8冊目 結婚と起業とあれこれ

結婚と起業とあれこれ ①

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 キョウコさんの突然の結婚宣言はかなりのインパクトだった。


 だがわたしはとても嬉しかった。一足早くケンちゃんが大人になる。それは共に暮らしてきた仲間として、家族として、もちろん親友として、喜ばしいことだった。


 が、そのことをケンちゃんに聞くと、ケンちゃんは頭を抱えてしまった。


「まじかぁ……本気なんだぁ、キョウコさん……」

「え? 違うの?」

 当然わたしはそう聞いた。


「違うって事もないんだけどさぁ……俺、本当にめんどくさいんだよなぁ。これ言うと怒られるから内緒だぜ」

「もちろんさ」


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 ケンちゃんは照れてそう言っている訳でもなさそうだった。


 ただ本当に困った、というか混乱しているようだった。その様子からすると、たぶんキョウコさんがいつもの調子で、一方的に押しまくっているのだろう。


「俺さぁ、今の生活のほうが気楽でいいんだよ。だって俺、幸せなんだぜ。ご飯だって食べれるし、ちゃんと屋根のある家に住んでるし、仕事だって楽しいしさ、家に帰れば家族もいっぱいいるだろ。俺さ、これ以上は何もいらないんだよ。今のままがほんとに気楽でいいんだよ」


「ケン兄ちゃんはキョウコさんのこと好きじゃないの?」

 一緒に来ていたコトラがずばりと切り込んだ。

 このムニャムニャはおおらかそうだが、実に鋭いところに切り込んでくる。


 ケンちゃんはコトラの首を軽くぎゅっと絞めた。

 おまえ、よけいなこと言うな。と耳元でささやく。


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「で、どうなの?」

 とわたしも聞く。ケンちゃんは観念したのか頭をがっくりとうなだれた。


「嫌いじゃねぇよ。たぶん好きなほうだと思うんだけど、でも結婚なんていわれると、俺どうしていいかわかんねぇもん」


「だったらキョウコさんにそう言えばいいじゃん」

 とコトラ。なんとなく楽しんでいる。


「そんな事いえるワケねぇだろ。お前らだってキョウコさんの性格分かってんだろ? どんなひどい目にあわされるか分かんねぇよ……」


「じゃあ、やっぱり結婚したほうがいいんじゃない? お互い好きなんだし」

 またもやコトラ。そしてわたしも同意見だったのでうなずいた。


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「でも、ほんと駄目なんだよ、俺。そういうのさ。あぁ二年後かぁ……そういってたんだよなぁ、あと二年かぁ……」


 こんなんで大丈夫なんだろうか? とわたしのほうが不安になってしまった。


「でもまぁ、まだ二年もあるんだからさ。じっくり考えてみたらいいんじゃない?」

「そうだよなぁ。はぁ二年か……こんなことになるなら、俺が刑務所に入ればよかったよ……」


 キョウコさんには聞かせられない話だ。

 とは言え、もう書いてしまったが。


 まぁ昔話だ! 許せケンちゃん!

 そしてケンちゃんを許せ、キョウコさん!


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 とは言え、二人が実際に結婚するのはこの二年後のこと。

 その間にも時間は容赦なく流れてゆく。


 これからわたしはどうするべきか?

 子供たちのために、大切な家族のために何ができるのか?

 そしてわたし自身はどうしたいのか?


 わたしは来る日も来る日も、それだけをずっと考えていた。

 とにかく考える時間だけはたっぷりあった。


 だが明確な答えはいつまでたっても出なかった。

 そしてわたしの思惑とは別に、わたしの残してきた世界は容赦なく変化していくのだった。

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