第10話

 朝、目が覚めた私はベッドから抜け出して大きな伸びをする。

 疲れていたのか夢を見ることもなくぐっすりと眠れた。

 チェックアウトを済ませたら、いよいよルーレに向かって出発だ。

 私は普段着に着替え、パジャマを旅行鞄に片付けた。


「よいしょ」


 少し重い旅行鞄を持って私は部屋から出ていく。

 ドアを閉める前に、もう一度部屋の中をよく眺めてみた。

 また泊まりに来るからね。


 旅立つ前にレストランに移動し、旅行鞄から皮の水筒を取り出して、ホテルの人にお水をいただき、その後、受付のお姉さんの所へ向かい鍵を返してお金を払う。


「またのご利用お待ちしております」

「はい、ありがとうございました!」


 チェックアウトを終えると受付のお姉さん、ベルボーイさん達が深々と頭を下げる。

 私は出入り口でホテルの人達に、ぺこりと礼をしてホテルから出た。


 外は今日も良い天気だ。

 青い空に少々の白い雲。絶好の旅行日和!

 ポケットから取り出した懐中時計は七時三十分を指している。

 マッソイの街はこんな時間でも貿易商の人達や、海のお仕事をしている人で賑わっていた。

 私もその人達と同じように歩き出す。

 まずは不思議の国の地図とコンパスを買おう。

 昨日はノーニャちゃんがいたから、洞窟まで辿り着けたけど、一人じゃルーレの街まで行くのは大変だからね。


 案内板の前までやってくると、昨日とは違う所に印が付いていた。

 きっと昨日と同じで、地図とコンパスが売っているお店を教えてくれているんだ!

 手帳に簡単な地図を書き、お礼の代わりに案内板を撫でてから出発した。


 こんな時間にお店が開いているのか少し心配になったけど、案内板が教えてくれたお店は、丁度開店するところだった。


「あの、ここは地図とコンパスを売っていますか?」

「いらっしゃい。ああ、どっちも扱ってるよ」


 店主さんらしき人は、笑顔で答えてお店の中に招いてくれる。

 地図はできるだけ見やすい物を、コンパスは小さめの物を購入した。

 お礼を言ってお店を出ると、早速丸められた地図を広げる。

 まずマッソイを探す。地図ではこの街は左端の方に描かれていた。

 次にルーレを方角を示すマークを参考に探していく。


 指で道をなぞっていくと、マッソイの上、ちょっと左寄りにルーレという文字が見つかった。

 コンパスを用意して方角を調べる。

 くるくると何度か周って赤い針が北を教えてくれた。


 さぁ、ルーレへ行こう!

 地図を丸めコンパスと一緒にポシェットに入れて歩き出す。

 私がマッソイから旅立とうとした頃には、もう街の人達も起きて道に人が増えてきていた。

 マッソイの出入り口ともいえる場所に立つと、一度街に振り返る。


「行ってきます!」


 私にとっての始まりの街マッソイを後にして、次の街ルーレを目指し延びる道を歩いていく。

 商人らしき人や観光客や荷物を乗せた馬車が道を通る。

 ひとりぼっちの旅じゃない事にほっとして私は歩き続けた。


 時々立ち止まって旅行鞄から水筒を取り出して水を飲む。

 もう冷たくはないが、喉を通ってお腹の中に入っていく感触が心地いい。

 水筒の蓋を閉め旅行鞄に片付ける。


 辺りの景色は、マッソイを出た所からあまり変化は見られなかった。

 でも探せばきっと不思議なものがたくさんあるはずだ。

 探したい気持ちを抑えて先へと進む。


 太陽が頭の上まで昇った頃、私のお腹はぐぅと鳴きだした。

 そういえば昨日のお昼から何も食べてない。

 足も疲れてきたし、昨日食べ損ねたパンもあるからお昼にしよう。


 水筒を取り出した後、道の脇に旅行鞄を置いてその上に座って脚を伸ばす。

 今どの辺りまで来たんだろう?

 もう半分くらい歩いたのかな?

 地図を広げて考えるけど全然見当がつかなかった。


 とにかくお昼を優先しよう。

 ポシェットからパンを取り出してがぶりと噛みつく。

 ちょっと固くなっているから、水と交互に口に入れて飲み込んだ。


 パンを食べ終わり水筒を片付けて立ち上がる。

 もう少し休んでいきたい気持ちもあるけど、自分の現在地がわからない以上できる限り進んだ方が良いはず。


「お腹いっぱい、よし行こう!」


 ルーレの街を想像しながら私は歩きだした。


 食事をした場所から一時間程進むと道が二手に分かれていた。

 地図を広げてどっちの道かを調べる。

 真っ直ぐ行くとルーレの街、右に進むとカイムラーバントという街へ続いていた。

 更に今いる分岐点からルーレの街は、地図で見るとすぐ近くだ。


 大きな荷物を持ったおじさんや、馬車の多くがカイムラーバント方面へと進んで行く中、私は真っ直ぐ進む。

 分岐点から約二時間。とうとう私の前に新しい街が見えてきた。


 わくわくと胸が高鳴る。

 あの街に幸せの宝玉があるかもしれないんだ!

 私の疲れは嘘のように消えて、ルーレに向かって足を運んでいた。

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