第2話 嵐
非道い嵐だった。
十年に一度起きる嵐だった。
私、一人だけが逃げ遅れた。
航行していた船は私たちが歌わずとも沈んでいった。
そしてあっという間に、私一人だけが置いて行かれた。
海は荒れ、波は狂い、風は暴れ、雲は悪魔に魂を売ったらしい。
この海はたった今から私たちの支配下ではなくなった。
逃げなければ
逃げなければならない
ここは居るべきところではなくなった
逃げなければ逃げなければ、私だけが…
それだけは嫌だ
人間を使う?ダメだ。アイツらは先刻海の藻屑と化した
船も同様
仲間はもう居ない
向かい風に懸命に立ち向かう私は端から見ればただのカモメだろうか。
「ふっ…」
己の滑稽な姿を思い笑みを浮かべた。
その時、雷が私の羽を掠めた。
まずい
私は今一度翼に力を入れた。
このまま直線上に向かったその先にいつもの岩場がある。
その岩場の先、洞窟がある。
きっとその洞窟に仲間が居るはずだ。
あともう少し
少しだけの辛抱だ
疲れからかいよいよ幻覚が見えていたのか視界の隅にキラキラと光が舞っていた。
そしてまた光を見た。
見えた気がした。
私はここで一気に遠のいていた意識を強制的に現実へと引き戻された。
それはなぜか
光の正体が雷だったからだ。
そしてその光はとうとう私の片翼を射抜いたのだった。
「なっ…!?」
私は黒焦げた片翼とその鼻に苦くねちっこくまとわりつく香りを嗅ぎながらバランスを崩し、海へと墜落していった。
どうやら私も、アイツらと同じように、海の藻屑と化すらしい
私の意識は再び遠のいていった
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