H4th Hand 夏は水着で危《アブ》バイト! カジノ王に俺はなる?!(前編)

   ここは世界のどこかのお嬢様女子高

   校舎の隅のひそやかな宴



○登場人物


     ☆サクラ

      二年生。ポーカー部部長。天下無敵の魔王閣下。

      あかぶたさん(とってもきがつおい! おこりんぼ)

      人種・民族設定:ワイルドカード


     ☆エルネスタ

      二年生。ポーカー部副部長。冷静沈着なポーカー部の頭脳。

      めたるぶたさん(えたいのしれないやつ つおい?!)

      人種・民族設定:ネグロイド


     ☆グレイス

      二年生。自宅は豪邸のガチセレブ。根は寂しいと死ぬウサギ系。   

      むらぶたさん(きどりやさんで すぐつよがる)

      人種・民族設定:コーカソイド(ケルト系)


     ☆スー

      一年生。いつも朗らかのーてんき。

      しろぶたさん(ほんわかのんびり ひとなつっこい)

      人種・民族設定:コーカソイド(ゲルマン系)


     ☆クリス二等兵

      一年生。なぜか軍人思考、スーを隊長と慕うど初心者。

      きみどぶたさん(むいみに すばしっこい)

      人種・民族設定:モンゴロイド


     ☆ニナ

      一年生。きまじめ一本槍、ポーカー部の良識。

      べえぶたさん(しんけいしつで きがちいさい)

      人種・民族設定:コーカソイド(アーリア系)


     ★タンポポ

      ポーカー部顧問。

      ごぉるどぶたさん(すっ ごぉぉぉぉい!)

      人種・民族設定:ワイルドカード




○1


   寮内の自室でひとり、パジャマ姿でパソコンと向き合うニナ。

ニナ  「(入部3ヶ月……だいぶハンド履歴も溜まってきた。そろそろ意味のあ

     るデータが取れるはず……)」



ニナ  「(クリスはまだまだコーラーね……)」



ニナ  「(グレイス先輩はバリューや相手のハンドを考えない典型……自分が強

     いと思えば安手でオールインしてくるから、わかりやすいフィッシュ…

     …)」



ニナ  「(やはり手強いのはサクラ先輩とエル先輩……でもTPOごとのハンド

     レンジはだいぶ見えてきた。これからはもっとやれるはず!)」

     ふんっっとガッツポーズ。




○2


ニナ  「(でもそのふたりに一目置かれるスーがいちばんスゴい……もはや動物

     的カン……あの性格で超アグレ、バリューに対する貪欲さ……何より…

     …)」



ニナ  「(なんであんなに愉しそうにやれるのかなぁ……)」



   回想。

スー  「『ニナちゃんのベットは、おしゃべりしてないんですよ!』」



   机に突っ伏して考え込むニナ。

ニナ  「(もしかして……ポーカーフェイスのつもりで、私、ネガティブな感情

     が出まくってる?)」




○3


   回想。

クリス 「『寂しくないですか?』」

スー  「『こんど寮に遊びに行きますよ!』」



ニナ  「(……)」



   ニナ、がばりと顔を上げる。

ニナ  「切り替え切り替え! このデータをもとに、夏休みはネットで特訓しな

     きゃ!」



   場面転換、部室。サクラの前に1年生整列。

サクラ 「ポーカー部に夏休みはないっ! 全員強制労働だっ! これは元帥命令

     である、貴様らには服従のみが求められる、反抗は許さん!」

ス・ク 「(敬礼)了解であります、閣下!」

ニナ  「えーーーっ!」




○4


ニナ  「きょ、強制労働って……」

サクラ 「要するにバイトだ、あんまり真に受けるな」



ニナ  「バイトだって、校則で禁止のはずじゃ……」

エル  「建前はそうよ」

ニナ  「建前?」



エル  「この町は観光地だから、バカンスシーズンはどうしても人手が足りなく

     なるの」

グレイス「だから、この時期の我が校の生徒は、貴重な華のある労働力。バイトす

     るなと校長が言っても、市長が許さない」

サクラ 「つまり、あたしらオンナを売ってナンボってことよ」

   ニナの頭が沸騰する。

ニナ  「……っ!」



   パニクってつっかかるニナ。

ニナ  「そんなのダメですよ先輩! もっと自分を大切にしましょう先輩!」

サクラ 「わ、わかった、たとえが悪かった、それは謝る! まず話を最後まで聞

     け!」




○5


サクラ 「まず、ざっくり地理と歴史を説明しよう。この町は海沿いにある。昔は

     軍港だったんだ」

   ニナ、聞いている。



サクラ 「だが平和なご時世になって軍港は大幅に縮小され、町には新たな産業が

     必要になった。そこで人工ビーチをでっち上げて海水浴客を呼び込み、

     観光都市の基礎が築かれた。これがおよそ50年前」

   ニナ、聞いている。



サクラ 「はじめはビーチ沿いに小さな宿泊施設を連ねるだけだったんだが、滞在

     型のリゾートたらんとカジノやショウビズなんでもありでおったてて大

     きく発展、現在に至るというわけさ。あたしらはそういう町で女子高生

     をやってるわけ……ん?」

   ニナの首がこてんと横に倒れる。



   ニナの口から魂が抜けている。

クリス 「ニナちゃんの息がありません!」

サクラ 「そうだこいつ歴史ダメだった!」




○6


   グレイスの執事が現れてみなに紅茶を振る舞う様子、ニナの目も覚め   

   てほっとしている。

サクラ 「で、だ。最初期に建てられたコテージ村が、いいかげん老朽化して、客

     を泊める施設としては不認可になったんだ。オトナの事情で建て替えは

     揉めてて、このままじゃビーチそばの一等地がひと夏の間ムダになる」



サクラ 「宿屋はダメってだけだから、出張カジノにしようって計画が持ち上がっ

     てるんだ。……そのうちの1棟を、あたしらで仕切る」



ニナ  「私たちがカジノ……そ、そんな大それたこと、高校生だけでできるわけ

     ……」

サクラ 「できるさ」



サクラ 「なんたって、女子高生でも働かせたい市長の娘と、リゾート計画で町を

     再興した創業者の曾孫が、ここに揃ってる」

   グレイスとエル、カッコつけてポーズを取る。

ニナ  「そうなんですか?!」

スー  「そして私が『ゲンバのロードーシャ』の孫です!」




○7


エル  「コテージ村全体を統括するのは、カジノ1軒任されてる私のいとこおば

     よ。警備や面倒なお金の取扱は、そっちでやってくれるわ。私たちは接

     客だけすればいい」



サクラ 「メイド喫茶みたいなモンさ。な、オンナを売るたって、てんで安全圏な

     の、わかったろ?」

ニナ  「それでも、私たちだけだなんて……」



サクラ 「(真剣な眼)これこそベットさ。自分で決めて、自分でリスクを取るな

     ら、この世にやっちゃいけないことなんかないんだ」



   たじっとなるニナ。




○8


   背景に2階建てコテージの見取り図。1階に広いリビングとキッチン、   

   2階に寝室。

サクラ 「2階で寝泊まりして、1階のキッチンをバックルームとして使う。そし

     てリビングに3テーブルを置いて客を入れる」



サクラ 「だから6人のうち、ディーラーに3人配置する。残りは、1人がリバイ

     やドリンクサーブの対応、1人は休憩時間に充てるとして、残りの1人

     は……」



サクラ 「プレイヤーだ。客はほとんど全員素人と見込まれるが、ガチ勝負できる

     いい機会だ。存分に腕を磨け」



サクラ 「そんで素人共からガッポガッポ巻き上げてウハウハ……」

   タンポポが突然現れ後ろから教科書でサクラの後頭部をゴツン。

タンポポ「やめなさい」




○9


タンポポ「オーナーさんとはちゃんと僕が話をしてます。学生を賭博に携わらせな

     い、という点は筋を通しました、違法ですからね。みなさんの担当する

     コテージは、チップ購入使い切り制で金銭の還元はありません。あと、

     僕が常駐してちゃんと監督します」

サクラ 「聞いてないよー、儲からない上にセンセの監視つきのカジノなんて、誰

     が来るんだよ!」



タンポポ「スタッフ全員女子高生ってのがウリなんですよ、言わせないでください。

     学校側の僕としては、たとえメイド喫茶ていどとしても、生徒を見世物

     にするような話には反対なんです」



タンポポ「……反対なんです、が……」

   タンポポ、複雑な表情。



   タンポポ、うなだれて言う。

タンポポ「接客は全員水着で、という点は押し切られました」

   スーとクリスが、待ってました、な表情をする一方で、ニナは目が点。   




○10


ニナ  「ムリ! ムリです! 水着で接客とか!」



タンポポ「それが、この町で働く限り、エルさんとこの一族ファミリーにはそうそう逆らえな

     いんですよ……」

   タンポポが困り果てた表情の一方、エルがふふんと胸を張っている。   

ニナ  「(闇社会に売り飛ばされる女子高生の末路?!)」

   目を白黒させるニナ、怪しい黒服の男に下着姿に剥かれている自分を   

   妄想。



ニナ  「だ、だいいち私、スクール水着しか持ってないですよ!」

サクラ 「最高だ。そういう趣味の野郎は多い」

ニナ  「……!」

   ニナの妄想の中の、「剥かれている自分」がスクール水着に変わる。   



   サクラ、タンポポに参考書の角で後頭部をぶん殴られている。

   エルとグレイスがニナをなだめている。

エル  「水着に限らず、必要なものは主催のカジノ持ちだから、心配しないでい

     いわ」

グレイス「なんなら、ウチ専属のデザイナーにお願いしましてよ?」

ニナ  「それ全然慰めになってないです!」




○11


   時間経過描写。バイト開始日、朝。ビーチ近くのコテージの玄関口に、   

   荷物を持って各自が集合。この段階では全員私服。

   まだためらっている様子のニナ。

ニナ  「(け……けっきょく来てしまった)」

   ニナにかまわず、かつ、監督の立場のタンポポを押しのけて、号令を   

   出すエルネスタとサクラ。

エル  「今日は準備日、営業は明日からよ」

サクラ 「さっさと準備終わらすぞ!」



   コテージ内。グレイスがキッチンの蛇口をひねると錆水。

グレイス「聞いてはいましたけど、かなりのボロですわね……」

   床を踏み抜きかけるクリス。

クリス 「ここ、腐ってないですか?!」



   捻りハチマキでふんっと胸を張るスー。



   八面六臂で修繕しまくるスー。

スー  「超やりがいありますぅーっ!」

サクラ 「さ……さすが棟梁の孫……」

エル  「私たちは掃除とセッティング、さっさと手を動かす! 先生は用具の搬

     入!」

   えっ僕? と自分を指差すタンポポ。




○12


   ピカピカになり、ポーカーテーブルの準備も整ったコテージ内を見渡   

   す一同。

   満足げなスー、力仕事にこき使われてズタボロのタンポポ。

サクラ 「すげぇ……半日で終わった……」



サクラ 「みんなよく頑張った! じゃあ、午後はまるっと……」



   サクラ、唐突に服を脱ぐ。服の下は既に水着(デザインはシンプルだ   

   が柄は派手めの三角ビキニ)。

サクラ 「遊ぶぞ!」



エル  「家から着てきたの?」

グレイス「子供か!」




○13


   スーの水着姿。フリルスカート付きタンキニ。

グレイス「わあかわいい」



サクラ 「クリスこそたぶんスク水……」

   クリスの水着姿。競泳水着・水泳帽・ゴーグル完全装備。

サクラ 「そっちか! チョー速そう!」



   壁の陰に隠れて、恥ずかしそうなニナ。



ニナ  「あの……見せなきゃ、ダメですか……」

サクラ 「あきらめろ抵抗は無駄だ」




○14


ニナ  「……こ……これが放送コードの限界ですけど……」

   ニナ、白のワンピース、パレオつき。

サクラ 「いいじゃん、恥ずかしがることねーよ」

スー  「とっても似合ってますカワイイです!」

   深くうなずくクリス(水泳帽とゴーグルは既に外している)。



ニナ  「で、でも、こんな格好で接客したりして、その、あの、レツジョウをモ

     ヨオスとかなんとか……」

サクラ 「そりゃおまえ自意識過剰ってもんだ」

ニナ  「?」



   エルネスタ、黒のマイクロビキニで登場、股のあたりかなりきわどい。   

   グレイス、銀ラメのモノキニで登場、胸のVラインが深くてかなりき   

   わどい。



サクラ 「そういうのは、生まれながらに勝ち組な奴らにまかせとけばいいんだよ

     ……」

   肩を叩いて慰め合うサクラとニナ。

   一方、タンポポを見るエルとグレイス。

グレイス「これでも眉ひとつ動かさないんですのね」

エル  「教師の鑑だけど、ちょっとモヤるわ」

   ズタボロのままのタンポポ、「そんなこと言われても」という表情。   




○15


サクラ 「ひゃっほーい!」

   ビーチに飛び出していくサクラ、エル、スー、クリス。

   グレイス(泳がない)とニナ(泳げない)は後編に続く。


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