6-Max HighSchool (シックスマックスハイスクール)

DA☆

H1st Hand ようこそ、ポーカー部へ

   ここは世界のどこかのお嬢様女子高

   校舎の隅のひそやかな宴


     ☆サクラ

      二年生。ポーカー部部長。天下無敵の魔王閣下。

      サイドアップツインテのツリ目ガール。

      人種・民族設定:ワイルドカード


     ☆エルネスタ

      二年生。ポーカー部副部長。冷静沈着なポーカー部の頭脳。

      縮れ毛ショートなクールビューティ。メガネっ娘。

      人種・民族設定:ネグロイド


     ☆グレイス

      二年生。自宅は豪邸のガチセレブ。根は寂しいと死ぬウサギ系。   

      金髪縦ロールの高飛車レディー。

      人種・民族設定:コーカソイド(ケルト系)


     ☆スー

      一年生。いつも朗らかのーてんき。

      ウェーブでおっきなリボンのお嬢様。メガネっ娘。

      人種・民族設定:コーカソイド(ゲルマン系)


     ☆クリス二等兵ザ・プライベート

      一年生。なぜか兵卒思考、スーを隊長と慕うド初心者。

      ベリショにハチマキ締めた体育会系娘。

      人種・民族設定:モンゴロイド


     ☆ニナ

      一年生。きまじめ一本槍、ポーカー部の良識。

      三つ編みお下げの文学少女風。

      人種・民族設定:コーカソイド(アーリア系)


     ★タンポポ

      ポーカー部顧問。

      無精ヒゲに無造作ヘアー、「ただしイケメンに限る」のイケメン側。

      人種・民族設定:ワイルドカード



○1


   ポーカー部部室。

   ポーカーテーブルに、サクラとグレイスが向かい合って着席してヘッ

   ズアップ勝負をしている。エルネスタがディーラー。

エル  「リバー開きます」



   そこまでの共通札ボード♣T♡K♠Q♡3に、リバー♠Aが加わる。グレイ   

   スの顔がぱぁっとほころぶ。サクラは無表情。

グレイス「どーんとオールインですわ!」

サクラ 「……コール」


   サクラ ♡J♡Q。グレイス ♢A♠K。

   ストレートでサクラの勝ち。

サクラ 「……ちょっとはストレートを警戒しろよ」

グレイス「また負けましたわー! なんでですのなんでちっともサクラさんに勝て

     ないんですのーっ! キーーーッ!」


エル  「(カメラ目線)遊んでいるのではありません。これが部活です。私たち

     は……ポーカー部」

グレイス「わたくし、入部した覚えありませんわよ?!」



○2


サクラ 「何言ってんだグレイス、とっくにてめぇの入部届は受理されている」

エル  「そもそも3人いないと、部として認められません」

グレイス「でもわたくし、入部届なんか……」


サクラ 「去年の春、あたしとエルでこの部を作ると言ったら、『たかが遊びの部

     を作るなんて』とか言って、おまえ反対したろう」

グレイス「えぇ」


サクラ 「で、あたしは『じゃあ、あたしに勝てたら即廃部でいいよ、たかが遊び

     なんだから簡単だろ?』と挑発した」

グレイス「そうでしたわね。後で揉めないようにと、念書まで書かされましたわ」


サクラ 「その裏にカーボン紙をだな」

グレイス「あなたって人はーっ!」

エル  「(一年間挑戦し続けるど根性と、それでも負ける超アンラッキーの持ち

     主なのよね……)」



○3


サクラ 「でも、もういいぞ」

グレイス「え?」

サクラ 「今年新入部員が入ってくりゃ、あと二年は安泰だ」


エル  「もうポスターも大量に貼り出しましたし、一人くらいは……ねぇ」

サクラ 「だからおまえ、もう用済みなの。やめたきゃやめても……」


グレイス「………………(涙目)」


サクラ 「わーっ、ウソウソ、おまえは大切な友達! な、エル?!」

エル  「そうよ、ずっとここにいていいのよ、あなたはひとりじゃないわ!」



○4


エル  「新入部員、どれくらい来るかしらね。いつまでもヘッズアップや3人打

     ちじゃ、面白くないし実力もつかないし」

サクラ 「ポーカーで最も実力差が出るのが6人打ち6-Maxだっていうし、それくらいは

     欲しいな」


エル  「どんなだといい?」

サクラ 「(悪人の表情)そりゃあ、ポーカーだけは鮫のように強くていいが、そ

     れ以外は犬のように従順で、靴をなめろといえばなめるような」


   エルはさもありなんとうなずく。グレイスはドン引きして青ざめる。   

   部室の引き戸がカラカラと開き、スーとクリス登場。


スー  「こんにちはー、入部希望なんですけどー」

エル  「噂をすれば来たわよ!」

グレイス「(逃げてー、超逃げてー!)」



○5


スー  「スーです!」

エル  「なんでポーカー部に?」


スー  「おじいちゃんがポーカー大好きなので! 私も上手になって、一緒にや

     れたら良いなって!」

グレイス「あら、素敵。孝行娘なのね」


サクラ 「(なぜか深刻な顔)……そのおじいちゃんってさ、もしかして、……大

     工?」


スー  「どうして知ってるんですかぁ?」

サクラ 「(……いきなりやべぇのキター!)」



○6


   2年生組のみ、ひそひそ会話。

サクラ 「ありゃ棟梁の孫だ」

グレイス「棟梁って?」

エル  「サクラのポーカー仲間。この娘、校外でもやってるから」


グレイス「何がそんなにやばいんですの?」

サクラ 「棟梁は、孫があたしと同じ学校に入ったの知ってんの!」


サクラ 「同じ道に引き込んだら殺すって、こないだ脅されたばっかりなんだよ!

     自分から来ちゃったらどうすりゃいいのさ?!」


グレイス「……(スーに向き直って手をしっかと握る)ようこそスーちゃん、ポー

     カー部はあなたを歓迎しますわ!(サクラの弱みを握ってるなんて、絶

     対逃がすもんですか!)」



○7


クリス 「入営希望のクリスであります!(ビシッと敬礼)」

エル  「(生暖かい視線)どうしてポーカー部に?」


クリス 「隊長のご命令なのであります!」

グレイス「隊長って……」


スー  「(エッヘンと胸を張る)」


グレイス「ど、どういう関係?」

スー  「スーはクリスちゃんよりポーカーに詳しいのです!」

   怯え顔だったサクラが目をキラリーンとさせて向き直る。



○8


サクラ 「そうか、隊長と部下の関係、なのか」

スー  「はいっ!」


サクラ 「ならば部長をなんと呼ぶ?」

   腕を組んですっくと立つサクラ。擬音・ゴゴゴゴゴゴ。気圧されるス   

   ー&クリス。


スー  「元帥閣下に敬礼!」(ビシッと敬礼)

クリス 「敬礼ッス!」


グレイス「か、閣下?!」

エル  「(さすがサクラ、もう棟梁さんの孫を掌握したわ!)」



○9


   部室の扉が開き、ニナ登場。

ニナ  「あの」

エル  「あら、あなたも入部希望?」


ニナ  「はい。でも、あの」

   ニナ、サクラたちをじっと見つめる。


サクラ 「以後、私の命令には従うように」

ス・ク 「ははーっ!」


ニナ  「私、まじめにポーカーしたいんですけど(キツい目)」

エ・グ 「(今度は絶対命令とか聞かなそうなのキター!)」



○10


ニナ  「ニナです」

エル  「経験者?」

ニナ  「1000人規模のU-15トーナメントで優勝経験があります」


グレイス「すごいじゃない!」

サクラ 「全然すごかねぇよ。一回や二回なら運任せで誰でもいける」


サクラ 「まして、ガキ同士のお遊びみたいな年齢限定戦とか、アホらしくって」

ニナ  「お言葉ですが」


ニナ  「(サクラを見下す目線)私、強いですよ」

サクラ 「(ニナをねめ上げる目線)ふぅん……」



○11


   サクラとニナのにらみ合いに他の面々がたじろぐところ、顧問タンポ   

   ポが部室に入ってくる。

タンポポ「はいはい、あまり剣呑としない」


スー  「おぉー、無駄にダンディーさんです!」

クリス 「何者でありますか!?」

サクラ 「ポーカー部ウチの顧問だよ」


   ニナが唐突に顔を赤らめて、強気な態度を引っ込め、粛々と肩をすく   

   める。


グレイス「えっ」

エル  「年上趣味なのね」



○12


タンポポ「顧問の」

サクラ 「(名乗りにかぶせるようにして)タンポポだ」


タンポポ「いちおうボクにも名前があるんですが」

サクラ 「うるせぇ、おまえなんかタンポポだ」


クリス 「なんでタンポポなんスか?」

エル  「見た目よ。ダンディーなライオンさん」

ス・ク 「おー!」


サクラ 「誰も気にも留めない路傍の花、でもあるな」

グレイス「それは言い過ぎじゃあ……」

タンポポ「ここじゃいつもディーラーですから、その解釈でかまいませんよ」

   この対話の間ニナは、タンポポとタメ口で話すサクラをにらみっぱな   

   し。



○13


エル  「ニナ。いっとくけど、先生は既婚者よ」

ニナ  「えっ」


サクラ 「ったりめぇだろ、このムダにイケメンが独り身で女子高の教師なんかやっ

     てたらどうなる」

スー  「ハーレムですねー」

クリス 「酒池肉林ッス!」


サクラ 「いや。……女という生物に幻滅してホモになる」


エル  「それはそれで(ニヤリ)」

グレイス「(あんたらみたいなのがいるせいよ、それ……)」

タンポポ「えーっと……」



○14


タンポポ「(2年生組に向かって)あなたたちは自己紹介しなくていいんですか?」

サクラ 「え、めんどい。追々わかるだろ?」

タンポポ「そう言わずに、今やっておきましょう」


サクラ 「部長のサクラだ」

エル  「副部長のエルネスタです。エル、でいいですよ」


グレイス「そしてわたくしが」

サクラ 「(セリフに割り込んで)おまけの」

グレイス「グレイスですわ!」


   グレイス、また涙目。肩を叩いて慰めるエルネスタ。

サクラ 「悪かったよ。もうやらないよ」



○15


タンポポ「じゃ、早速始めましょうか!」


   各自がチップをそれぞれ手にしながら、ポーカーテーブルに着席。


[座席表]

DPタンポポ&クリス-エルネスタ-ニナ-グレイス-スー-サクラ




○16

タンポポ「ルールがわからない人、いますか?」

クリス「(挙手)全然わかりません、教官殿!」


タンポポ「じゃ、僕は彼女の後ろで、教えながらディールします」


   クリスの背後にピッタリとつくタンポポ。ディーラーポジションを示   

   すプレートを、自分=クリスの前に置く。

   ニナ、嫉妬を含んだ目線。


サ・グ 「(あ、この子けっこう本気だ……)」

エル  「(カメラ目線)ここから○30まではルールとスターティングハンドの説

     明です。知ってる方は読み飛ばしてOK」



○17


タンポポ「まずはポーカーの役ですね」

エル  「弱い役→強い役の順で紹介します」

サクラ 「同じ役がぶつかった場合は、使われるカードのランクが高いほうが勝ち。

     エースがいちばん強くて2がいちばん弱い。なお、スートつまりトラン

     プの記号(♠♡♢♣)は強弱に関係なく、数字まで完全に同じなら引き

     分けだ」


ハイカード(ノーペア)

例)♡A♠K♢8♣4♡2

何の役もない状態。最もランクの高いカードで比較する(この場合はエースハイ)


ワンペア

例)♠J♢J♣K♣9♠2

同じランクのペアが1組ある。


ツーペア

例)♠7♢7♠6♣6♡A

同じランクのペアが2組ある。


スリーオブアカインド(スリーカード)

例)♠4♡4♣4♡T♢6

同じランクが3枚ある。

サクラ 「スリーカードってのは和製英語な」

エル  「トリップスという表現も使われます」



○18


ストレート

例)♢3♢4♣5♠6♢7

数字が連続する5枚組。10JQKAの並びも連続とみなされる。


フラッシュ

例)♠3♠4♠9♠J♠Q

同じスートの5枚組。


フルハウス

例)♠K♢K♣K♠Q♡Q

同じランク3枚とペアの組み合わせ。


フォーオブアカインド(フォーカード)

例)♠8♡8♢8♣8♣A

同じランクが4枚ある。

サクラ 「フォーカードも和製英語」

エル  「クァッズという表現もあります」


ストレートフラッシュ

例)♢A♢2♢3♢4♢5

同じスートで連続する数字の5枚組。


ロイヤルフラッシュ

例)♠T♠J♠Q♠K♠A

最強役。ストレートフラッシュのうち10~Aの組み合わせを特にこう呼ぶ。



○19


タンポポ「ポーカーは、一定のルールのもとで、これらの役の上下を競い、チップ

     を賭けて奪い合うカードゲームです」

サクラ 「チップを奪い合う、が重要だ。『いい役を作る』が目的じゃないってこ

     とは、腹の底に入れといてくれ」


タンポポ「ここで行うポーカーは、二枚の手札と五枚の共通札で役を作る、テキサ

     スホールデムと呼ばれるルールです」

   エルネスタとニナがブラインドを置き、タンポポが各自に2枚ずつデ   

   ィール。


クリス 「五枚配るんじゃないんですか?」

タンポポ「五枚まとめて配って、山札と交換しながら役を作るのが『ドロー』。今

     では廃れています。一枚ずつ配って、五枚になるまでにどんな役ができ

     るか駆け引きするのが『スタッド』。かつての主流で今でも盛んです」


タンポポ「そして現代の主流は、手札と共通札を組み合わせる『ホールデム』」

サクラ 「とりわけ、手札二枚の『テキサスホールデム』と手札四枚の『オマハホ

     ールデム』が有名だな」



○20


タンポポ「いま、エルさんとニナさんが出したチップは『ブラインド』といいます。

     エルさんがスモールブラインド(SB)、ニナさんがその倍額のビッグ

     ブラインド(BB)。一種の参加料です。また、ビッグブラインドの額

     はベットの基準値ともなります」


クリス 「参加料なら全員が払うんじゃ?」

タンポポ「全員払う場合もあって、そのときはアンティと呼びます」

エル  「ブラインドとアンティ両方払う場合もあります」

タンポポ「支払ったチップは、場の中央『ポット』にすべて集められます」


タンポポ「さて、ブラインド支払とカード配りを終えたら、いよいよ勝負開始です。

     ポーカーは何度も勝負を繰り返しますが、一度カードが配られてから、

     決着がついてまたカードが配られるまでの一勝負を、『ハンド』で数え

     ます」

サクラ 「『ハンド』は複数の意味があるから注意。できた手役もハンドと呼ぶ」


タンポポ「チップを賭ける行為を『ベット』と呼ぶのは、わかりますか? 1ハン

     ドには、ベットによって駆け引きするベッティングラウンドが4回あり

     ます」

クリス 「ベッティ……?」

タンポポ「順番に見ていきましょう」



○21


タンポポ「最初のベッティングラウンドは、『プリフロップ』です。2枚の手札だ

     けを見て、行動します。ビッグブラインドを払った人の左隣から始めま

     す」

サクラ 「この位置を俗にアンダー・ザ・ガンUTGという」


   現在のUTGであるグレイスをチラ見。

サクラ 「ポーカーでは一般に、先に行動するほうが不利だ。つまりUTGは、一

     番不利で一番使えなくて一番ストレスのたまるポジションだ」

グレイス「(イラッ)いいことクリス、ポジションはローテーションしますの。ブ

     ラインドを払うのもUTGも、みんな順番に公平に巡ってくるものです

     から、勘違いしないでね」


タンポポ「さて、ここでプレイヤーが選択できる行動は、コール・レイズ・フォー

     ルドの3つ」

サクラ 「で、どうすんの」

グレイス「下りるわよ!(カードを投げてフォールド)」


タンポポ「グレイスさんはフォールドを選択しました。フォールドは、このハンド

     ではもう参加しないという意思表示です。」



○22


スー  「コールするです!」(1BBベット)

タンポポ「コールは、すでに誰かが出したチップと同額を出すこと。ここでは、ブ

     ラインドの額です」


サクラ 「じゃ、空気読んでレイズ」(5BBレイズ)

タンポポ「レイズは、誰かが出したチップより多い額を出すこと」


サクラ 「レイズには最低額ミニマムレイズがある。厳密な話をするとややこしいが、

     基本的には、前のベッターが増やした分は自分も増やす、と覚えておく

     といい」


タンポポ「コール額より少ない額のベット、ミニマムレイズより少ない額でのレイ

     ズはできません。逆に、それ以上の額なら、賭ける額は無制限の、『ノ

     ーリミット』というルールで我々はプレイしています」

クリス 「ふむふむ」



○23


タンポポ「さて、あなたの手番ですよ、クリスさん」

クリス 「でも、どうすればいいかよくわかんないです」


タンポポ「基本は、手札が十分強いと思えばレイズ、これから出る共通札によって

     は強い役ができそうならコール、どうしようもないと思ったらフォール

     ドです……まずは手札を見ましょうか」


   クリス、手札を持ち上げてカードをガン見。♣Q♢7。

タンポポ「ちらっと見るだけでいいんですよ」


クリス 「(涙目)強いか弱いか、よくわかんないです」

タンポポ「でしょうね」



○24


タンポポ「そこでコレです。各手札の勝率をまとめた表です。s はスーテッド、ス

     ートが同じ場合。o はオフスート、スートが違う場合です。スーテッド

     の方がフラッシュがある分で強いです」

サクラ 「一部だけな。詳細なのは『スターティングハンド表』でググればナンボ

     でも出てくる」


ハンド 対戦人数

1 5

AA 85.3 49.2

Aks 67.0 31.1

AKo 65.4 27.9

AQs 66.1 29.4

AQo 64.5 25.9

AJs 65.4 27.8

AJo 63.6 24.4

ATs 64.7 26.7

ATo 62.9 23.1

A9s 63.0 24.2

A9o 60.9 20.3


(中略)


Q7o 51.9 15.1


(中略)


52o 33.9 10.0

44 57.0 17.3

43s 38.0 14.7

43o 34.4 10.7

42s 36.3 13.7

42o 32.5 9.5

33 53.7 16.2

32s 35.1 13.0

32o 31.2 8.9

22 50.3 15.5


タンポポ「実は、ポーカーという競技は、誰がどれくらい有利かは、常に確率が出

     せるんです」

サクラ 「テレビ中継用に使われるトランプにはICタグが入ってて、カードが何か

     読み取れる。だからテレビ画面に、現在勝率何%って表示されるんだぜ」

エル  「プレイしてる当人がその情報を見ないように、ポーカーの中継は生放送

     でなく、数分遅らせて放送されます」


   表をじっくりと見るクリス。

クリス 「何%くらいあればいいんですか?」

タンポポ「賭けられたチップの額によります。ただ、相手が1人なら、5割以上あ

     れば優勢なのはわかりますね?」

クリス 「5人いたら、ほとんどダメに見えるんですけど!」

タンポポ「そうですよ。だから駆け引きが必要になります。まぁ、5ハンドに1回

     参加するくらいが平均ですね」



○25


タンポポ「さて、あなたはその手が有利だと思いますか?」

クリス 「思わねっす」

タンポポ「では、フォールドしましょうか。カードを卓の中央に捨てればフォール

     ドになります」

クリス 「はぁい」

   クリス、フォールド。


タンポポ「さてサクラさんがレイズしましたので、他の方も態度を決めなくてはな

     りません。勝負に参加し続けるにはやはりコール、レイズ、フォールド

     を選びます。エルさんはスモールブラインドを払っているので、サクラ

     さんのレイズ額まで足し増せばコールになります」

エル  「フォールドするわ」

   エル、フォールド。



タンポポ「ニナさんはビッグブラインドを払っているので、サクラさんのレイズ額

     まで足し増せばコールです」

ニナ  「コール」(4BBベット)

   スーもコール。


タンポポ「全員が同じ額をベットするか下りるかするまで、ラウンドは続きます。

     ここまでがプリフロップです」



○26


タンポポ「次は『フロップ』です」

   タンポポ、フロップを開く。

   ♡A♢6♡2。


タンポポ「この3枚のカードは、全員が使える共通札です。手札と組み合わせると

     5枚になりました」


タンポポ「ここでまず選べるアクションは『チェック』『ベット』です。また、最

     初に行動するのはスモールブラインドを払ったプレイヤーです」


エル  「でも私はもうフォールドしてるから、その左のニナから」

ニナ  「……チェック」

タンポポ「チェックはいわば『パス』です。何もせず手番を次の人に先送りします」



○27


グレイス「わたくしももうフォールドしましたから、見てるだけですわ」

スー  「ベットするです!」

   スー、10BBベット。


サクラ 「レイズしたのあたしなのに、そっちからベットかぁ……さてどうすっか

     ね」

タンポポ「ここからはまた、プリフロップと同じく『コール』『レイズ』『フォー

     ルド』の3種類のアクションから選択です」


タンポポ「誰かがベットするまでは『チェック』『ベット』、誰かがベットしてか

     らは『コール』『レイズ』『フォールド』です。プリフロップが後者の

     みなのは、ブラインドがベットとみなされるからです」

   サクラがスーとボード間で視線を行き来させる様子。


サクラ 「……レイズ」(20BBレイズ)

ニナ  「……コールします」

スー  「コール!」



○28


タンポポ「次は『ターン』です。4枚目の共通札が開きます。選べるアクションは

     フロップと同じ」

   ターン ♣2。


ニナ  「……チェック」

スー  「チェックです!」

   サクラがはっと顔を上げる。


   サクラ長考。その後 70BBベット。


ニナ  「フォールドします」

スー  「コールです!」



○29


タンポポ「次のラウンドは『リバー』です。5枚目、つまり最後の共通札が開きま

     す。選べるアクションはフロップと同じ」

   リバー ♡8。


スー  「ベットです!」(150BBベット)

   サクラ、大きくため息。


サクラ 「タンポポー、クリスにショーダウン見せてやったほうがいいよね?」

タンポポ「それは……お任せします」

サクラ 「スー、今回だけだからな! コール!」


   ショーダウン。

   スー♣A♠6。

   サクラ♢A♠K。



○30


タンポポ「テキサスホールデムでは、手札と共通札合わせて7枚のうち、最も役が

     高くなる5枚を選びます。今回サクラさんなら」

   タンポポ、二人の手札を手元にもってきて、それぞれ役の確認を行う。   

   サクラは♢A♡A♡2♣2♠K。


タンポポ「スーさんの場合」

   スーは♢A♣A♠6♢6♡8。


タンポポ「同じツーペアですが、6のペアがあるスーさんの勝ちです」

クリス 「おぉー!」


クリス 「隊長お見事です!」

スー  「えへへー」

サクラ 「いきなり元帥に楯突くとは……」

タンポポ「というわけで、これがテキサスホールデムの1ハンドです」




○31


サクラ 「これをひたすら繰り返す!」

クリス 「え、何点取ったら終わりとか、ないんですか?」


グレイス「チップがなくなったら負けですわ。今まではわたくしが一方的に毟り取

     られてましたけれども!」

エル  「大きく分けて2つのやり方があります。ひとつは、全員に一定のチップ

     が配られ、それがなくなったら負け、すべて奪い取った者が勝ちとなる

     『トーナメント』」


サクラ 「もうひとつは『リングゲーム』。カジノとかのマジバクチならこっちが

     主流で、チップは金で買う。それを元手に殖やせたら、勝ちって言えば

     勝ちだな。たいてい、無一文になって裸にひん剥かれるわけだが」


タンポポ「高校の部活ですから、下校時間が来たら終わりです。それと、お金を賭

     けちゃダメです」

サクラ 「『裸に剥く』ってとこにちっとは反応してくんないかな?」



○32


タンポポ「ルールはわかりましたか?」

クリス 「えーっと……、ともかくがんばります!」


スー  「クリスちゃん!」

クリス 「はいっ」

スー  「入部してルールも把握したからには、クリスちゃんはもう立派なていこ

     くぐ……じゃなくってポーカー部員なのです!」


スー  「だからクリスちゃんは、今日から二等兵に格上げなのです!」

クリス 「おおおおこの上ない誉れであります!」(ビシッと敬礼)


グレイス「……格上げって言うの?」

エル  「言わないわ、軍に入ったら即二等兵でしょ?」

サクラ 「あそこのジジィは孫に何を教えてるんだ……」



○33


タンポポ「では次のハンドです。ディーラーポジションが左隣のエルさんに、ブラ

     インドの支払いもそれぞれ左へ移ります」

   タンポポがディーラーマークを移動。

   ニナがスモールブラインド、グレイスがビッグブラインドを支払う。   


   タンポポがディール。

クリス 「……!」


   手札をタンポポに見せる。♡A♢A。

クリス 「(なんかスゴイの来ましたー!)」

タンポポ「(ならどうしますか? 出来るのは、コール、レイズ、フォールド)」

クリス 「えっと、えっと、……レイズです!」


エル  「下り」

クリス 「えー!」



○34


ニナ  「下ります」

   クリスの顔が涙目に。


グレイス「フォールド」

スー  「ダウンとも言いますね!」

   クリスの涙目大きくなる。


   サクラも投げ捨てて全員フォールド。

   ブラインドだけがポットとしてクリスの手元に移動。

タンポポ「全員が下りたら、残った人の勝ちになります。これ重要ですから覚えて

     おいて……」


クリス 「(遮って)何で誰も勝負してくれないんですか、せっかくいい手だった

     のにー!」

サクラ 「そう思ってるのがモロバレだからだよ」

エル  「ポーカーフェイスって知ってる?」



○35


クリス 「でもせんせー、全部確率がわかるなら、強い手札の人は勝負して、弱かっ

     たら勝負しないって、やること簡単に決まっちゃわないです?」


クリス 「たとえばコンピュータと対戦したら、人間は全然かなわなくって楽しく

     なくなっちゃいそうな、そんな気がするんですけど……」

タンポポ「いい質問ですね!」


タンポポ「おっしゃるとおり、現在の人工知能の研究が進んだら、いずれ人間はポ

     ーカーでコンピュータに勝てなくなると言われています。しかしそれで

     も、ポーカーというゲームの価値はあまり変わらないんです」


クリス  「そうなんですか? なぜ?」

タンポポ 「なぜでしょう? それを考えながら見ていきましょうか」



○36


   次のハンド。DPニナ。タンポポがディール。


   UTGサクラが弱めにレイズイン。クリス、エルフォールド、ニナが   

   リレイズ。

ニナ  「レイズです」


   グレイス、スー、フォールド。サクラ、ニナをニヤニヤ見つめてさら   

   にレイズ。

サクラ 「レイズだ」


   ニナ、ぐっと詰まって長考。

ニナ  「……下ります」



○37


   以下、数ハンド消化の描写。

スー  「ベットするです!」

サクラ 「あちゃー、そっちから来たかー。下りー」

   穏やか。


クリス 「レイズです!」

エル  「うーん、じゃあ今度こそ勝負してみようか。……コール」

   和やか。


ニナ  「ベット……」

サクラ 「レイズ」

   サクラ、めっちゃ非情な目。


ニナ  「下ります(えー……?)」



○38


スー  「レイズです!」

エル  「下りるわ」

グレイス「強いですわねー、スーちゃん」

   穏やか。


クリス 「べ、ベット」

サクラ 「おー、なかなかサマになってきたじゃんか二等兵?」

   和やか。


ニナ  「ベット……」

サクラ 「レイズ」

   人を殺しかねない目線。


ニナ  「お……下り……(なんなのいったいー?!)」



○39


ニナ  「(狙い撃ちにされてる? なんで? 新人いじめ? それとも偶然?)」


ニナ  「(落ち着け……こういうときこそ冷静に、いつも通りに。勝負するタイ

     ミングを見極めて……)」


サクラ 「いやー、こうやって6人で打てる日が来るなんてなー」

グレイス「そーねー、これで一方的にカモられずにすむんだわー」

   和気藹々。


ニナ  「(イラッ)」



○40


   DPサクラのハンド。UTGニナの手札は ♡T♣T。

ニナ  「(来た!)」


   ニナ、3BB レイズイン。

   グレイスフォールド、スーコール。


   サクラが少し考える様子。スーをちらりと見る。

サクラ 「……コール」


   クリスフォールド、エルコール。

タンポポ「フロップを開きます」



○41


   フロップ♠K♢T♡3。

ニナ  「(来た! セット引いた!)」


   エルはチェック。

ニナ  「(プリフロップでレイズがなかった以上、KKは誰も持ってない! 現

     状、これがナッツ!)」(13BBポットベット)

スー  「コールです」


   サクラ、また少し考えている様子。スーへの視線。

ニナ  「(さぁ、レイズして来なさい、サクラ先輩!)」


サクラ 「レイズ」(50BBレイズ)

ニナ  「(かかった!)」


   ※枠外に以下脚注。


クリス 「『セット』ってなんですか?」

タンポポ「手札2枚が同じ数字の場合ポケットといいます。フロップでさらに同じ

     数字が出て、トリップスに発展するのがセットです」


クリス 「『ナッツ』ってなんですか?」

タンポポ「共通札を見たとき、想定できる最高役を言います。要するに、そう簡単

     には負けない手、ですね」



○42


   エル、フォールド。残るはニナ、スー、サクラ。

ニナ  「(スーはずっとコール……JQのドローだとしたら怖い)」


ニナ  「(サクラ先輩にもっとチップを出させたいけど、確実に勝つなら、強く

     ベットしてフォールドさせるのが最善……ここはいっそ)」


ニナ  「オールイン!」


スー  「そのオールイン、コールです!」

ニナ  「えっ!?」


   ※枠外に以下脚注。


タンポポ「ここでの『ドロー』は、5枚役(ストレート・フラッシュ・フルハウス)

     があと一枚で完成する状態をいいます。ボードにKと10が出ていますか

     ら、JとQが手札なら、10JQKまでそろい、9かAが出ればストレー

     トになりますね」


タンポポ「『オールイン』は、手持ちのチップを全部賭けることです」



○43


タンポポ「サクラさんはどうしますか?」

サクラ 「下りるに決まってんだろ」(手札を投げ捨てる)


タンポポ「本来なら、フォールドした手札はすぐにディーラーが回収しますが、今

     回はちょっと置いておきましょう」


タンポポ「ではニナさん、スーさん、双方オールインですので、手札を開いてくだ

     さい」

   ニナとスーが手札を開く。


   ニナの♡T♣T に対し、スー♡K♢K。



○44


グレイス「あらー、セットオーバーセット、ツイてないわねー」

   タンポポがターンとリバーを置いてハンドを終わらせる、ニナの逆転   

   はなし。

   ニナは呆然としている。


   ニナ、スーに食って掛かる。

ニナ  「あなた、どうしてその手でレイズしなかったの?!」

スー  「どうしてって」


   スー、ニコニコしている笑みの裏に、どす黒い何か。

スー  「閣下がレイズするってわかってるのに、なんでこっちからレイズしなく

     ちゃいけないんですかぁ?」


ニナ  「あっ……」



○45


タンポポ「さて、クリスさん。先ほど、『コンピュータが人間に勝ってもポーカー

     の価値は変わらない』、という話をしましたね?」

クリス 「はい」


タンポポ「理由は簡単です。サクラさん、あなたの手札を開いて見せてください」


   サクラ、満面に悪意の笑みをにやりと浮かべて、カードを開く。♠2   

   ♢7。

クリス 「最弱の手札! 役も全然ない!」

タンポポ「ポーカーは、嘘をついても・・・・・・いいんです・・・・・。その駆け引きがコンピュー

     タにできるなら、もはや人間の脳そのものといっていい」


タンポポ「ポーカーの価値が毀損したのではありません。新たな人類が生まれた、

     寿ぐべき進歩なんですよ」



○46


サクラ 「さてニナ。『ハメられた』とか思ってるかもしれんが、それは少し違う

     ぞ」

ニナ  「えっ?」


サクラ 「ポーカーの最大の魅力は、性別も体格も、人種も言語も、年齢も貧富も

     関係ない競技ってところだ。必要なのはカードとチップと、ほんの少し

     の知性だけ。最後に勝負を分けるのは、運」


サクラ 「人類の考案した、究極の無差別級バトルロイヤルだ。だから面白い」


サクラ 「なまなかに『自分は強い』なんて言えないよ。覚えるのは5分、極める

     のは一生、よく言われる言葉だ」



○47


サクラ 「ポーカーは個人技だ。個性によってプレイスタイルが如実に変わり、当

     然相性がある。なのに、初対面の相手に『強い』って断言した根拠はな

     んだ?」


サクラ 「それはおまえが、確率にしたがって正確にアクションする、『ABCプ

     レイヤー』だからだ」

ニナ  「あ……」


サクラ 「確かに、確率的に正しいプレイを徹底できれば強いし、長期的に見れば

     必ず勝てるプレイスタイルだ。でも、そうと見抜かれてしまったら話は

     違う」


サクラ 「ABCプレイヤーを負かすのは簡単だ。確率的に損をする状況に追い込

     めば、勝手にフォールドしてくれる」

ニナ  「もしかしてあのレイズ、全部ブラフ……」

サクラ 「当然だろ?」



○48


サクラ 「おまえはあたしを知らないのに、あたしはおまえがどう行動するかわかっ

     てる。これがどれほどの差か、わかるな?」


サクラ 「『自分は強い』って言葉で、おまえは弱みをさらしたんだ」


サクラ 「ちなみにこのことは、エルも気づいてる」

エル  「ニナ。後輩にきちんと指導したサクラに感謝なさい」


エル  「私は、気づいてないフリして3ヶ月はたっぷりカモるつもりだったのに、

     サクラってば露骨にレイズするんだもの」

   ヒデェっ! と驚くクリスとグレイス。



○49


サクラ 「もちろんスーもわかってる」

スー  「はいっ」


サクラ 「さっきのハンド、スーはコールでついてきた。それは、あたしにレイズ

     されても問題なく戦えるだけの手札を持ってるって主張だった」


サクラ 「だから勝ち負けを考えたら、レイズしないほうがよかったんだが……」


サクラ 「まー、ニナの鼻っ柱折るのが先かなって」

   ひどいひどすぎると泣き崩れるクリスとグレイス。



○50


スー  「ニナちゃんのベットは、おしゃべりしてないんですよ」

ニナ  「え?」


スー  「うちのおじいちゃんがいつも言ってますもん。バクチ打ちはチップで語

     り合うもんだ、」


スー  「そんなこたあたぼうのコンコンチキよコンチクショーめ!」

   鼻を手首でこすり上げるしぐさ。


スー  「……って」

エル  「(その祖父からなぜこの孫が)」

サクラ 「(この世界に引き込みたくないなら、孫の前でそんなこと言ってんじゃ

     ねぇよあのクソジジィ!)」



○51


タンポポ「スーさんはよい教えを受けましたね。その通り、ポーカーは、口ではな

     くベットで対話するコミュニケーションの競技です」


タンポポ「ベットには必ず意図や主張が込められています。それをいかに読み解く

     かが……」

サクラ 「(遮って)こいつにゃそんな小難しい話、まだ必要ないさ」


サクラ 「まずはポーカーを楽しめ。話はそれからだ」


   ニナ、下唇を噛んでいる。



○52


グレイス「ニナ。そんな深刻な顔することなくてよ」

ニナ  「?」


グレイス「ねぇ、あんたらにとって『ポーカーを楽しむ』って、具体的に何するこ

     と?」


サクラとエル、顔を見合わせる。


サ・エ 「……徹底的に相手の嫌がるアクション」

   グレイス、ほらね、と肩をすくめる。

ニナ  「……性格悪ッ!」



○53


   サクラとニナ、性格悪いかどうかで応酬して口論。ニナ「プレイ以前   

   に人間性に問題が……」サクラ「初日から部長を人格攻撃とはいい度   

   胸だ」

タンポポ「まぁまぁ」


   タンポポが仲裁。ニナとサクラの間に立って、両名の頭をポンポンと   

   叩く。

   子供扱いにふくれるサクラ。

   ニナ、真っ赤になって捨てゼリフ。


ニナ  「そんな性格じゃあ、どうせ恋とかもしたことないんでしょうけど!」

サクラ 「(即答)彼氏いるよあたし?」


   ニナ、茹で上がるほど顔を赤くして退散。

ニナ  「わ、私、今日は帰りますっ!」



○54


   時間経過描写。部室にサクラとエルネスタだけが残っている。他の部   

   員は全員帰った後。エルネスタはカードやチップを片付けている。

エル  「サクラ」

サクラ 「なに?」


エル  「さっきのブラフはみごとだったわね」

サクラ 「あぁ、ニナをひっかけたレイズ?」


エル  「違うわ。……『彼氏がいる』、だなんて」


   エル、ニヤリ。サクラ、額に汗。



○55


エル  「連れてこい、とか言われたらどうするつもりだったの?」

サクラ 「貸しのあるポーカー仲間は何人もいるから、テキトーに見繕うさ」


エル  「本命は?」

サクラ 「エルだっていないだろ!」

エル  「ふふっ。さぁ、どうかしら」


サクラ 「……」

エル  「……」


サクラ 「まったくポーカープレイヤーってのは性格悪いのばっかりだぜ」

エル  「お互いさま」



○56


サクラ 「性格悪くて上等か。一年前、ふたりでポーカー部を立ち上げようって言っ

     てた頃は、こんな日が来ることさえ夢だった」

エル  「そうね」


エル  「ニナ、ちゃんと残ってくれるかしら」

サクラ 「残るさ。ありゃ典型的な負けず嫌いだ。今度こそ負かしてやるっつって、

     明日もここに来る」


エル  「そうなるとクリスが心配ねー、殺伐としそうだから」

サクラ 「スーが来るならついてくるだろ、たぶん大丈夫」


サクラ 「それより、スーが入部したことが棟梁にばれないか心配だ……(頭を抱

     える)」

エル  「それは自業自得」



○57


   翌日。

   2年生組が部室の外から中を覗いている。1年生組がすでに中にいる。   

サクラ 「ほら、みんな来てる」


スー  「先輩方が来る前に、部室のお掃除をするのです!」

クリス 「おー!」

ニナ  「十分かたづいてるし、わざわざやらなくてもいいでしょ。それよりこれ

     セットアップしたいんだけど……」

   ニナは手にノートPCを持っている。


クリス 「何に使うの?」

ニナ  「ハンド履歴を記録して解析するの」

スー  「ダメです! 隊長命令で今日は掃除なのです!」


ニナ  「なんで私まで部下扱い?!」

スー  「だって昨日負けたじゃないですかー」

ニナ  「それで決まるの?!」



○58


ニナ  「つまり、勝った者が隊長になるわけね」


ニナ  「いいわ。じゃあヘッズアップで勝負よ! 確率と文明の利器の恐ろしさ

     思い知らせてあげる!」


   スーとニナが向かい合ってヘッズアップ。ニナの傍らにPC。慣れな   

   い手つきでクリスがディーラー。

   ニナ、1コマで瞬殺。呆然。

ニナ  「……」


スー  「言うことは?」

ニナ  「(涙目)た……隊長ッ……!」

エル  「(部屋の外でグレイスに)同じ星に生まれた人がいるわよ」



○59


   2年生組、室内へ。

サクラ 「よ」

1年生 「お疲れさまでーす」


サクラ 「どうやら上下関係が定まったようだな」

ニナ  「認めませんっ!」


サクラ 「そう頑なになるなよ、どうせ最下層はグレイスだ」

   グレイス涙目。


   タンポポが背後から現れ、本のカドでサクラの頭をどつく。

タンポポ「学校でカーストを作るんじゃありません」



○60


   タンポポの前に、一同整列。

タンポポ「1年生のみなさんの入部届を、正式に受理しました。これから1年間、

     ポーカー部はこの6人で活動します。仲良くやっていきましょう!」


 一同、微妙な表情。特にサクラとニナ。

タンポポ「わかりました仲良くしなくていいです」


タンポポ「でも、真剣勝負を心がけてください。それだけできっと、」


タンポポ「とても楽しい高校生活になりますから」



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