11冊目 自然淘汰という死神

自然淘汰という死神 ①

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 まぁわたしの人生はずいぶんとドタバタしていたが奇妙に平穏でもあった。

 たっぷり五年は塀の中、塀を出てから十年は学校の中にいたのだ。


 そう。医者になるまでに軽く十年近い月日が流れていた。その間、わたしはひたすら勉強の日々だった。家と学校の往復、そして帰宅すれば勉強漬けの毎日。部屋から外にも出ないし、誰とも会わない。それだけの単調で平穏な日々だった。

 そして医者になってみれば、今度は部屋と診療所を往復する日々だった。


 どうもわたしは部屋に閉じ込められる運命らしい。


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 だがもちろん、この間もわたしの周りでは様々な変化が起こっていた。

 まぁこれだけの大家族である。それは本当にいろいろあったのだ。


 そこでわたしが医者になるまでに起こったあれこれを、ダイジェストながら話しておこう。


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 まず何と言ってもめでたい話。コトラが結婚した。

 コトラは念願かなって、ついにナギサちゃんと結婚したのだ。


「なんといっても料理の腕だね。ナギサは僕の料理のおいしさから離れられないんだよ」

 コトラは結婚の話になると、目尻をさげていつもこんなことを言い出す。


「もぅ、馬鹿ね!」

 ナギサちゃんはコトラがそんな事を言い出すたびに、口癖のようにそう答える。


 するとコトラはますます嬉しがってこう言い出す。

「ナギサはさぁ、エビフライが大好物なんだよ。でもね、それにつける特性のタルタルソースが重要なんだ。なんといってもこの味は僕にしか出せないからね」

「もう、やめてったら! ほんとに馬鹿なんだから!」


 まぁナギサちゃんの言うとおりだ。

 コトラはのろけだすと止まらなくなる。


 いつまでも新婚気分が抜けないのだ。このムニャムニャめ!


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 やがて二人の間には双子の女の子が生まれるのだが、コトラが食べさせすぎるせいだろう、ずいぶんぷっくりとした姉妹になっている。


 まぁそれがまたなんとも可愛いのだが。


 ちなみに二人の名前は『ナオミ』と『ナナミ』という。


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 それからコトラのレストラン『ビストロ・コトラ』も順調に成長をつづけていた。

 なんと最盛期には十店舗のチェーン店を展開していたのだ!


 いずれもマンションの子供たちがスタッフになっており、どの店の評判も上々だ。


 前にも書いたが、子供たちからの支持は圧倒的なのだ。


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 そしてナギサの漫画『ごーるど・らっしゅ¥』は大好評のうちに連載を終えた。

 単行本で三十冊にもなる大作であり、もちろん彼女の代表作となった。


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 ちなみに終盤はかなりのオリジナルストーリーとなっていた。


 レンとケンはマフィアのボスになり、汚れた社会と闘っていた。

 こんがらがっていたレイとキョウとの四角関係はさらにこんがらがる。


 そしてコミカルな役柄だったコトラは最後にレンとケンをかばって凶弾に倒れた。

 そのエピソードはシリーズ最高の感動エピソードだった。

 コトラはついに主役以上の人気の座を勝ち取ったのだ。


「でも殺されるんでしょ? なんか複雑な気分だなぁ」

 コトラはいつもそうぼやいている。

 するとキョウコさんはいじわるそうに付け加える。


「コトラ、あんたホントはナギサに嫌われてるんじゃない?」

 ホント、キョウコさんの言葉はいつも厳しい。


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 せっかくだからもう少し『ごーるど・らっしゅ¥』の続きを。


 最終回はこんな感じだ。


 コトラの死をきっかけに戦いから離れていたレン。

 しかしキョウとレイが人質に取られる事件が発生する。

 単身で敵のアジトに乗り込むケンだったが、戦力差は圧倒的だ。

 傷つき絶体絶命のケン。

 そこに現れる復活したレン。


「やっぱりオレの背中を任せられるのはお前だけだぜ、レン」

「ああ。オレも今、同じことを言おうと思ってたんだ、ケン」


 二人は再びタッグを組み戦いに勝利する。

 町には平和が取り戻された。


 そしてこんがらがっていた四角関係は意外な形で決着する。


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?」

 とはケンちゃんの言葉。


「さぁ、ナギサちゃんにはそういう風に見えてるんでしょ?」

 キョウコさんは楽しそうにニヤニヤしている。


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 わたしにはピンと来なかったが、最高のエンディングらしい。

 マンションの女の子たちはみんな大号泣していた。


 ちなみにこの作品は終了から十年以上たった現在も、女の子の間で語り継がれる名作として不動の人気を誇っている。


 わたしはがある事を、この時初めて知った。


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