H2nd Hand 走れ負け犬《アンダードッグ》! 体育祭は勝負どき 

ここは世界のどこかのお嬢様女子高

校舎の隅のひそやかな宴


○登場人物


     ☆サクラ

      二年生。ポーカー部部長。天下無敵の魔王閣下。

      せいくらべ:3位、ちちくらべ:4位

      人種・民族設定:ワイルドカード


     ☆エルネスタ

      二年生。ポーカー部副部長。冷静沈着なポーカー部の頭脳。

      せいくらべ:4位、ちちくらべ:1位

      人種・民族設定:ネグロイド


     ☆グレイス

      二年生。自宅は豪邸のガチセレブ。根は寂しいと死ぬウサギ系。   

      せいくらべ:1位、ちちくらべ:2位

      人種・民族設定:コーカソイド(ケルト系)


     ☆スー

      一年生。いつも朗らかのーてんき。

      せいくらべ:6位、ちちくらべ:3位

      人種・民族設定:コーカソイド(ゲルマン系)


     ☆クリス二等兵ザ・プライベート

      一年生。なぜか軍人思考、スーを隊長と慕うど初心者。

      せいくらべ:5位、ちちくらべ:6位

      人種・民族設定:モンゴロイド


     ☆ニナ

      一年生。きまじめ一本槍、ポーカー部の良識。

      せいくらべ:2位、ちちくらべ:5位

      人種・民族設定:コーカソイド(アーリア系)


     ★タンポポ

      ポーカー部顧問。

      比べなくともみなかわいい生徒たちです!

      人種・民族設定:ワイルドカード



○1


 部室。サクラが他の面々の前に立って演説風。

サクラ 「さて諸君、新生ポーカー部が成ったわけだが……」



サクラ 「この部に目標とか野望とか他校のライバルと熱いバトルで友情努力勝利

     とか、そんなウゼェもんはない!」

1年生組「えー!」

   驚く1年生組に対し、エルとグレイスはあきれている。



サクラ 「まったり打ってウダウダトーク! イッツジャスティス! 懸賞トーナ

     メントとか出たけりゃ、勝手に各自申し込んで勝手に出るように!」



   タンポポが部室に入ってきて、ノートの角でサクラの後頭部をコツン。   

タンポポ「そんな引きこもりの部活でどうしますか」




○2


タンポポ「部長がこの通りなので、僕がひとつ当面の目標を持ってきました」

サクラ 「どんな?」



タンポポ「みなさんご存知の通り本校では春にたい」

サクラ 「パス」



タンポポ「……」

サクラ 「パス」



タンポポ「まだ何も」

サクラ 「パスったらパス」




○3


サクラ 「春に体育祭、だろ? 部活対抗リレーがあるってんだろ? なんでそん

     な汗臭いこと!」



タンポポ「優勝したら、部費査定時の評価点がプラス10点です」

一同  「……」



タンポポ「ざっと、運動部が地区大会優勝するのと同じくらいの価値があります」

一同  「……」



タンポポ「うちみたいな弱小でしたら、部費倍増は堅いですね」

サクラ 「お前ら今すぐ着替えてグラウンドに集合」

一同  「はーい」




○4


   グラウンド。

   体操着姿の部員一同&タンポポ。ただしグレイスはいない。

エル  「でも、文化部の我々が出たところで、歴戦の運動部に歯が立たないので

     は?」

タンポポ「そこです。今年は文化部限定戦が組まれました」



サクラ 「つったって……」

エル  「吹奏楽部に演劇部。体育会系並みに体を鍛えている文化部はいくらもあ

     ります」



クリス 「(超ワクワクしている)」



サクラ 「……足、速いの?」

クリス 「(ブンブンうなずく)」




○5


サクラ 「ひとり速くったってなぁ」

タンポポ「選手は4人です」

エル  「残り3人どうするか……」



グレイス「わたくしはパスよ」

   少し遠くからの声。離れた木陰に白い丸テーブルと椅子、老執事が紅   

   茶を淹れている。彼女だけ着替えていない。

サクラ 「……なんで?」



グレイス「わたくし、薄幸で病弱なお嬢様ですもの。ふふん」

サクラ 「薄幸で病弱だけど態度デケェってなんなんだよ!」



タンポポ「本当ですよ、診断書は教師陣で共有されてます。グレイスさんは体質的

     に全力疾走は無理です」

サクラ 「マジで?!」

エル  「そういえば1年のときも体育は休みが多かったっけ……」




○6


タンポポ「ですから、残り4人から3人選抜します」

スー  「どうやって決めるんですか?」

タンポポ「4人とも体育の成績は似たりよったりですね」



サクラ 「(考える)逆に言えば1人だけ走らず楽ができるわけだな……ポーカー

     部なんだから、ポーカーで決めようぜ!」

エル  「(そんなサクラを見て考えている)……」



   エルネスタ、ニナに近づいてささやく。

エル  「ニナ。対抗リレー中は、選手以外の部員と顧問は各部所定の位置に集まっ

     て応援することになってるわ」

ニナ  「?」

エル  「でもグレイスは炎天下には出てこないでしょうね」



ニナ  「(頭の中で、[部員全員+顧問]-グレイス-自分以外が選手になった場

     場合、の計算を成立させる。)……ぽっ」

   エルネスタ、ニヤリ。




○7


   サクラ、グレイスのいた木陰のテーブルに突撃。

サクラ 「オラどけー!」

グレイス「えー?」



サクラ 「カードとチップ持ってこーい!」

   老執事がさっとティーセットを片づけテーブルクロスを羅紗に取り替   

   え、たちまちポーカー対戦用にテーブルをセッティングし直す。追い   

   出されたグレイスは不満顔。

グレイス「じいや!」



   椅子がいつの間にか4つに。4人が四方に陣取って向かい合って座る。   



   グレイスの不満顔を意に介さず、冷静にシャッフルを始める老執事。   

老執事 「ではみなさま、よろしいですかな?」




○8


   卓を囲むサクラ、エルネスタ、ニナ、スー。ディーラー、老執事。

   あきれ顔で見るタンポポ、ため息1つ。

タンポポ「いいでしょう、確かに我々はポーカー部です。この4人卓で勝った人に

     に選択権を与えます」

   この間に老執事はディーラー決めのカード配り。



老執事 「最初のボタンはニナさんです」

ニナ  「え、私の名前どうして知って……」



   老執事、超イケ爺ぃさわやかスマイルで返答。

老執事 「お嬢様のご友人でしたら、みなさま把握しております。それがわたくし

     めの務めでございますので」



   ニナ、鼻血を吹く。

サクラ 「年上だったら誰でもいいのかオメーは!」



   ※枠外で以下解説。

タンポポ「今回も我々は枠外で解説役です」

クリス 「よろしくお願いするッス!」

グレイス「わたくしもここですの?!」




○9


   15ハンドほど経過。

   これまでに大きな動きなし。スーが少し浮いている。

サクラ 「(スーがいつにも増して積極的……逆にエルは妙にタイトだな……単に

     手が来てないのか、スーやニナの実力をまだ読みきれてないからか)」



   DPスー、UTGニナ。ニナが3BBレイズイン。スー、サクラはコ   

   ール。エルも少し考えてからコール。



   フロップ ♣A♡10♡9。

   SBサクラの手札 ♣10♣9。

サクラ 「(フロップツーペア! どうする、こっちからベットするか? ……い

     や、ニナレイザーの動きを見るのがスジか)チェック」



サクラ 「(幸い、エルは今タイトでラクさせてくれそうな感じだし……)」

エル  「ベット(15BB)」

サクラ 「ぶっ!」



   ※枠外で以下解説。

クリス 「『タイト』ってどういう意味ですか?」

タンポポ「フォールドが多く参加率が低いという意味です。逆が『ルース』です。

     これに、レイズが多く攻撃的な『アグレッシブ』と、コールが多く受動

     的な『パッシブ』を組み合わせて、プレイヤーの性格は大きく4つに分

     かれます。スーさんやサクラさんはルースアグレッシブ、エルさんはタ

     イトアグレッシブですね」

グレイス「わたくしは……?」

タンポポ「ルースパッシブですね。有り体に言って、いちばん下手なタイプです」

グレイス「がーん!」




○10


サクラ 「(ここでオーバーベット?! らしくない! 意図は何だ? ブラフを

     打つタイミングじゃないのは明白だが……)」

ニナ  「(ここでオーバーベット……プリフロップは私以外全員コールだから、

     ハイポケは考えづらい……私が現状ナッツのはず……)」

   ニナの手札♡A♢T。



ニナ  「(普通に考えれば、エル先輩もエースを持ってて、ドロー持ちを下ろそ

     うとしてる。レイザーの私の前にベットした意味はわからないけど、い

     ずれにしても私は勝ってる……ここは攻めるべき)」

サクラ 「(ニナが動くか……とすると、それより強い手ってコトだから、セット

     まであるな。せっかくのこの手で攻められないとは……1位勝ち抜けの

     この勝負、あまりチップ量に差をつけられたくないんだが……)」



ニナ  「レイズ(30BB)」



スー  「オールインです!」

サ・ニ 「(なにいいいいっ!)」

   驚いてスーを凝視するサクラとニナの陰で、エルネスタがにやり。



   ※枠外で以下解説。

クリス 「難しいこと考えてます!」

タンポポ「オーバーベットとは、現在のポットより大きな額をベットすることです。

     これはかなり強気で、ドローを持っているプレイヤーが単純にコールす

     ると、確率的に損をします。ですからフォールドを要求するメッセージ

     と受け取るべきですが、……グレイスさんはコールしちゃいますよね」

グレイス「ががーん!」




○11


ニナ  「(待ってちょっと待ってここでオールイン?! 私がナッツのはずで

     しょ? 前みたいにAAでプリフロップコールとか? まさか!)」

サクラ 「(エルもニナも強い手のはず、ニナはセットまである、読めてないはず

     ない! にも関わらず攻めてくるとしたら……)」



   サクラとニナ、絶望的な表情。

サ・ニ 「(モンスタードロー)」



ニナ  「(♡Q♡J、♡J♡8、あるいは♡8♡7! だとしてもオールインす

     る、普通?)」

サクラ 「(とにかく先にリードしたいこの局面、ニナの動揺を見越してのブラフ

     の可能性もなくはない、だとしてもオールインするか、普通?!)」



   サクラとニナ、さらに絶望的な表情。

サ・ニ 「(スーならやる)」




○12


サクラ 「(だが、逆に言えばスーの手はまだ完成してない。エルがタイトな今、

     ここでダブルアップできれば圧倒的優位だ。チェックしたあたしの手は、

     ニナには読みづらいはず……ここは勝負か)」



サクラ 「そのオールイン、コールだ!」

   さらに動揺するニナ、平然とフォールドするエルネスタ。

エル  「下りるわ」



ニナ  「(サクラ先輩までオールイン? ふたりともドローで勝負をかけてきて

     る? えぇい、1位を取るしかないこの勝負、このポットを誰が取るか

     で決まる! ナッツは私!) 私もコールします!」




   3者オールインでオープン、スーは♡8♡7、ターンに♡Jが落ちる。

サ・ニ 「いきなりストフラ~っ?!」



○13


   崩れ落ちたサクラとニナ。平然としているエル。

サクラ 「くっそー、走るのか……」

ニナ  「勝負はスーとエル先輩のどちらかね……がんばって……」

エル  「いいえ、勝負はこれで終わったわよ」

サ・ニ 「え?」



エル  「スー、あなた体育祭どうするの?」

スー  「クリスちゃんが走るなら私も走りますよぉ。上官たるもの率先垂範なの

     です!」

サ・ニ 「え!」



エル  「ね? プライズ獲得が度外視だから、スーはドローでも攻めの一手。私

     は最初からスーを勝たせて2位狙い、というか、スーが攻めそうな荒れ

     ハンドでだけ波風起こすアクションをして、ポットを膨らますお仕事。

     タイトに見えた?」

   サクラとニナ、魂の抜けた目。



エル  「あとはどうでもいいわ、オールイン」

スー  「えー、ちゃんと勝負しましょうよー」

   サクラとニナ、やっぱり魂の抜けた目。

   グレイス&執事がヤレヤレのポーズ。



   ※枠外で以下解説。

クリス 「(目を丸くして)スーちゃんが走るなら2位のエル先輩が走らなくてい

     い、というのはわかりましたけど、コレどういう勝負だったんですか?」

タンポポ「トーナメント戦では、賞をもらえるのが何位までか、あらかじめ決まっ

     ています。1位が賞を総取りする場合と、4人のうち2位、言い換えれ

     ば半分より上位にいれば賞をもらえる場合とで、プレイが全然変わると

     理解していただければ」




○14


   体育祭。

   観覧席にいる、タンポポ&にこやかに手を振るエルネスタ。

   背後にグレイスもいて、老執事が日傘をさしかけている。

   トラックにいるサクラ。アナウンス「部活対抗400mリレー文化部限定戦で

   す」

   スターターの手が上がり、号砲が鳴る。走り出すサクラ。

サクラ 「ちっくしょーーーっ! なんであたしがーーーっ!」



   サクラからニナへのバトンタッチ。

サクラ 「頼んだ!」

ニナ  「はい!」



   ニナからスーへのバトンタッチ。

ニナ  「お願い!」

スー  「がってんです!」



   スーからアンカークリスへのバトンタッチ。

スー  「ぽぉかぁぶのこうはいこのいっせんにあり、なのです!」

クリス 「奮励努力するッス!」




○15


   クリス快走。

サクラ 「クリス、マジで速っ!」

ニナ  「トップの吹奏楽部すいぶに追いつきそう!」

スー  「クリスちゃんはやればできる子なのです!」



スー  「がんばれーーっ!」

ニナ  「追い抜けーーっ!」

サクラ 「部費ぶんどってこいオラァーッ!」



   クリス、吹奏楽部のアンカーとほぼ並び、胸を突き出してゴールライ   

   ンを駆け抜ける。



   「2等」の旗を持って照れ笑いするクリス。

クリス 「胸囲の差で負けました!」

   orzになっているサクラとニナ。

   遠巻きにして、グレイスとエルネスタが胸を強調するポーズで以下の   

   セリフ。

エル  「ありがちなオチね」

グレイス「そうね」

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