藤井太洋『オービタル・クラウド』(早川書房)

 2015年の日本SF大賞受賞作。


 自分がSFを読むのはあまり得意ではないことは自覚しているんですよ。

 グレッグ・イーガンとか読んでも数式が出てきた瞬間に「???」ってなってなんとなくわかったフリをしながら読み進めちゃったりしますし、そもそも学生時代の時からあまり理系分野得意ではなかったし・・・・・・。

(だから、『バーナード嬢曰く』で「グレッグ・イーガン読んでる人大体よくわかってないよね」って言ってくれてありがたかった・・・・・・ああ、いいんだって・・・)


 じゃあなんでSFを読むのかって、これは自分がそう考えているだけなんですけど純文学とSFは同じテーマを描写するためのジャンルだと思っていて、人間について内面から考察して描写する純文学に対して、テクノロジーや文明といった外部要素から人間について考えるのがSFだと捉えているからです。


 だからSFが作者の考えた世界観や設定、テーマについて描写をメインとするのはある種仕方ない部分もあると思っているのですが、それにしてももうちょっとストーリー性にエンタメがないものかなあと常々思っていたのです。



──そう思っていたところに登場したのがこの『オービタル・クラウド』。


 舞台はほんの少しだけ先の未来、2020年。日本でWebエンジニアとして働く主人公は自身の趣味と仕事を兼ねて運営する流れ星予測サイトの情報から、ある人工衛星が奇妙な軌道を描いていることに気付きます。

 この人工衛星の謎が、やがて国際社会を揺るがすテロ事件へと発展していきます。

 日本、中国、アメリカ、イランと、世界中を舞台に幾つもの事件が同時並行で進んでいき、やがて一点に収束していく・・・・・・という群像劇的な側面もある本作。


 そんな世界を股にかけた物語を、日本のWebエンジニアが持ち前の能力を活かして解決していく、という内容は、SF的な設定・世界観をキーとながらも「それを描写することに終始する」のではなく、あくまでもSF設定を中核に据えながらも、エンタメとしてのストーリーラインや登場するキャラクターを魅力たっぷりに描いています。

 まさにSFというジャンルだけにとどまらない、様々なジャンルをかけ合わせることで誕生した超一級のエンタテインメント小説と言っても過言ではないでしょう!


 物語のキーとなるガジェットも現代科学からの大それた飛躍や遠い未来の設定、また専門知識のないとわからない高度な内容ではなく、あくまでスマートフォンやラズベリーパイといった非常に身近なデジタル機器を用いながらも、「だけどその使い方するとSFになるよね!」という部分に重きをおいているところが文系読者の自分にとってもわかりやすくて好きです。



 だから、この作品を好きなポイントは大きく分けて2つ。

1.とにかく物語とキャラクターがエンタメ性たっぷりで、話を追うこと自体がとても楽しい!

2.作品の中核となるSFガジェットが身近なテクノロジーを取り扱っていて、SFに馴染みがなくても楽しめる!



 もし「SFあんまり読んだことないけど何読んだらイイですか?」って聞かれたとしたら、私ならこの作品かテッド・チャンの『あなたの人生の物語』を薦めるかな。


(ま、そんなシチュエーション実際ないけどね・・・)

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