第2話

 港から続く道を進み私はマッソイの街にやって来た。

 建ち並ぶ家々には屋根に角が生えていたりする。

 あの角は一体何のためにあるのかな?

 考えてみるが答えは出ない。


 他にも大きなケーキの形をした建物もある。

 あれはきっとケーキ屋さんだ。

 お店に近づいてショーウインドウを覗いてみると、たくさんの時計が並んでいた。どうやらケーキ屋さんではなく時計屋さんのようだ。


 どうしてケーキの形をしているんだろう?

 謎は深まるばかりだ。


 ケーキ屋さんのような時計屋さんを離れて、私はまた街を観察しながら歩き出す。

 レンガ造りの道を歩いている大勢の人は、私の国の人とあまり違いが無いように見たが、時々頭に壺を被った人や、壁を歩いている人がいて驚く。


 見るもの全てが新鮮で、私はずっとわくわくしていた。

 きょろきょろとマッソイの街並みを楽しみながら、今日宿泊するホテルを探す。きっとホテルも外観だけじゃわからないだろう。


 その予想は見事に的中していて、一見普通の家にしか見えない建物がホテルだった。もちろん屋根に謎の角が生えている。

 ホテルとは思えない程小さいけど、ちゃんと看板にホテルと書かれているから間違っていないと思う。

 ドアを開いて中に入って私はまた驚いた。

 中はすごく広いロビーになっていたからだ。

 私は受付に行きチェックインを済ませることにした。


「いらっしゃいませ」

「宿泊したいのですが」

「おひとり様でよろしいですか?」

「はい」


 受付のお姉さんは、宿帳を手に取りサラサラと何かを書き始めた。


「こちらでお間違えありませんか?」

「え?」


 カウンターに置かれた宿帳を見てみると、なんと私の名前、アリスティアと書かれていた!

 どうして私の名前がわかったんだろう!?

 宿帳と受付のお姉さんの顔を交互に見て尋ねる。


「あの、どうして私の名前がわかったんですか?」

「貴女にそう書かれてあるからです」


 私は自分の体や荷物を見て確かめるが、どこにも名前は見当たらない。

 その様子を見て受付のお姉さんは、ぺこりと頭を下げて教えてくれる。


「失礼しました。書かれているのは貴方の心にでございます」

「私の心が見えるんですか!?」

「はい、お客様の望むサービスを提供するのが私達の仕事ですから」


 すごい! まるで魔法だ!

 観光客の中には気味悪がる人もいるかもしれないけど、私は魔法が見れたみたいで嬉しかった。

 部屋の鍵を受け取ると、ベルボーイのお兄さんが私の荷物を持ち上げて部屋まで案内してくれた。

 案内された部屋もとても綺麗で、私のおこずかいで足りるのか心配になった程だ。


 ベルボーイさんが部屋から退出した後、いよいよ不思議の国での幸せの宝玉探しが始まった。

 私の持ってきた幸せの宝玉の本には、その在処までは書かれていない。

 どこから探せば良いのかわからないから、まずは情報収集からだ。


 旅行鞄から、手帳やペン等が入ったポシェットを取り出して肩にかける。これで準備完了!

 早速部屋から飛び出しホテルのロビーへ。

 出かける前にロビーの広さをよく覚えてから外に出た。

 外観を眺めるとやっぱり中の方が広い。

 どういう仕組みなんだろう不思議!

 後でホテルの人に聞いてみよう!


 再びレンガ造りの道を歩いて、人が多そうな場所を目指す。

 大人なら酒場なんておしゃれな所で、情報を集めたりするんだろうけど、私はまだ子供だからそういうお店には入れない。

 だから公園を見つけてそこで話を聞こう。


 何かの建物の前にあったマッソイの案内図を見て公園を探す。

 どうやら今いる所から右に真っ直ぐ進んだ所にあるみたい。

 場所がわかれば後は行くだけだ。私は公園へ続く道を歩いていく。

 

 十分くらい歩いて無事に公園に到着した。

 ようし、それじゃあ幸せの宝玉の話を聞いて回ろう。

 まずは芝生の上で寝転んでいるおじさんに声をかけてみる。


「あの、すみません」

「ん、どうしたお嬢さん?」

「えっと、幸せの宝玉がこの国にあると聞いてやってきました」


 私がそう言うと、おじさんは体を起こして話を始めた。


「おじさんは何も知らないが、北の海で光る玉を見たという話は聞いたことがあるな」


 光る玉!

 もしかするとそれが幸せの宝玉かも!

 私はポシェットから手帳とペンを取り出して、今の話をメモしていく。

 お礼を言うとおじさんは笑顔で会釈して、また芝生の上に寝転がった。


 やった、早速有力な情報を得ることができた!

 私は嬉しくなり手帳に書いた文字を何度も読み返す。

 今度は他の人に、この北の光る玉について聞いてみよう!


 私は小鳥の鳴き声を聞きながら、公園での情報収集を再開した。

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