『異』常な『異』世界の『異』物は私

『異』常な『異』世界の『異』物は私

 目が覚めたら、そこは別の世界だった。


 別に魔法が存在する世界とか、科学が異常に発達した世界とかそういうファンタジーみたいなのじゃない。


 何かが微妙に違う。何かが正反対になっただけの、現実世界とさほど変わりがない異世界。


 実を言うと、これが初めての異世界というワケでは無い。


 私は放浪者なのだ。毎日目が覚めると世界が変わっていて……もう一年余り異世界を放浪している。


 まあ、そもそも現実世界とかわらないどころか、私の家も隣近所も変わらず私だけが変化しているだけだから、異世界だという実感がない。


 それでも……何かが真逆になるというのは、それだけでおぞましいモノだった。


 中でもワーストワンが、豚と人間が逆になった世界だろうか。


 私の体は二足歩行する豚になっていて、食卓には人間のソーセージやハムが並んでいるのだ。親も兄弟もみんな豚になっていて、誰もが自分に疑問を抱かない。


 みんなおいしそうに、晩ご飯には人間のステーキをばくばくと食べていた。


 おぞましい。異常だ。


 いや、あの世界では異常なのは私のほうだったのだが……あの世界では、豚が人間を食すというのが常識だったのだ。


 他にも、性別が入れ替わった世界では、母親が父親になっていたし、私も女性になっていた。


 そう言ってしまえば、単なる男女入れ替わりの世界なのだが、あの世界では、男性が女性と呼ばれているだけの……単なる名称が入れ替わっただけの世界だった。当然、私の体には男の象徴が存在していた。


 していたのだが、何故か服装までも入れ替わっていて、女装させられるハメになってしまった。女のかっこをした男と、男のかっこをした女が生活する世界。


 ハゲたおっさんがキャミソールを着ているのを見たときは、吹きそうになった。だが、周りは誰も笑わない。あの世界では、男がスカートをはくのが常識だったのだ。


 他にも、愛情表現と暴力が逆になった世界があった。


 カップルがお互いの顔を殴りあっているのは日常茶飯事だったし、家の父親と母親は、包丁でお互いを笑顔で刺し合っていた。


 私も姉に、鉄パイプで頭を思い切り殴られた。


 異常だ。だが、彼らにとってはそれが当たり前の愛情表現なのだ。逆に、相手をいたわったり、キスやハグをするのは殺意を持つことと同義。


 さて、と。そろそろ起きるか。


 今日はどんな世界なのだろうか。できればまともな世界であって欲しいのだが……。


 ベッドから起きようとした私は、自分の体の変化に気が付いた。


 体が重い。そして、なぜか息苦しい。まともに歩けない。


 急いで鏡を見て確認する。すると、そこにいたのは老人だった。


「どうして?」


 しゃがれた声で鏡の中の老人は驚く。間違いなくそれは私だった。


 今度は窓の外を見て驚いた。


 老人達がランドセルを背負って、杖を付きながら集団登校しているのだ。


 それを小さな子供達が見守っている。


 ああ、なるほど。と、そこである程度合点がいった。


 それを確認するため、家族の姿を見なければ。


 私はおそるおそる、階段をゆっくりと降りていった。


「あら、今日は早いのね」


 リビングの扉を開けると、10歳くらいの女の子がキッチンで野菜を切っていった。


 どことなく、幼い頃の姉に似ている。


「母さん。今日、部長と飲みにいくから、晩ご飯いらないよ」


 と、こちらも小学生くらいの男の子が歯磨きをしながら顔を出してきた。 


 そのとき、赤ちゃんの鳴き声が聞こえてきた。


 家に赤ちゃんはいない。いったい、どういうことだ?


「あーもう。またおばあちゃんだわ。ちょっとはあんたも介護手伝いなさいよ、ほんともうー」


 女の子はトテトテと、リビングを出て行くと、今度は赤ちゃんを抱いて戻ってきた。


「おはよう、おふくろ」


 赤ちゃんに向って男の子が頭を下げる。


 そうか。この世界は……老いが逆になった世界なのか。


 ~終~

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