海恋

@penntomino121

第1話 海

其の歌は聴けば心を奪い、其の歌声は聴けば魂を奪うが、幸福の中で醒めぬ夢を永遠に見続けられる


なんて言い伝えは綺麗事であり、死を美化したまでのことなのである。

というのも、この海にはセイレーンが居る。

船を見つけては歌を歌い、岩に衝突させ遭難させる。

沈み行く船に次々と高らかに歌い続けながら飛び乗っては船員を惑わせる『化け物』だ。


…時々、歌らしき音が、村に潮風に乗って届けられることがある。

それは勘違いでも思い込みでもない。

明らかに潮風や波音とは違う。

ある種の歌だった。

その日は必ず村が悲しみに包まれる。

そして夜には追悼の義が開かれる。

ハマアザミとハマユウを灯篭と共に海に流して故人を弔う。


俺はこれが好きではない


無論、好きな者は誰も居ないと思うのだが、俺の理由としては涙を流す相手が残された妻子だからだ。


あの歌は悪魔の歌だ


俺はガキの頃からいつか奴らを根絶やしにすることをその涙に誓っていた

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