第4話

 ポシェットの中から懐中時計を取り出して時間を見てみる。

 時計の短い針は、もうすぐ十二を挿そうとしていた。

 お腹がすいてきたなぁ。

 近くにレストランは無いかと、辺りを見渡すけれどここは不思議の国。外観だけで判断できないことを思い出す。


 案内板の方向へ歩きながら見かけるお店を眺めていく。

 お薬屋さん、洋服屋さん、お花屋さん。

 レストランが見当たらない。このままじゃお腹がペコペコになっちゃう。


 案内板までやって来た私は、公園を探した時のように案内板に目を向ける。するとさっきまでは無かった印がたくさん付いている。

 最初は何の印かわからなかったけど、きっとこれはレストランの印なんだと思った。

 すぐにポシェットから手帳を取り出して地図をメモする。


 今度は公園とは反対の、左の道を歩いて最初の交差点を右に曲がった所に印がある。

そこに向かってみよう。私の予想が正しければ、そこにレストランがあるはず。


 メモを取った道順に歩いていくと、やっぱりレストランが見つかった。と言っても見た目はやっぱりレストランには見えなくて、様々な鎧が飾ってあったけれど。

 ドアを開けると美味しそうな匂いが鼻をくすぐった。


「いらっしゃいませ、こちらの席へどうぞ」


 ウェイターさんが私を席まで案内してくれた。他のテーブルを見てみると、観光客と思われる人達が、楽しそうに会話をしながら食事をしている。

 メニューにはよくわからない料理名がたくさん並んでいた。

 ポニャール、コン・トラッタ、フマイカリトロ等々、どんな料理なのか想像できない名前ばかり。


「お客様は外の国からやってきたようですね」

「はい。だからどの料理がどんなものなのかわからなくて」

「それでしたら、こちらで観光客の方に人気の料理を、ご用意させていただきますが」

「あ、それでお願いします!」


 畏まりましたと言って、ウェイターさんは頭を下げて店の奥へと歩いていく。

 どんな料理が食べれるのか今からわくわくする。

 その間、他のお客さんが食べているものを見ないように心がけた。


 しばらく待っていると、さっきのウェイターさんが料理を運んできた。

 サラダにポタージュ、それと深さのあるお皿にムースソースがたっぷりかかった料理。


「ウォトランスタのセットでございます。それでは、ごゆっくりお召し上がりください」


 ウォトランスタのセット!

 ウォトランスタというのはこのムースソースの料理名かな。名前の意味なんかはさっぱりわからないけど。

 いただきますと感謝してから食べ始める。

 フォークをムースソースの中に刺し込と、サクッとした感触。持ち上げると一口サイズのパイだった。たっぷりとムースソースがかかったそのパイを口の中に放り込む。

 サクサクとした食感に、ちょっぴりスパイシーなムースソース。

 少し大人の味わいで美味しい!

 ふわっとしたムースソースを、たっぷりと付けてまたパイを口の中へ。


「ん~~!」


 その辛さに口の中がぴりぴりする。その後にポタージュを口に含むと、かぼちゃの甘い味が広がって、またウォトランスタを食べたくなってくる。

 おっと、サラダも忘れちゃいけないね。

 新鮮な野菜が使われたサラダを食べると、それだけで幸せな気持ちになれる。

 レタスに玉ねぎのスライス、そこにさっぱりとしたドレッシング。


 気が付けば私は夢中になって料理を食べていた。

 食べ終わった後、手帳を取り出してウォトランスタの特徴を記録する。

 ぱたんと手帳を閉じポシェットに片付けて、私は昼食を終えた。


 会計を済ませてお店から出た私は、食後の散歩を開始した。

 マッソイの街には他にどんなものがあるかな?

 景色を楽しみながら歩いていると――。


 どんっ!


 と、誰かにぶつかってしまった。

 私は慌ててぶつかった相手の人に謝る。


「ご、ごめんなさい!」

「こちらこそごめんなさい、ケガは無い?」


 綺麗な黒髪のお姉さんが私の事を心配してくれる。


「大丈夫です」

「そう、良かった。あら……」


 お姉さんは言葉を切ると、じっと私の顔を見つめた。

 やっぱり何か悪いことをしてしまったのかも。

 私は怒られると思って俯いた。

 しかしお姉さんが怒ることは無く、逆に頭を撫でてくれる。

 顔を上げるとお姉さんは優しく微笑んでいた。


「貴女の願いが叶いますように……」

「え?」


 そう言い残してお姉さんは、小さく手を振って私が来た方向へと歩いて行った。

 私はお姉さんの姿が見えなくなるまで、じっと見つめたまま動けなかった。

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