0章:2話:「私」の行動
16歳の夏、私の思考は大幅にストレートな人間、昔の自分から見れば幼稚な人間となっていた。それは彼女、アナシアとの出会いにあった。アナシアは艶やかな黒髪に吸い込まれそうな金色の瞳をしており、当時の私では到底恋人になれるなど考えられないような恋人であった。
多大なる幸福感、安心感により脳の交換に関して何も考えてなくなっていた。いや脳についてなど考えなくしていたという部分も大きい。友との幼稚な喧嘩の思い出、まともな脳の交換を否定する主張をまとめることが出来ない幼稚さ、これらを彼女に知られることで嫌われてしまうのではないかという不安があった。
この幸福感と不安感に挟まれることで脳交換の準備から逃げるという気力を失っていた。気づくと手術の始まる日程になっていた。
手術は驚くほどあっさりとしたものだった。夜中に病院へ向かいカプセルの中で寝るだけである。起きたときは何も変わったことを実感することはない。しかしこれは本当に以前の私から見た私なのか?そもそも現在の私から見て過去の私が変わっていないと感じるだけであり、私は死んでしまって新しい私が生まれただけではないのか?手術自体のストレスよりそれに付随する私自身のストレスにより私は限界まで追い込まれていった。そして手術の予定が半分過ぎたころ私は行動を起こした。
その日、若者特有の強引さを用いアナシアと同時に施術を行ってもらうように頼み込んだ、本来であれば一人で行わなければいけないが、若者の不安を取り下げるためそうした融通が許されるのも本都市の慣例となっていた。通常一人で警備が大統領官邸のようなブラックボックスへ入らなければいけないが、この暗黙の了解を利用した方法を用いアナシアと二人でブラックボックスに入った。向かいの医者がいつものように施術前の質問を始めた。
『何か頭に大きな違和感を感じていますか?、または体調不良等感じていますか?』
私はこれをいつものように否定し、アナシアと二人で質問用の部屋と施術用の部屋に入った。
そこで私は行動を起こした。
『おい、そこの医者!今すぐ俺の脳をプロテクトを解かなければこの女を殺す!』
私はアナシアを引き寄せ横に置いてあるチューブを首に巻き付けた。アナシアと医者は初め全身を硬直させ明らかに頭が回っていない様子だった。そこで続けてこのように述べた。出来る限り大人に余裕を与えたくなかった。
『未成年が施術の中で死ぬようなことがあれば、間違いなく関係者の首は飛び、この都市のルール自体を変えるだろう、プロテクトを解く方法があるのは分かっている、今すぐ都市長に直接連絡をつけろ、施術室用のホットラインがあるはずだ』
ここまで言うと医者は手を震わせながら電話を取り始めた。私はこの隙にアナシアに騒がれては面倒であるため手足を縛り口を塞ぐ、アナシアは今まで見たこともないような不安そうな瞳でこちらを見つめるが、気にせず作業を続けた。そして荷物置き場から小型爆弾を取ってきて自分とアナシアの首につけ、事前に考えていた準備を完了する。
『ここで内密に事を済ますか、それとも都市の存続を危うくするか、よく考えろ』
都市長に電話でそう告げると、とうとう向こうがプロテクトを解く準備を始めだした。
そこで医者はこのように話した。
『まず、初めにこの施術は公には公表しません、本来では施術を途中で取りやめる、脳のプロテクトを解くことは何があろうとあり得ませんので』
当然分かっていると緊張を悟らせないように相手に伝える。
『このブラックボックスの行為に疑問を持つことで人類の倫理観を根底から覆すような事態が起きるかもしれないということはあなたも簡単には理解できているはずです、そこについてもう一度把握願います』
『ああ、分かっているからさっさと始めろ。時間を稼いで私を処理したいのか?』
そこまで言うと医者は話しても無駄だというように準備を進め、終えた。
『未成年で施術中の少年を処理するより、内密に事を進めたほうがよいと都市長は判断しましたがあなたがどうなるか自身は全く把握できません』
それでよいというように手を振った。
私の脳のプロテクトは解け、私の脳は解放された。徐々に脳が戻っていくはずだろうと聞きその場から逃走したのだが、ある程度予測していたが、驚くべき現象が起こった。
結論からいうと私は私ではなくなった。現在の私はオリジナルの私でなくなってしまったのだ。
現在の私の意識というのは半分は本来の脳、半分はナノコンピュータ集合体の上に成り立っている意識体である。しかし私は脳のプロテクトを解いてしまった、ナノコンピュータに代わらせ凍らせていた脳が解放されたのである。
これにより私はもう一人生まれてしまった、半分の現在の脳と、もう半分の施術の一か月間徐々に時期がずれた脳で、脳から形作られる本来オリジナルと呼ぶべき新たな意識体が目覚めてしまった。
私は大変中途半端な存在となってしまった、片方は昔から連続して引き継いだ意識ではあるがナノコンピュータの上に成り立っているいわばオリジナルでない私。もう片方はオリジナルの脳の上に成り立っている私から見れば一度意識が途切れたことによるコピー以下である私(あくまでこれは私から見た私である、コピー以下の私にとってその存在は一部の脳が一か月先の経験まで積んでいるオリジナルの脳でしかない)である。
私たちは1つの体に2つの意識体となったが片方の脳は共有している状態で、今までにないシナプスの流れを生じ、思考する際も脳みそを掃除機で吸われているような状況になってしまった、この脳の状況は私が望んだ行為により生じたものである。私はアナシアではなく今の状態のワタシを選んだ、しかしこれが正しかったのだろうか、私には分からない。
精神転移で永遠の命と全能AIを作り出したセカイ シラクサ @SFonly
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。精神転移で永遠の命と全能AIを作り出したセカイの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます