エイプリルフール2017—2話:失態
私がどうやってスクールカーストの上位に立ったのか。それは嘘をつき続けたからだ。
自分が相手より上と認識させるにはマウンティングが一番早い。そしてマウンティングの基本は嘘に尽きる。けれど、それはとても難しいこと。
さて、嘘を吐き続けた結果、どうなったと思う?嘘に嘘を重ねて、その嘘すらも嘘で、―――私は嘘でできているらしい。
恋愛ですら嘘を吐く。
「愛華ちゃんって、彼氏いるんだっけ?」
との質問が来れば、
「県外の高校に通ってるんだけどね」
と嘘を吐く。そして、
「ヒ・ミ・ツ」
と男子に聞こえる程度に言う。
後日、私の発言を聞いた男子が「俺、行けるかも」と思って私に告白する。
「あ、愛華ちゃん、俺と付き合ってください!」
はいきた。
「ごめんなさい」
頭を下げて謝る。自然と口角が上がる。
ああ、なんて馬鹿な男。
「気持ちは嬉しいけど」
全く嬉しくないわ。
「気になる人が……いるの……」
いないけど。
「え、あ……、そうなんだ」
1年生の5月頃、私が高校に入ってからの最初の"遊び"がこれだった。高校生なんだから4月中には告白してくる男がいると思っていたのに、根性無しの男しかいなくて、つい私から仕掛けてしまったのだ。
その後、イケメンな先輩(チャラ男)、イケメンな同級生(クール系)、ブサイクな男(メガネ)と次々に告白されたが、すべて断った。
⁂
そして、今に至る。
高校生で男がいないのは、流石にマズいと感じているのだ。そこら辺にいい男でも転がってないかなと窓の外を伺う。しかし、残念ながら外では体育の授業はなく、誰もいない校庭を眺めるだけになってしまった。
「はぁ」
とため息を吐いた。
今は授業中だ。授業に集中しよう。そう思ったのだが、私の嫌いな数学の授業ですぐに集中力が切れる。そして今度は右隣の席に目を遣る。隣に座る彼は授業を受ける態度すらなく、爆睡していた。隣の彼はいつもこうやって授業を聞いておらず、寝ている。それは2年生になってからずっとだ。最初のうちは彼を起こしてあげていたのだが、面倒になってきて、いつの間に止めてしまった。しかも、私のクラスでは担任の先生の意向により、席替えはないそうだ。つまりは、2年生が終わるまでずっと彼を起こさなくてはいけないのだ。そう思い起こすのはおっくうだという結論に至った。
そういえば、彼と一度も話したことがない。彼が誰かと話していることも見たとがない。友達がいないのかな?
⁂
「愛華、放課後暇?」
修了式の日、仲の良い友達(に見える女)に誘われた。今日は、午前中に式を行って午後には放課だからだ。
「ごめんね。今日は行かなきゃいけない場所があるんだ」
―――嘘だけど。
「ふーん、彼氏?」
「いないからね!」
「はいはい、分かってますよ!」
彼女はそう言って自分の席に戻った。全く面倒な奴だ。
修了式が終わるとさっさと荷物を鞄に詰め込んで教室を後にした。行かなきゃいけない場所があるのは嘘だが、行きたい場所はあった。それはCDショップだった。私が好きなアーティストのアルバムが先日発売されていたので買おうと思っていたのだが、今日まで買う機会がなかったのだ。私は急いで、けれども歩いて店内を回る。そして、お目当てのアーティストのアルバムを見つけると、辺りをキョロキョロと見てからサッとCDを手に取る。そして胸でCDを隠しながらレジに向かった。
私がこんなにも不審な行動をしているのには訳があった。それは、私が好きなアーティストというのがヘビーバンドだからだ。"清楚"な私がヘビーバンドのCDを買っている所に同じ高校の人と出遭ってしまったらどうなるだろうか。翌日には私がヘビーバンド好きというのが校内の隅々までに広がってしまう。
ともあれ、レジに来ればもう安心だ。レジ袋に入れればCDのジャケットは見えない。―――勝利は決まった。
「3210円でーす」
えーっと、3000円と、あー、10円が見当たらない。300円でいいか。でもピッタリで払いたい……。
「―――
んー、やっぱり見つからないから300円で……、え?
「お前、槇原だろ」
槇原とはもちろん私のことだろう。
「な、なんで……」
「なんでって、バイトしてんだよ」
目の前に立つ店員は隣の席の"彼"だった。
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