Function 1 - Procedure 1 オーバーナイト センセーション
1-01
目覚めたとき、そこは真っ白な部屋だった。
あたしは、薄手のシーツにくるまって、ベッドに横たわっていた。
ここは……どこだ?
見たことのない天井―――まだ夢見心地のままでいたいという欲求に逆らって、慌てて記憶の糸をたぐった。自分は綾瀬みずきで、一九歳。事故ったとこまで、覚えてる。じゃあ、ここは病院か? 違うような気がするがほかに想像がつかない。
壁も天井も白かった。継ぎ目のひとつもない天井には間接光が当たっていて、その白さに陰影を与えていた。だが光源はよくわからなかった。
八畳くらいの広さに、あたしの寝ているパイプベッドだけが置いてあった。窓はなく、外に出る扉がひとつあるきりだ。
目をしばたたかせながら、あたしは体を起こした。少し頭痛がする。
木綿のシーツも、ベッドのパイプも、白い。白ばかりの違和感が頭痛とこんがらかって、なお気分が悪い。白くないといえば、自分の髪と肌だけ……って、あたしゃ素っ裸じゃないか。慌ててシーツをたくし上げて胸を隠してみるが、見ている者がいる様子もない。
シーツを肌から少し離してみて、自分の体を見つめ直した。変わった感じはしなかった。いつもの自分だった。頭痛以外に具合の悪いところはない。すっと二の腕を撫でた。間違いなく、ご自慢の健康美肌だ。変わって、いない。
……ちょっと待て。あたしは、事故ったはずだ。体中に傷と痛みがあるはずだったが、まるでない。何よりあたし……首の骨が、折れたんじゃなかったっけ……。
ここはどこだ? 本当に病院か?
もしかして、二年とか三年とか、めっぽう長い時間意識を失ってたんだろうか?
しばらくごちゃごちゃ考えて、それから、考えたって何もわかりゃしないって気づいて、髪をくしゃくしゃかき回した。襟足を刈り上げるくらい短くしたショートヘアはたいして乱れない───クセッ毛で、ハネてばかりの前髪もいつも通りで、すぐに元に戻る。
まさか、死後の世界じゃあるめぇな、と、やがてあたしはひとりでにやにや笑っていた。そんな自分に気づいて、少し安心した。
やっと冗談を思いつく余裕を取り戻したなと―――どうも変なトコに放り込まれたみたいだけど、これからどんな展開になっても、自分らしい立ち回りはできるんじゃないかって、思った。……思っただけだった、ってことを、あたしはすぐに思い知ることになる。
ともかく、気持ちも体もちゃんと動くようだから、ここでぼさっとしてるのもなんだ。看護師か医者か呼びに行って、説明してもらおう。
あたしは自分の頬を両手でぱぁんと叩いて、よし、と一発気合いを入れると、シーツを体に巻いて、ベッドから下りた。
すると、どこにスピーカーがあるのか、男の声が部屋に響いた。
「そんなことしなくても、大丈夫ですよ」
……そんなこと、っていうのは、今シーツを体に巻いたことを指すようだ。てことは。
「……見てんのか、てめぇ!」
あたしは、見えないカメラとスピーカーと、どこかにいるであろう覗き野郎に向かって叫んだ。
返事は平然としたものだった。
「元気で何よりです。枕元に、簡素なものですが服がありますから、それを着て扉から出てください」
何様のつもりだ、いったい。しかし、従うしかない。
あたしは、簡素な服を身につけて―――布を二枚合わせて、首と腕を通す穴を空けただけの、本当にしこたま簡素な代物だった。ブラもパンツもありゃしない。
股ぐらがすかすかするのを我慢しながら、あたしはノブを回して、大きく扉を開いた。
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