第3話変化する日常
いつもと同じ、全くと言っていいほど変わり映えしない毎日。
「つまんないなぁ」
すらりとした髪が長くスタイルの良い女が小さくぼやいた。桜だ。
それに気づかず、剣を持った男が目の前に現れた。
「桜様、お相手お願いします!」
広い道場の片隅にいる私に、わざわざ申し込んできた。
「...はい、喜んで」
表向きは、天才優等生という事になっている、私は丁寧な口調と、退屈しのぎ程度の心で申し込みを受けた。
今、道場の中にいる強さで表すと八番くらいだろう。
結果は圧勝、これもいつも通り。
何度やっても変わらない、今ここにいる一人を除いて私を退屈から逃れさせてくれる人はいない。
「次は私とお願いします」
凛とした出で立ちのクールな女が言い寄ってきた、彼女はこの道場で二番目に強い。
「はい、よろしくお願いします」
彼女は強い、だがどうせ退屈する。
いつもより手を抜いたが、結果は変わらず同じ、圧勝。
心の中でぼやいた。
『つまらない』
道場での試合と称した鍛練が終わると、皆帰っていく。
残ったのは二人、私ともう一人の男だった。
確か名前は紫音聖、いつも鍛練をサボってばかりの男だ。
その男は桜の横をすり抜け、すれ違いざまに何か言ったのが耳に入った。
「桜様は手を抜くのもお上手ですね」
「...貴方もね、あの中では貴方とする以外は、退屈しのぎにすらならないもの」
「俺は強いですから、試験楽しみにしておきますよ桜様」
そう言うと男は立ち去った。
男が立ち去ったと同時に、背の小さい女が桜のもとに駆け寄ってきた。
「遅れて申し訳ございません、桜様」
私の監視役兼付き人の橘紗聖だ、はあはあと肩で息をしている、恐らく走って来たのだろう。
彼女とは違う階級で訓練の場所が違う、それに彼女はとても真面目で、どんな訓練でも真剣にこなす。
それゆえ彼女は、息を切らしているのだろう。
「紗聖、急がなくてもいいんですよ」
「ですが、桜様の身に何かあればいけないかと...」
やはり、面倒なほどに真面目だ、そこが気に入って付き人にしているのだが。
「自分の身は自分で守りますよ、疲れているでしょう、ゆっくり帰りましょうか」
「ありがとうございます、ですが桜様、お父上が...その...」
ああ、そうだった、今日はその日かだった。
付き人としては言いづらいのだろう、主人が人体実験の対象になっているという事が。
「あら、そうだったわね、ごめんね紗聖、休ませてあげられなくて」
「いえ...あの、桜様もし辛ければ、私にぶつけてもらっても構いませんので...」
彼女の真面目さには、昔からの厳しい教育にある事を私は知っていた。
いくつからなのかはしらないが、期待に応えられないと、激しい暴力が彼女に襲いかかる。
それゆえに、彼女は自分の身体が傷付くことに抵抗がない、傷付くことに意味があれば、それが、必要とされる理由になるからだ。
「いいえ、貴女は私の大切な従者よ、傷付けるなんて事しないわ」
「そう...ですか」
「貴女はそのままで私のそばにいなさい、私には貴女が必要だから、さあ
帰りましょうか」
「は、はい!」
桜と紗聖は少し急ぎ目に、帰路についた。
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