第22話
悲しい気持ちで図書館を出た私は、とぼとぼとホテルへと戻る。
今も女神様は幸せの宝玉を探しているのかしら。
探しても探しても見つからない幸せの宝玉を。
もしも私が幸せの宝玉を見つけてしまったら。
もしも私が幸せの宝玉を持ち帰ってしまったら。
白い女神様はそれでもずっとずっと探し続けるのかな。
空を見上げると、もう夜がそこまでやってきていた。
案内板の前に立った私は、ホテルの場所を聞こうとして、呟いた。
「……幸せの宝玉」
すると案内板から矢印が飛び出した。
驚く私に矢印はついて来いと合図する。
街の人が家に帰ろうとする中、私は矢印の後ろを歩いた。
どこに行くんだろう?
しばらく歩いて辿り着いたのは公園だ。
でもどうしてこんな所に案内したんだろう。
矢印はまだまだ歩いていく。
そして矢印は公園の端に、私を案内してその姿を消した。
顔を上げると、二つの石像があった。
向き合う綺麗な女性の像。
その手には石の玉が置かれている。
石像の前には「二人の女神と幸せの宝玉」と書かれたプレートがあった。
「願いは叶ったかしら」
突然後ろから話しかけられて私は振り向く。
そこには真っ黒な服を着た綺麗なお姉さんが立っていた。
いつの間にか公園には誰もいなくて、私とお姉さんだけになっている。
「あの、お姉さんはどなたですか?」
「私はこの国を見守る者」
次の瞬間、お姉さんの背中に真っ黒な翼が広がった。
私は目をぱちくりさせてお姉さんを見つめる。
「貴女の行いもしっかり見せていただきました」
「黒い……女神様?」
お姉さんは優しい笑みを浮かべて頷いた。
それからゆっくりと口を開く。
「心優しい少女アリスティア、貴女に本の続きをお話ししましょう」
「本の、続き」
さっき図書館で読んだ本の続きだとすぐに気付いた。
私は黒い女神様を見つめて頷く。
「幸せの宝玉をこの地に落とした白い女神と私は、激しい言い争いをしました。どうして私が白い女神の提案に反対したかわかりますか?」
私は首を横に振った。
皆を幸せにしたい、白い女神様はそう思っていたはず。
私は白い女神様が悪い事をしているとは思えなかった。
「幸せの宝玉は、貴女達に伝わっている通り、手にした者を幸せにする。しかし誰かが幸せになると、それを妬む者が必ず現れます。そして奪い合いが始まるのです」
黒い女神様は悲しそうな表情を浮かべた。
まるでこの不思議の国で争いがあったかのように。
「この国でも幸せの宝玉を求めて多くの人が争いました。その結果多くの人が不幸になりました。幸せの宝玉は幸せではなく不幸をばら撒いたのです。そうなることは最初からわかっていました。だから私は反対しました」
目に涙を浮かべながら黒い女神様は語る。
私はあの本を読んだ時、黒い女神様は悪い女神様だと思った。
皆を幸せにしたかった白い女神様の願いを反対したから。
でも、黒い女神様はすべてをわかっていた。
私はまた悲しい気持ちになった。
「私は白い女神に言いました。貴女のせいで皆が不幸になったのだと……それから白い女神は、自分の落とした幸せの宝玉を探し始めます。決して見つからない幸せの宝玉を」
「どうして、見つからないのですか?」
黒い女神様は少し俯いて話を続けた。
「白い女神が落とした幸せの宝玉は、私が見つけこの手で壊したからです」
「ど、どうして教えてあげないんですか!?」
「皆に不幸を与えた白い女神への罰だからです。白い女神が幸せの宝玉を落とそうとした時、止められなかった私にも罰が必要でした。私が私に与えた罰は、白い女神に会わないこと」
黒い女神様はぼろぼろと涙を零した。
本当は白い女神様に罰なんて与えたくなくて、黒い女神様は白い女神様と一緒にいたかったんだ。
「私達はもう、その像のように向き合う事はできないのです」
悲しそうに涙を流す黒い女神様と、幸せそうに向き合う女神像を見た。
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