第6話
マッソイの街の外れまでやってきた私とノーニャちゃんは、いよいよ北東の洞窟を目指して出発しようとしていた。洞窟までの道のりはそんなに遠くないけど、道の無いところを歩いて行かないといけないらしいから大変そうだった。
それに太陽が傾いてきている。急がないと夜になっちゃう。
私達は洞窟に向かって歩き出した。
「大変な事に巻き込んじゃってごめんね、アリスティアちゃん」
「気にしないで、おかげでこうしてお友達ができたんだもん」
「友達……」
ノーニャちゃんは驚いた表情で私を見つめている。
私変な事言ったかな?
「今までずっと一人で本を読んで過ごしてきたから、友達いなかったんだ……」
「もう私達は友達だよ!」
私ははにかんで見せる。ノーニャちゃんはつられて笑顔になっていた。
ノーニャちゃんが恐る恐る手を繋いでくる。
私は彼女の白くて柔らかい手をぎゅっと握った。
「さぁ、日が暮れる前に本を見つけよう!」
「うん!」
私達は道なき草原を歩いていく。
狼やイノシシ、それだけじゃなく他の国に存在するというモンスターが、この不思議の国にもいるかもしれない。それらと遭遇しないことを神様に祈りながら進む。
草原はやがて森になり、足元は落ち葉でいっぱいになっていた。
ざくざくと落ち葉を踏みしめる。時々枯れ枝を踏みつけて私達は肩を震わせた。
鳥の鳴き声もなんだか不気味に聞こえてしまう。
ノーニャちゃんは今にも泣きだしそうだ。
私達はいつの間にか、両手を繋いで恐る恐る森の中を進んでいた。
「こ、怖いよアリスティアちゃん」
「だ、大丈夫。二人一緒にいれば絶対大丈夫だから。洞窟はもうすぐなのかな?」
「うん、もうすぐ見えてくるはず……きゃっ!」
繋いでいた手が突然離れる。ノーニャちゃんは地面から飛び出る木の根っこに、足を引っかけて転んでしまったようだ。
「だ、大丈夫ノーニャちゃん!」
「痛たっ……!」
彼女の白くて長いスカートに、赤い染みが広がっていく。
私はポシェットから買ってきたお薬とハンカチを取り出して、ノーニャちゃんのスカートをたくし上げた。膝を擦りむいて真っ赤な血に濡れている。
大変、早く手当しないと!
お薬の蓋を開けて中身の液体をハンカチに染み込ませる。
「ちょっと沁みるけど我慢してね!」
そう言ってから傷口にハンカチを押し当てた。
ノーニャちゃんの体がびくんと跳ね、目を瞑って痛みに耐えている。
綺麗に土を拭き取ってからもう一度お薬を傷口に塗っていく。
それからノーニャちゃんのハンカチを、膝に巻き付けて結んだ。
「あ、ありがとうアリスティアちゃん」
「大ケガじゃなくて良かったよー」
ふぅっと息を吐き出してひとまず手当を終える。
でもちゃんと治療しないと、白くて綺麗な足に跡が残っちゃうかも。
急いで本を見つけて帰らなくちゃ。
「ノーニャちゃん、立てる?」
「うん、大丈夫」
少しよろよろしているけど彼女は立ち上がり、私達はまた洞窟へ向かって歩き出した。
不気味な鳥の鳴き声や、羽ばたく音に怯えながら進み、私達はようやく目的の洞窟へと到着した。
洞窟の入口は、まるで地獄に繋がっているかのように見える。
でも、男の子達はこの中に入って本を隠したんだ。
怖くない、怖くなんてない!
買ってきたランタンを取り出して火を付けると、ぽうっと小さな炎がランタンの中に灯る。薄暗かった森の中で、私達の周りだけが明るくなる光景は、なんだか不思議な感じがした。
後は洞窟の中にある本を取って来るだけだ!
左手でノーニャちゃんの手をぎゅっと握ったまま、右手に持ったランタンを前に突き出して洞窟に入っていく。
一歩進む毎にブーツの鳴らす音が反響する。
思ったよりも天井は高く、前屈みにならなくても進むことができた。
暗い空洞の中を私達はゆっくりと進んで行く。
この洞窟のどこかにノーニャちゃんの本があるんだ。絶対に見つけなきゃ!
少し進むと前に真っ直ぐ続く通路と、左に続く通路がある。
どっちが正しい通路だろう?
「どっちに行こう……?」
「ホルン達だって、きっとそんなに奥までは言ってないと思うの」
私達が相談していると、何か黒い影がランタンの照らす光の中を横切った。
それは私達の頭上でばさばさと音を立てる。
「きゃああああ!」
私とノーニャちゃんは、手で頭を庇って左の通路に入った。
彼女を背にぶんぶんと手を振って、飛んでくる何かを必死に追い払う。
「きゃあ! あっちに行け! あっちに行け!」
しばらく私達の周りを飛び回っていた何かは、次第に遠くへと逃げていった。
「はぁはぁはぁはぁ!」
「だ、大丈夫、アリスティアちゃん!?」
「う、うん……いなくなったみたい。はぁ~怖かった」
私達はその場にへなへなと座り込んだ。
そこで息が落ち着くまで休んだ後、私達は通路の先へと進んだ。
通路の先は部屋のような空間になっていた。
また襲われないか不安な気持ちを押し殺して先に進む。
幸い天井から何かが出てくることは無く、空間の奥の方まで来ることができた。
ランタンで前方を照らすと、出っ張った岩の上に、一冊の本が置かれているのが見えた。
「ノーニャちゃん、あれ!」
「うん、間違いない! 私の本よ!」
私はランタンを地面に置いて、壁の出っ張りに駆け寄り本を手にする。
やった! ノーニャちゃんの本を取り戻すことができたんだ!
私は振り返ってノーニャちゃんに向かって本を持った手を伸ばす。
ふわっ。
本が彼女の手に届いた瞬間、私の体は不思議な浮遊感に包まれた。
「えっ?」
ノーニャちゃんの姿が上に移動し目の前が真っ暗になる。
体に衝撃。
上も下も右も左もわからなくなり――。
「きゃああああああ!?」
私の体は、いつからそこにあったのかわからない穴を転がっていった。
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