私の好きな場所

あなたが運転している時、助手席に座った私はいつも、運転席と助手席の間に、そっと手を差し出してみる。


「何?」


「ん?」


あなたはわざとらしく尋ねたり、ふざけて私の手のひらを軽く叩いたりする。



意地悪だなあ…。


私がどうして欲しいかわかっているくせに。



「ん。」


懲りずに私がまた手を差し出すと、少しの間だけど、あなたは指を絡めて私の手を握る。


決して大きくはない厚みのある少し硬いあなたの手を、私は握り返す。


あなたと手を繋いでいる安心感で、私は思わず口元をゆるめる。




夜、私はいつも、あなたがぐっすり眠った後にあなたと同じ布団に入る。


あなたの隣に体を横たえると、ほんの微かに手の甲同士が触れる。


結婚した頃から続く習慣みたいな物で、あなたは眠っていても指を絡めて私の手を握る。


私が手を握り返すと、あなたはギュッと私の手を握り返す。


眠っているのに不思議。


あなたと手を繋いでいる安心感と幸福感で、私はあっという間に眠りの淵に落ちる。




一緒に歩いている時、若い恋人同士でもないのに手を繋ぎたくて、私はあなたの手をそっと握る。


あなたはほんの少し照れ臭そうな顔をして、指を絡めて私の手を握る。


ずっとではないけれど、あなたと私はしばらくの間、手を繋いで歩く。


それからあなたは、さりげなく、そっと繋いだ手をほどく。


もう少し、と思わなくもないけれど、あなたが手を繋いで歩いてくれただけで満足した私は、大人しくその手を引っ込める。




私が差し出した手を、あなたは当たり前のように握ってくれる。


ずっと、この手で守られてきたんだな。


何度となく触れ合ったこの手が、好き。



お互いを支え合ってきた手。


これから先の人生も、この手を取り合って歩いて行きたいな。



私にとってあなたの隣は、あなたと手を繋げる特別な場所。



それが、私の好きな場所。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る