第二部

第二部 プロローグ

プロローグ




 格子の付いた窓から見える、時代を映したかのような荒れた冬空。幕末、俺は座敷牢にいた。

 江戸で捕まり、どこをどうしたのか京都にまで運ばれてしまった。男達の口調から、俺を捕まえたのが薩摩藩だと分かったが、それならなぜ幕府に引き渡さない。そのせいで、敵地に潜り込む計画も失敗だ。

「………」

 それに加え、先ほどから威圧的にジッと俺を見下ろすこの大柄な男だ。男は不意に、こう呟いた。

「江戸で人斬り、となれば先の読めん長州もんかと思うちょったが……これはこれでよか。おい貴様、おいどんの刀になれ」

「……はぁ?」

 突拍子のないその言葉に、これまで黙りを決め込んでいたのにも関わらず俺は口を開いた。

「……幕府に俺を引き渡さずにこの薩摩もんが、一体何の真似だ?」

「詳しいことは語れん」

 男はそう言いながら、俺の前にどっかりと座り込んだ。やめるよう促す周りの声などお構いなしに、見定めるように鋭い眼光で俺を目を覗き込む。

「じゃっとん、貴様にも損はなか。いや、それもこれからの会合次第か。とにかくこれからの薩摩には、お前のような長州紛いのイカレが必要じゃち」

「くだらねぇな」

 俺は鼻で笑い、そっぽを向いた。男の底なしの目から、視線を逸らす為にだ。

「攘夷だか開国だか知らないけどな、俺は討幕にしか興味はないんだ」

「そこが良か」

「……あんた、本当に薩摩か?」

 かかか、と男は笑う。不気味な男だ。見てくれの豪胆さとは裏腹に、逸物隠したような不敵さがある。

「なぁ、おい」

 男は格子のすぐ手前にまで詰め寄る。

「何がぬしをそげん駆り立てるかは知らぬ、だけんどこんまま死ぬのもつまらぬぞ。坂本ちゅう男の言う、こん国の為と思うて……その命、この西郷吉乃介さいごうきしのすけに預けてみんか?」

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