもなんでもないってことです」噛み砕きすぎて今度はふにゃふにゃになっている。クラスなんとかっていう肝心な部分がすっぽ抜けているような気がするが、まぁ、納得した。科学は偉大なんだな。
「試験に出るとこだけノート取っておいてくんない?」ゆきのに言ってみたが、
「他人まかせにしているから大学に落ちるんですよ」にっこり笑ってキッツい答えが返ってきた。
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