第14話
暗い通路の奥まで進むと上から光が射している。
私はそこから顔をちょっとだけ出して様子を伺った。
場所は倉庫の様な所で、壺やタルがいくつも置かれた小さな室内だ。
私は体を持ち上げて外へ出る。
何から出てきたんだろうと後ろを振り返ると、そこには壺が並べられていた。
ラヌーからルーレへ帰る時はこの壺を利用するみたい。
私は出入り口のドアを開けて外に出る。
外はもう夕方だった。
赤いレンガで作られた建物が多いラヌーの街を眺めながら歩く。
夜になる前に話を聞いておきたい。
私はラヌーに住んでいる人の姿を探した。
しかしこの街もルーレと同じく人の姿が全然なくて、その代りに猫があちこちにいる。
一戦交えるという物騒な言葉を聞いた時は、ラヌーに住む人々と戦うのかと思ったけど、どうやら戦おうとしている相手は同じ猫同士のようだった。
それでもやっぱり戦うとなると、お互いに怪我をしてしまう。
できる限りそれだけは避けないといけない。
とにかくまずは話を聞かなくちゃ。
私は近くを歩く猫に話しかけた。
「こんばんは」
「こんばんはニャー」
ラヌーの猫はどこか元気が無く、周りの猫を見ても同じだった。
「元気が無いようだけど、何かあったの?」
「ニャー、今ラヌーは大変なんだニャー」
「何かあったの?」
「ここ二週間お魚を食べてないニャー」
あれ、ルーレの猫達と同じ事を言ってる。
どういうことだろう?
「詳しくはあの大きな建物で聞くニャー」
それだけを言うと猫は元気なく歩いて行った。
私は猫に教えてもらった大きな建物に向かう。
本来なら活気があるだろうラヌーの街は静かで寂しかった。
この街の猫達も助けてあげたい。
その為にはここのリーダーと話をしなくては。
大きな建物に到着し、ドアを開けて中に入る。
すると二匹の猫が、私の足元にやってきてふーふーと息を荒げた。
「誰だニャー!」
「今大事な会議中だニャー!」
「私はアリスティア。ラヌーの猫達がお魚を食べていないと聞いて来たの」
二匹の猫は顔を見合わせて私を見上げる。
「僕達を助けてくれるニャー?」
「人間が助けてくれるニャー、これでお魚が食べられるようになるニャー」
猫達に案内されて私は建物の奥へと入って行く。
そこではラーカス達と同じように、数匹の猫がテーブルの上に座って話し合っていた。
「むむ、誰だニャー?」
「こんばんは、私はアリスティア。どうしてお魚が食べられなくなったのか聞きに来たの」
「俺はラヌーのリーダーをしているギュスクだニャー。お魚が食べられなくなったのはルーレの連中のせいだニャー。あいつ等がお魚を独占してるに決まってるのニャー」
ラヌーのリーダーギュスクの言い分は、ルーレのラーカス達と全く同じだった。
でもルーレの猫達もお魚を食べていない。
いったいどういう事だろう?
「待って、貴方達がお魚を独占しているんじゃないのね?」
「俺達はそんな事しないニャー!」
「ルーレの猫達もお魚が食べられなくなって困っているの」
「なんだってニャー!?」
お魚を独占していたのは、ラヌーの猫達でもルーレの猫達でもなかった。
ということは、ルーレとラヌーは争う必要なんてない。
ラーカス達はまだラヌーの猫達のせいだと思っているだろう。
早くこの事実を教えてあげないと!
「俺達が食べる分のお魚を、捕っているのは誰なんだニャー?」
テーブルの上の猫達がざわつく。
ルーレの猫達でもラヌーの猫達でもないとすると、他にお魚を捕っている誰かがいるに違いない。
その誰かに、お魚を捕り過ぎないようにしてもらえれば、ルーレとラヌーは争わなくて済む。
「私は貴方達がお魚を独占していない事実を、ルーレの猫達に知らせてくる。その間にこの辺りで、怪しい人を見かけたりしなかったか探してほしいの」
「わかったニャー、ここは小さい島だニャー、すぐに見つけて見せるニャー!」
ギュスク達と話し合いを終えて、ルーレに戻ることになった。
建物を後にした私は、来た道を戻りルーレへ通じている壺のある小屋へと向かった。
小屋に辿り着き中に入って壺を覗き込む。
どの壺だったかな?
一つ一つ壺の底に手を伸ばして一番深い壺を探す。
これだと思った壺に足を入れて中に入ると、暗い通路が伸びていた。
急いでルーレに戻らなきゃ!
ラーカス達はラヌーの猫達と、戦う準備をしているかもしれない。
通路を抜けて部屋に出る。
するとさっきまで、通路を塞いで眠っていたフクロウの姿がなくなっていた。
真っ直ぐ伸びる通路を走って、私はルーレへと戻った。
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