3冊目 老人たちとの交渉
老人たちとの交渉 ①
📖
進化というものは、生存の危機にさらされた時、飛躍的に向上する能力のことだ。わたしはコトラに起きた奇跡を通してそれを知った。
だが、たぶんあなたはこう思うはずだ。
どうして涙が(その成分は単なる塩水だ)、金属の
そんなことがありえるのか?
それは科学的に説明できることなのか?
それは誰にでも起こることなのか?
📖
わたしはそれに対する答えを一つだけ持っている。
『進化する前の生物は、進化後の生物のことを説明できないし、決して理解できない』ということだ。
猿は今の人間を見て、何を説明できるだろう、理解できるだろうか?
できっこない。それと同じことだ。コトラに起こったそれは、進化であり、唯一われわれの理解できる言葉を使えば、奇跡だった。
コトラは金を求めた。
体がそれに応えて金を作り出せるようになった。
そういうことだ。それだけのことだ。
📖
さて、その日の夜、わたしたちは驚きのうちにパーティーを終えた。
それはそれは大変楽しいパーティーとなった。
わたしたちは前途洋洋だった。ご馳走とデザートのショートケーキでお腹はいっぱい。そして小さな皿には三粒の
「これってどれくらいの価値があるんだろうな?」とケンがつぶやいた。
「そんなのわかんないよ。兄ちゃん分かる?」
「僕にだって分からないよ。誰かに聞かなきゃな」
📖
まず真っ先に思い浮かんだのは質屋の『カゴ婆さん』だった。
このおばあさん、大変ケチで意地悪な人だった。しかしそれでも、わたしたち家族はこの人の存在にずいぶん助けられていた。
お金が底をついたとき、わたしたちはこの人のところに電子レンジを持ち込んで、お金を借りていたからだ。
ちなみにそれがわたしたちの持っているもっとも高価な品で、唯一『
この電子レンジがどれだけ役に立ってくれたことか! このレンジはわたしたちの家と質屋の間を何度も往復することになった。わたしたちは少しでも新しく見えるように大事に使ったし、いつもピカピカに磨き上げていた。
ちなみにこのレンジ。今は役割を終えて校長室に飾ってある。
もちろん今もピカピカだ!
📖
「しっかしなぁ、あの婆さんはドケチだからな……」
ケンの言葉にわたしたちは思わずうつむいてしまった。
心の中では頭を抱えていた。
たしかにケンの言うとおりだった。カゴ婆さん相手ではずいぶん安く買い叩かれそうな気がした。それどころかニセモノにされて巻き上げられそうだった。カゴ婆さん相手なら考えられないことではない。
「だれか
わたしとケンがため息をついて床に寝そべると、コトラが当たり前のようにこういった。
「いるじゃん、ヒダカのおじいさん」
📖
わたしたちはガバッと身を起こした。ヒダカ老人か!
わたしたちの働く屋敷のあの老主人である。あいさつをしてもいつもギロッとにらむし、気難しくてなんだかおっかない人だった。なるべくなら関わりたくない人だ。
「確かにな……でもあの人は……」
わたしがそう言いかけると、
「だってお金持ちなんでしょ? いっぱいお金を持ってるんだから、コレぐらいの金で僕らをだましたりしないよ」
コトラはあっけらかんと答える。
「なるほどな……確かにそれもそうだな……」とケン。
「でもなぁ、あの人なんか怖いんだよなぁ」とはわたし。
「まぁそれでも信用できそうなのはあの人だけだな。そんでこの交渉はレンジ、お前に任せるよ。俺もコトラもそういうの苦手だしな」
「うん、分かった。とにかく聞いてみるよ」
それで話し合いはまとまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます