第18話

「木箱の中にお魚が入ってるニャー!」

「やっぱりこいつ等が犯人だニャー!」


 数匹の猫が、部屋に積まれている木箱を調べて声を上げる。

 証拠も見つかり猫達はますます激怒した。

 大人の人間達を相手に、猫達は奮闘する。


 群がり引っ掻き噛みつき、とにかく現れる大人達をやっつけていく。

 猫達に続いて私も頑張る。

 蹲る人達の頭にフライパンをお見舞いして気絶させた。

 

 しかし、この人達は一体何者なんだろう?

 やっぱり海賊か何かなのかな。

 正体はわからないが、猫達のお魚を独占しているから、悪い人達には違いない。


「こっちの部屋は制圧したニャー!」

「こっちの部屋も制圧完了だニャー!」


 猫達が部屋を制圧し私達は更に奥へと進んで行く。

 いくつかの部屋を見て回っていると、廊下の奥から今までの大人達とは違う雰囲気の人が姿を見せた。

 大きな帽子に眼帯をしている。

 見るからに海賊という風貌の人だ!


「おう、何事だ!」

「船長、猫と小娘が暴れまわってるんでさぁ!」

「なんだと?」


 船長と呼ばれた人はずんずんと前に進み出てくる。

 今までの人達とは迫力が違い、猫達も動きが停まった。


「なんだてめぇは! 俺達に何の用だ!」


 海賊の船長は大声で怒鳴る。

 私も猫達もその声にびくっと体を震わせた。

 怖い、すごく怖い。

 それでもラーカスとギュスクは、猫達のリーダーとして一歩前に踏み出した。


「お前がここのリーダーかニャー!」

「俺達のお魚を返してもらうニャー!」

「魚? 一体何の話だ?」


 船長は低い声で答える。

 あくまで白をきるつもりらしい。

 私は勇気を振り絞って海賊の船長に言った。


「ルーレとラヌーの猫達が、お魚を食べられなくなってるの! だから、お魚を独占するのはやめてください!」

「何ぃ?」


 ギロリと睨まれて私の足はがくがくと震える。

 私は泣きそうになりながらさらに訴える。


「猫達にお魚を返してあげてください!」

「待て、泣くな! ちゃんと一から説明しろ!」


 大声を出されてまた体がびくんと跳ねる。

 私達の様子に船長は少し焦っているようだった。


「とりあえず廊下で話をするもんじゃねぇ、ついてきな」


 船長は背中を向けると廊下を歩いていく。


「どうするニャー、ついて行っても平気なのかニャー?」

「罠があるかもしれないニャー」


 ラーカスとギュスクは猫達と相談を始めた。

 でも、行かないと話を聞いてもらえない。

 私は猫達にこう提案した。


「私が話をしてくる」

「ニャー、それじゃあアリスティアが危ないニャー!」

「俺とラーカスも一緒について行くニャー、他の者には人間達が変な動きをしなか監視させるニャー」


 ラーカスとギュスクは猫達に指示を出した。

 そして私とラーカス、ギュスクは船長の後について行った。

 部屋の中に入ると船長が、椅子に座って私達を待っていた。

 三つ用意された椅子に私達も座った。


「まず最初に聞きてぇ事があるんだが」


 船長が質問しようとする。

 私は息を飲んで続きを聞く。


「どうして猫が喋ってるんだ?」

「え?」

「何を言ってるニャー」

「猫が喋るなんて普通の事だニャー」


 船長は頭を掻いて私達を見つめる。

 そこで私ははっと気づいた。

 ここの人達は不思議の国の人じゃないんだ!


「海賊さんは不思議の国の人達じゃないんですね」

「待てお嬢ちゃん、そいつは聞き捨てならねぇ。俺達は海賊なんかじゃねぇぞ」

「それじゃあここの人達は……?」

「ただの漁師だ」


 そう言えばここに辿り着くまでの間、やっつけてきた大人達は誰一人として武器を持っていなかった。

 私はとんでもない勘違いをしていたんだと、顔が熱くなった。


「でも、それならどうしてお魚を独占しているんですか?」

「この島の東の街に人がいなかったからだ」

「ニャー、俺達がいるニャー!」


 船長さんも、猫の街だとは思っていなかったようだった。

 だから私はルーレとラヌーの街の説明をした。

 すると船長さんは驚いてラーカスとギュスクを見つめた。


「お前達があの街の住民だったとはな、俺達はてっきり捨てられた街だと思っていた」

「なんて失礼なニャー!」

「落ち着いて、ギュスク」

 

 私はフーフーと息を荒げるギュスクをなだめる。

 それから船長さんとの会話を続ける。


「ラヌーもルーレも猫達が多く住んでいます。だからお魚を独占するのはやめてほしいんです。ルーレとラヌーの猫達にもお魚を食べさせてあげたいんです」

「そいつぁ悪い事をしたな。わかった、これからは捕った魚は、猫達の街へ持っていく事にしようじゃねぇか。もちろん全てってわけじゃねぇがな」


 船長さんは事情を理解するとすぐに了承してくれた。


「一緒にお魚を捕ってくれるのかニャー?」

「ああ、これからは一緒に漁をしようじゃねぇか」


 ラーカスの質問に船長さんは快く応じてくれる。

 なんだ、全然悪い人達なんかじゃなかった!

 そこからラーカスとギュスクと船長さんは、お魚のあれこれを話はじめた。


 その後、船乗り達に謝って歩いた。

 しかし海の男達の心は広く、事情を話すと笑って済ませてくれた。


 こうしてルーレとラヌーの猫達の問題は無事に解決したのだった。

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