第5話
黒髪のお姉さんの言葉が気になったけど、ここは不思議の国。もしかするとあのお姉さんも、心が見えるのかもしれない。
姿が見えなくなり私は、散歩を続きに戻り気ままに歩き始めた。
「ちょっと、返してよ!」
「返してほしけりゃ自分で取りに行きな!」
突然路地裏から大きな声が聞こえてきて、私は肩を震わせた。
女の子の困った声と、男の子の勝ち誇った声が会話を続ける。
「本ばっかり読んでないでたまには体を動かせよ」
「そんなの私の勝手じゃない。とにかく本を返して!」
ケンカかな、大人の人を呼んできた方が良いかな?
私は壁の影に隠れて様子を伺う。
「おい、お前。何をしている」
またびくっと肩を震わせる。
後ろを見ると、太った男の子が私を睨みつけていた。
あわわわわ、どうしよう。
私は太った男の子に腕を引っ張られて、路地裏へと連れていかれた。
路地の奥には私と同じ歳くらいの二人の男の子と、一人の女の子がいる。
短髪でつんつん頭の男の子が私を見て口を開く。
「なんだそいつ?」
「そこの影から俺達の会話を聞いてたから連れて来たんだ」
「見かけない顔だが、ノーニャの仲間か」
ノーニャというのはこの女の子のことかな。
女の子は申し訳なさそうな表情で私を見つめていた。
太った男の子は、私を女の子の横に並ばせると、奥にいる仲間達の所へ歩いていく。
どうやら乱暴をするつもりはないらしい。
私はちょっとホッとした。
「とにかく本を返してほしかったら自分で取りに行きな」
「ど、どこにあるの?」
「北東の洞窟だ」
少女の顔を見ると真っ青になって涙を浮かべている。
ここで私は関係ないと立ち去るのは簡単だけど、それじゃあこの子があんまりにも可哀想だ。
「せっかくお友達を連れてきてるんだ。そいつにも頼んでみたらどうだ?」
「この子は関係ない……!」
「まぁ、せいぜい頑張りな」
短髪の男の子はそう言い残し、仲間を引き連れて路地から去っていく。
残されたノーニャという女の子はぽろぽろと涙を零した。
「お誕生日に買ってもらった大切な本なのに……どうしよう」
「えっとノーニャちゃんで良いのかな?」
私を見て頷く彼女の手を握って、私自然とこう言っていた。
「私が取りに行く!」
「え……でも、貴女には関係の無いのに……」
「大切な本なんでしょ? じゃあ放っておけない!」
ノーニャちゃんは涙を拭って私を見つめる。
「ありがとう……あの、貴女の名前は?」
「私はアリスティア、よろしくねノーニャちゃん」
私達は路地を出てどうするかを話し合うことになった。
自分で取りに行くと言ったは良いけど、私は北東の洞窟の位置がわからない。
それどころか来たばかりの不思議の国では、方角すらもわからないからだ。
「でも、本当に良いの? 洞窟は危険よ」
ノーニャちゃんは不安そうに私を見て聞いてくる。
怖いけど大切な本を取り返す為だ。私は力強く頷く。
彼女は少し考えた後、震える声で言った。
「私も行く、ううん私が行かなきゃ。知り合ったばかりのアリスティアちゃんにだけ行かせるわけにはいかないもんね。そうと決まればまずは、準備をしなくちゃ」
「必要な物は何かな、洞窟だから明かりが必要ね。それにパンとお薬を買っていこう」
私達はすぐに必要な物を買いに出発する。
私ひとりじゃどこに何が売っているのかわからないけど、不思議の国のノーニャちゃんがいるからその点は安心できた。
ノーニャさんの後について行き、最初に魚屋さん風のお店を訪ねる。そこで明かりを灯すランタンを購入し、次にレストラン風のお店でお薬を購入して、最後に武器屋さん風のお店ででパンを購入した。
ノーニャちゃんは迷うことなく、それぞれのお店に行ったからすごいと思った。
「これで準備は万端だね! さぁ、北東の洞窟に本を取りに行こう!」
「うん!」
私が明るく振る舞うとノーニャちゃんも元気よく返事をしてくれた。
準備が整い私達は北東の洞窟を目指して歩き出す。
その途中でさっきの男の子達とばったり出くわしてしまった。
「お、ノーニャじゃないか。やっと自分で取りに行く気になったのかよ」
「あ……ホルン」
あの短髪の男の子はホルンという名前らしい。
ホルン君は私達の姿を見て嬉しそうな表情を見せる。
「えっと、ホルン君はどうしてノーニャちゃんに嫌がらせをするの」
「わからない……ホルンは昔からああだったから」
どうやら二人は子供の頃からの知り合いだったみたいだ。
とにかくこんな嫌がらせはやめさせないといけない!
「えっと、ホルン君!」
「なんだよ」
「私達が北東の洞窟から本を持ち帰ったら、もうノーニャちゃんに意地悪しないって約束して!」
私の言葉にホルン君と、その仲間達は顔を見合わせて笑う。
「わかったわかった、約束してやるよ。洞窟から本を取ってこれたらな」
両手を広げて首を振りながら彼は約束してくれた。
多分取ってこれないと思っているのだろう。
ふん、負けるものですか!
「行こうノーニャちゃん」
「うん……!」
私達はずんずんと彼等の横を通り過ぎていく。
必ずノーニャちゃんの本を見つけてやるんだから!
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