第3話
今度は猫を膝の上に乗せて座っているお婆さんに聞いてみよう。
近づいて行くと眠っていた猫は、私の気配を感じて顔を上げた。そしてまたお婆さんの膝の上で丸くなって眠る。
「こんにちは」
「はい、こんにちは。おや、この国の子じゃないようだねぇ」
私にはこの国の人との違いがあまりわからないが、お婆さんは私の姿を見るとそう言った。
きっと大人になれば違いがわかるんだ。私はまだ子供だから細かい違いに気が付けないんだろう。
「さっき船に乗って不思議の国へやってきました」
「おやおや、着いたばかりなのかえ。よく来たねぇ、可愛い娘さん」
「あの、それで聞きたいことがあるんですが、北の海で光る玉を見たという話を聞いた事がありますか?」
私が質問するとまた猫が目を覚まして、お婆さんに向かってにゃあと鳴いた。
お婆さんが猫の頭を撫でると、猫は私をじっと見つめてにゃあと鳴く。何かを伝えたいように見えるけど、私には猫の言葉はわからない。
「マッソイから北に進んだ所にあるルーレの街、もしかするとそこで光る玉が見つかるかもしれないねぇ」
「その猫がそう言ったんですか?」
「おや、よくわかったねぇ」
猫の言葉がわかるお婆さんもすごいし物知りな猫もすごい!
また手帳を取り出してメモを取る。
光る玉はマッソイの北にあるルーレの街にあるかも!
そう書き込んで、お婆さんと猫にお礼を言う。お婆さんはがんばりなさいと励ましてくれて、猫はにゃあと一鳴きした。
お婆さん達と別れた後、のんびりと公園内を歩いていく。
公園の中心には噴水ではなく丸い池がある。水面を覗き込んでみると、中には色んな魚が泳いていた。
こんなに近くで泳いでいる魚を見られるのは珍しい。私はその場に座って、気持ちよさそうに池の中で遊んでいる魚達を眺めて過ごす。
あの小さな魚が私だとすれば、隣を泳いでいる大きな魚はお父さんとお母さんだ。
私ははっと大切な事を思い出した。
そうだ、お父さんとお母さんに、無事に不思議の国に着いたと手紙を書かなきゃ。きっと二人共心配してるはずだ。
私は立ち上がってホテルへ向かって歩き出した。
来た道を戻ってホテルを探す。外観が他の建物とよく似ているから迷ってしまいそうになったけど、ちゃんとホテルに帰ってくることができた。
部屋に戻るとすぐにドアがノックされる。
誰だろうと思いドアを開けると、ホテルで働く人が立っていた。
「アリスティア様、こちらをお使いください」
手渡されたのは便箋と封筒、それに赤い蝋燭とスタンプだ。
便箋と封筒には不思議の国という文字と、不思議な模様が描かれている。
「わあ、ありがとうございます!」
「ご両親が安心してくださると良いですね」
それでは失礼しますと言ってホテルの人は、深々と頭を下げて廊下を歩いて行った。
私はホテルの人に感謝してテーブルへ向かい、ペンを手に取り早速お父さんとお母さんに手紙を書く。
お父さんお母さん元気ですか?
私は元気です。
長い船旅を終えて、今日無事に不思議の国へ到着しました。
船での旅も嵐や事故に遭わずに済んだので安心してください。
不思議の国は、本当に不思議な事が多くてびっくりしています。
建物の屋根に角があったり、見た目よりも広いホテルに、心を見ることができる手掘るの人がいたり、猫と話すお婆さんがいたり、物知りな猫がいたり、とにかく不思議なことがたくさんあります。
幸せの宝玉はまだ見つかっていませんが、光る玉の噂を聞くことができました。
もしかするとそれが幸せの宝玉かもしれません。
私は元気にやっているので、心配しないでください。
最後に、私のわがままを聞いてくれてありがとう。
また手紙を書きます。二人共元気にしていてください。
大好きなお父さんとお母さんへ。 アリスティア
サラサラとペンを走らせて手紙を書き、綺麗に折りたたんで受け取った封筒に入れた。それから蝋燭に火をともし封筒へ垂らす。最後にスタンプを押して出来上がり。
部屋から出てホテルのロビーに行くと、受付のお姉さんに呼び止められた。
「アリスティア様、手紙はこちらのミミズクがお届けさせていただきます」
カウンターの上には、ミミズクが首から鞄をぶら下げて立っている。
私はミミズクに近づき鞄の中に手紙を入れた。
「よろしくね、ミミズクさん」
私の言葉がわかるみたいで、ミミズクは小さく頷き翼を広げて飛んで行く。
「明日にはご両親の元に手紙が届きますよ」
「そんなにすぐに届くんですか!?」
「はい、ミミズク便はお仕事が早いのですよ」
驚く私に受付のお姉さんは笑顔でそう言った。
私の住んでいた国から不思議の国まで距離があるのに、やっぱり不思議の国ってすごい!
受付のお姉さんにお礼を言って部屋に戻り、また出かける準備をしてホテルの外へ出ることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます