第21話
人の波の中を歩いていくと、周辺の地図が描かれた案内板を見つけた。
私はすぐに案内板を見上げる。
マッソイの案内板は、私の行きたい場所を教えてくれたけど、カイムラーバントの案内板はどうだろう?
見てみるが案内板は教えてくれない。
この案内板は普通の案内板なのかな?
私は周りの人の様子を見てみる。
すると皆、案内板に話しかけていた。
私もマネして案内板に話しかけてみる。
「すみません、図書館の場所を教えてください」
話しかけてみると、案内板から足の生えた矢印が飛び出した。
矢印は私の横に着地すると、ぴょんぴょん飛び跳ねて歩き出す。
わぁ、カイムラーバントの案内板は、本当に案内してくれるんだ!
交差点に到着すると、矢印はくるくると回って次の道を示す。
矢印と一緒に歩いて行くのは楽しかった。
しばらく歩いた後、矢印は大きな建物を指して立ち止まる。
「ここが図書館?」
私が聞くと矢印の先端が何度も頷いた。
お礼を言って手を振ると、矢印も小さな手を振ってぽんっと消えた。
私は図書館の入口の、大きな両開きの扉を開けて中に入った。
ふわっと図書館独特な香りがする。
図書館の中は狭い部屋で、部屋の真ん中にテーブルと分厚い本、反対側にドアが一つあるだけだった。
私は部屋の真ん中の本を開こうとした。
でも石でできていると思える程硬くて、表紙を開くこともできない。
困った私は案内板の時のように本に訊ねてみた。
「あの、幸せの宝玉に関して書かれている本はありますか?」
聞いてみると、分厚い本の表紙が開かれ、ページが捲れていく。
そして幸せの宝玉と書かれたページでぴたりと止まる。
覗き込んでみると、図書館でのマナーと、正面のドアに向かって矢印が書いてあった。
私は図書館でのマナーをよく読んでから、正面のドアを開いた。
その先はたくさんの本棚が並んだ広い部屋だった。
本棚には色んな本がならんでいる。
このどこかに幸せの宝玉の本があるんだ!
本棚の間を歩いていくと、本棚からすっと一冊の本が飛び出した。
ちょっとびっくりしたけど、私はその本を手に取る。
ぴかぴかの玉。
タイトルにはそう書かれていた。
すぐにこれが幸せの宝玉の本だとわかった。
この図書館では読みたい本が、自分で出てきてくれるんだ。
私は早速その本を読む為に、部屋の奥にあるテーブルに向かった。
椅子に座って本をテーブルの上に置く。
この本にはどんなことが書かれているんだろう。
私はドキドキしながら本の表紙を開いた。
ぴかぴかの玉。
かつて二人の女神様が、ぴかぴかと優しく光る玉を作りました。
二人の女神様は、ぴかぴか光る玉をとても大切にしていました。
ある日、白い女神様が言いました。
「私達だけがこの玉を持っていて良いのかしら?」
黒い女神様が言いました。
「この玉をどうしようというの?」
白い女神様は、不思議の国を見つめて言いました。
「この地に住む者達にも、この光を分けてあげたい」
それを聞いた黒い女神様は、眉をひそめました。
「そんなことをしてはいけない」
黒い女神様はそう言いました。
白い女神様は黒い女神様に聞きました。
「どうしてダメなの?」
黒い女神様はただ首を横に振って黙っていました。
黒い女神様が何も言ってくれなかったので、白い女神様は白い女神様の目を盗んで、玉をもうひとつ作り不思議の国に落としました。
すると玉はぴかぴかと光を放ちました。
光に照らされた大地は花が咲き乱れて、生き物達は幸せな気持ちになりました。
白い女神様は不思議の国の様子を眺めて、満足そうに微笑みました。
幸せになれるぴかぴかの玉!
間違いない、これが幸せの宝玉だ!
私は本の続きを読む。
その事を知った黒い女神様は悲しみました。
「ダメだと言ったのに、どうして玉を不思議の国に落としたの!」
黒い女神様は白い女神様を叱りました。
白い女神様が落としたぴかぴかの玉は、たくさんの生き物の手を渡り行方がわからなくなりました。
黒い女神様に叱られて深く落ち込んだ白い女神様は、行方のわからなくなったぴかぴかの玉を探し始めました。
しかしぴかぴかの玉は見つかりませんでした。
白い女神様は涙を流しながらぴかぴかの玉を探し続けました。
物語はそこで終わっていた。
私はなんだか悲しい気持ちになって本を閉じた。
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