新首都運送高速路戦


「エイジ」


 真っ直ぐラボに向かっているとナインが声をかけてきた。


「どうしたナイン」

「先ほどの内容ですが、具体的にはどうするのですか?」

「主任や八咫烏には頼れない、ナイトの整備はカザミが頑張っているからさ、明後日には動かせるから単独で突っ込む」

「正気ですか?」

「正気だ、グールヘヴンの連中が利用されて捨てられるのを、見捨てられない」

「駅の犯行があっても?」

「道具に罪は無い、使う奴に問題があるからな」

「BEL、ですか」

「ああ、だからなんていうかさ、今まで戦ってきた奴らって本当にベヒモスになりたかったのかなって」

「エイジは、不可抗力でしたがベヒモス化はどうだったんですか?」

「どうって、まぁハッキリ言ったら体の負担は消えるし、疲れみたいなやつもすぐに消えてく、オーガも言ってたけど飯が偏っても心配しなくていいとかさ、生活に関しちゃ便利な体だよ」

「ベヒモス化した方が快適と?」

「まぁな、それは否定できない」

「……」

「でもさ、あの欲求はヤバい」

「感情面ですか?」

「ああ、俺は任務で気晴らし出来てるけど体を動かしたい、暴れたいって感情を抑えなくちゃいけないんだ、俺は幸いにも半端モンだったからマシな方だったけど、それでもコントロール出来なかった、というか候補生としての自覚がなければ、暴れていたかもしれない」

「一言もそんな事言ってませんでしたね」

「ああ、ナインが居たからな」

「私、ですか?」

「俺の歯止め役さ、ナインが居たからここまでまともでいられるんだ、感謝しきれないよ」

「そう言うのであれば、私の言う事も少しは聞いてほしいです」

「悪いな、無理だ」

「でしょうね」


 会話をしている内にラボに到着していた。

 主任に連絡しちゃいけない、シロカラスや八咫烏のメンバーも信用できるのかわからない。

 だた一人イレギュラーがあるとすれば、オーガしかいない。

 彼女は何者なのか、エイジはそれが気掛かりだった。



……



 ラボ内は相変わらず静かで、オーガはのんびりコーヒーを飲みながらディスプレイを見ているだけだった。


「ん?」

「ただいまオーガ」

「早いな、いつもなら夜まで帰ってな……、ああ、なんかやらかしたな」

「嬉しそうに言うな、アンタに用事が出来たから戻ってきたんだよ」

「あん?」

「明後日、八咫烏に内緒でナイトを使いたい、無理なら別に構わないけどな」

「別に構わんぞ」

「随分あっさりだな」

「そりゃそうさ、お前は私の所有物であって日向や八咫烏のモノではない」

「……、オーガは一体何処に所属してるんだよ」

「私だ」

「なんだって?」

「私は何処にも所属しない、八咫烏も手伝ってるだけでいつでもBELだろうがMRCだって行けるんだよ」

「今は?」

「めんどくさいなエイジ、私は好き勝手やってるだけだ、それが偶然八咫烏やお前の目的と被ってるだけだ」

「……」

「だから好き勝手お前もやれ、仲間にしたい奴がいれば引き込め、いいな?」

「今回のは金になんないぞ?」

「貯金はある、使わないのは勿体ないとは思わないのか?」

「その浪費癖、何とかした方がよくないか?」

「何を言ってる、私はドケチだぞ」

「他人の金ばっか使ってるもんな」

「よくわかってるじゃないか」

「このやろう……、じゃあ好きにやらせてもらうからな」

「なんか必要なら言えよ」

「わかった」


 信用できるかどうかはハッキリわからなかったが今回の件で敵という事はなさそうだと、エイジはガレージへと足を運んだ。

 ガレージにはあれだけ酷使したナイトがしっかりと整備されておりカザミの苦労が感じられるが、再び酷使しなければならない。


「で、今度はどんな装備にすればいいの?」

「カザミ」

「なんかしたい事あるんでしょ、その通りに弄るから任せてよ」

「そうだな、使える装備の一覧が見たい」

「また任務?」

「いいや、個人的な用事」

「個人の用事でナイト持ち出すなんてね」

「結構大事な事だからさ、友人を助けなきゃいけない」

「何時まで用意すればいいの?」

「明後日まで」

「エイジ人使い荒すぎっしょ」

「俺も手伝うよ」

「エイジが出撃前に疲れたらダメでしょ、ナインいればなんとかなる」

「……わかった、今回は軽装でいい、多分早く動けないと辛い所があると思う」

「武装は?」

「熱溶解武装を提案します」


 ナインの提案した武装は、刀身を熱して、被弾部分を溶かす武装だっただった、硬い装甲を纏った相手でもただ殴るよりは効果がある。


「溶解ナイフは投擲やそのまま切って使える使い捨て武装です、近接武装は高周波系のブレードでもいいですがエイジの場合だとランス系の武装の方が鳴れているでしょう」

「それならヒートランスだね、刃のストックだけ持ってけば刃先がダメになっても交換すればいいし」

「相手に差し込んでそのまま切り離せば結構なダメージにもなります、良い選択ですね」

「一応機銃も欲しいな、銃声デカいけどいざって時に遠距離が投擲ナイフってのはな」

「おっけー、じゃあ早速組むよ、ブースタどうする?」

「あれ支援する人がいないと使い切ったら捨てるしかないんだよな、ユニットもデカいし、他に移動できる装備があれば変えたいな」

「オーガに相談してみるよ、あの人面白そうとかでとんでもないの出てきそうだし」

「その辺はカザミに任せるよ」

「さぁて忙しくなるね、ナイン借りるよ」

 ナインを手渡し、エイジは訓練室に向かった。

 ベヒモス化して軽くトレーニングする。

「間に合えばいいが……」

 とにかく体を動かしていないと気が済まない、そんな気分だった。

 


……



 それからはあっという間に時間は過ぎていった。

 カザミの整備が終わり、エイジはナイトを装着する。


「結局ブースタ無いけどどうしたんだ?」

「なんかオーガがとびっきりの用意してるってさ」

「まぁ訓練場に行けばわかるか」


 ガレージから移動した先にオーガが端末を弄りながら待機していた。


「おはようオーガ、朝早くから悪いな」

「聞いたぞエイジ、なかなか面白そうな事するみたいじゃないか」

「ナインから聞いたのか?」

「ああ、前々から確かにブースタを何とか出来ないかと考えてな、今回はグールヘヴンの機材やら諸々の物資移動、つまり陸路での長距離移動だ、日向が運送路を封鎖してる時間があるのはそのせいだろう」

「日向?」

「お前も疑り始めたんだろ?不思議な事じゃないさ、利害が一致した連中が行動してるだけだよ、私とお前のようにね」

「そうだな、八咫烏はどうするんだ?」

「見逃す方針さ、移動中に攻撃して被害を大きくする事の方が嫌みたいだな」

「だが見逃したら――」

「そう、助からない」

「ナインの奴そこまで話したのかよ」

「まぁな、そして今回はお前だけではない、もう一体助っ人を用意しておいた、それがブースタを取り外した理由にもなる」


 端末の操作を終えた途端、聞き慣れたモーター音と共にゆっくりとナイトのようなマシンが姿を現した。

 人は乗っておらず、エイジ達よりも大きい。

 脚部が大型の四脚部、ナイトと歩行戦車を足したような歪さはあったが、機動力はあるようだった。


「小型の歩行戦車って扱いでいいのか?」

「ああ、ナイトの試作機だ……、四脚による姿勢制御の安定化と積載量の増加、跳ねたりは出来ないが地上移動だけなら十分な速度だ、好きだろこういうの?」

「まぁな」


 エイジを搭載するスペースと銃座もあるようで、エイジが搭乗時に攻撃する手段の他にも予備武装を運ぶ事もできるようだ。


「……結構注ぎ込んだろ、金」

「お前のナイトのパーツを流用しつつ以前から組んでいた機体だからな、昨日一気に使い込んだ訳ではない」

「そうかよ」

「それに助っ人だと言ったろ? ほれ、さっさと挨拶しな」

「うっす」


 機械にしてはフランクな喋り方で、しかもかわいい声が聞こえエイジは耳を疑った。

 少年のようなボイスは誰の趣味なのかは聞かないでおく事に。


「クインシーっす、エイジ、ナイン先輩よろしくッス」

「おい待て、なんで俺は呼び捨てなんだ」

「そりゃナイン先輩から色々聞いてるんで」

「コイツの事知ってたのかナイン」

「はい、オーガが自分用にAIを組みたいと以前から協力していました」

「教えてくれてもいいだろうに」

「オーガが内緒だと言っていたので」

「戦闘に関しちゃ問題ないッス、仮想訓練及びナイン先輩のリアルタイム戦闘記録ももらってるんでエイジの攻撃の仕方も把握してるッス」

「足引っ張るなよ」

「そっちこそッスよ」


 こいつホントにAIか?

 そんな空気に脱力しながら車両形態になったクインシーに体を固定する。


「接続開始」

「これでナイン先輩と繋がれますね」

「クインシー、真面目にしろと何度も言っていますが」

「すいません」

「ナインには大人しく従うんだな」

「何度も叩き潰してますから」

「……そうか」


 仮想訓練でナインに容赦なく捻られたのかと思うと、戦闘に関して心配はないようだ。


「ナインが訓練したなら、信頼するぞクインシー」

「エイジこそドジるなッスよ」

「あんまりクインシーを苛めないでください、こんなでも私の後輩です」

「こんなでも……っすか」

「めっちゃ落ち込んでるぞおい、こんなユニークな奴で大丈夫なのかよ」

「戦闘中、ふざけたら壊してもいいんですよ」

「……容赦ないな、ホント」

「マジナイン先輩鬼ッス!でもそこがカッコイイッス」


 あ、なんかメンタル大丈夫そうとエイジは無事接続作業を済ませ、時刻を確認する。

 午前二時、そろそろ出撃する時間だ。


「オーガ、今夜は戻れないかもしれない」

「おー、泊り? そんな報告はいらんぞ」

「ちげぇよ!」

「今から死ぬかもなんてしれないなんてつまらん事言うなよ、まだクインシーの部品とか支払い終わってないんだからな」

「最悪だなこのやろう」

「そう思うなら戻ってこい……、例の彼女といちゃこらした後でも構わんがな」


 その瞬間、今まで黙って作業していたカザミが反応し始めた。


「え、エイジ、例の彼女ってなんの事?」

「じゃあなオーガ、カザミ、行ってくる」

「ああ、彼女によろしくな」

「ちょっと待って!彼女って何さ!」


 エンジン音とタイヤの音でカザミの声はかき消され、エイジはそのままアヤの元へ向かっていったのだった。



……



 早朝とはいえ人がいなくなる訳ではない、工業地域に隣接された新首都運送高速路まではベヒモス化する訳にもいかない為、ナイトを取りつけたまま通常時に戻っていた。

 乗り心地は酷い物だが、歩行戦車が道路を走っていても珍しがられるだけだろう。

 新首都運送高速路とは、渋滞回避の為や陸路での大型運送を可能にした新設運送路は街に大型の橋を架けて繋げた大規模な道路と線路であった。

 許可を貰った企業などが利用でき、一般車両は少ない。

 その為日向が一部運送路を封鎖していても不思議ではなく、むしろよくある事でもあった。

 通路の入り口にたどり着くと、大きく「現在通行止め」の看板が光っている。

 当然のようにエイジ達の姿に驚きつつも、銃を持ち出し前に立ちふさがる。


「現在封鎖中だ、他の道に行け」

「俺らの事知ってる?」

「知らん、日向の管轄地域での破壊活動が目的ならこの場で鎮圧する」

「そら無理ってもんッスよ」


 クインシーが一言言い放つと同時に前腕部の機銃でナイトの脚部を粉砕する。


「お仕事頑張るッス」

「よくやりましたクインシー」

「えへへ」


 時刻は二時二十分、ナインのGPSデータが、前方に輸送部隊が居る事を教えてくれる。


「運送高速路、来るのは初めてだな……」

「思いっきり飛ばせば追いつくッス」

「おう」


 入り口のゲートを粉砕し、運送高速路に突入していく。

 クインシーの機体はビクともせず、ドンドン速度を上げていった。


「ナイン、アヤにメッセージ」

「どのようなメッセージを?」

「今から助けるってな」

「了解」

「青春っすね」

「馬鹿にするか?」

「いいや、人間って羨ましいっすね」

「よく口が回るな、クインシー」

「彼女は自分の言葉の七割理解してればいい方です」


 何処かから類似した単語を引用しているだけ、という事らしい。


「テキトーってことかよ」

「褒めてもないにもないっすよエイジ」

「……いいから飛ばせ」

「りょーかーい」


 銃座の安全装置を解除し、マイクロガンの照準機能をナインに接続した。

 エイジはベヒモス化し、ナイトと接続し始める。


「衛星からの映像を確認します」

「それ八咫烏の衛星じゃないか?」

「問題ないッスよ」


 映像には日向の運送トラックが数台映っていた。

 コンテナの形は特徴的でナイトや物資輸送用の装甲車とも言われている頑丈なトラックだ。

 今回のトラックは全て無人操作の様だとナインは知らせてくれた。

 グールヘヴンの謀反がバレていないなら、攻撃し、戦闘させる事で彼らを檻から出せるだろう。


「マイクロガンじゃ破るのは厳しいな」

「今回の目的はアヤを含めたグールヘヴンのベヒモス救出、及び脱走の手助けです」

「それもそうか」

「輸送隊の速度低下を確認ッス、迎撃準備されてるみたいでっす」

「好都合かな、あの頑丈さで籠られる方がキツい」

「無駄口禁止になります、目標捕捉コンタクト

「シールド展開~」


 クインシーが駆動腕部に搭載された装甲板を前方に構え銃撃を防いでいく。

 銃撃してきたのは日向のナイト部隊。


「射程距離です、無駄撃ち厳禁ですよ」

「わかってる」


 マイクロガン独特の銃声が響き、ナイトが被弾した部分からボロボロになっていく。


「残骸踏むなよ」

「そんなドジはエイジだけッスよ」


 バラバラになった機体を避けつつ接近していくと敵の銃撃が止み、目的のベヒモス部隊が姿を現す。


「クインシー、一人でも大丈夫だな?」

「当然ッス」

「ナイトの駆動モーター、帰ったら交換ですね」

「仕方ねぇよ」


 クインシーから飛び降り、エイジは全速力で『走る』


「迂闊に速度落としたらコケるなこれ」

「目標に接近、頑張ってください」


 エイジを狙うナイトをクインシーが迎撃し、運送高速路の壁を蹴り、何とか最後列のトラックの上に飛びついた。

 キメラ化の力とはいえ、現実味の無さにエイジは思わず笑っていた


「各駆動部冷却中」

「何とかなったな」


 前方のトラックからベヒモス部隊が移動してくる。

 先頭にいるのは紅のベヒモス、アヤだ。

 エイジの目の前に着地すると同時に鋭い蹴りが放たれるがエイジは難なく防ぐ。


「随分な挨拶だなアヤ」

「遅いよエイジ」


 アヤは後方のベヒモスに手で合図を出し始めた。

 するとベヒモス達は輸送トラックの鍵を開け、バギーのような小型車両を起動させ始めた。


「エイジ、私達はナイトを壊すよ」

「わかった……、クインシー、ベヒモス達の援護忘れんなよ」

「モチのロンッス」


 アヤと同格の上級ベヒモスはコンテナから武器を取り出し、ナイトに攻撃し始める。


「今が正念場! 天国か地獄に行くかの境目よ!」

「了解だ姉貴!」


 ベヒモス達の士気は高い。

 日向のナイトは当然の反乱に戸惑い対処が遅れている。

 バギーに乗った連中はそのままでは乗れないので皆キメラスキンの生身に戻っていて無防備だったが、クインシーやアヤ達のお蔭で離脱出来つつある。


「エイジ、借りるよ」

「ん?ああこれか」


 ヒートナイフをエイジの装備から抜き取り、器用にナイトの駆動モーターに差し込んでいく。

 使い潰したらエイジから受け取り、再び急接近して攻撃を繰り返していく。


「アヤの方がずっと戦闘慣れしてるな」

「そっちだってなかなかやるじゃない」


 エイジのヒートランスはあまり活躍出来ていないが機銃はアヤを狙う敵の注意をひき、サポートに成功していた。


「弾倉!」

「了解ッス」


 クインシーが近くを走ってる時は弾薬を補充し、マガジンを取り換える。


「しっかし、すげぇ数のトラックだな……、ベヒモス達は離脱できたのか?」

「なんとかなったみたいだぜ兄貴」

「うぉっ!」

「どうしたんだ兄貴?」


 グールヘヴンのベヒモス達が近くにいた。

 聞き慣れない呼び名に戸惑いながら返事するか悩む。


「兄貴って……、多分年下ですよ俺」

「姉貴も年下だから問題ねぇよ」

「呼び名の基準って……」

「強さに決まってるでしょ、二人とも無駄口厳禁」


 ヒートナイフを取りに戻ってきたアヤに軽く小突かれながら戦闘に戻っていく。


「アヤは俺の事なんて言ってました?」

「特に何も、ただ明るくなっていく姉貴は俺たちの癒しでしたから、お相手に相当な信頼を置いていたんだなとね……、それに」

「なんかあったのか?」

「アジトでは俺も兄貴の姿見ましたからね、俺達じゃ勝てねぇってハッキリしましたよ」

「アンタらの同胞も、沢山殺しましたよ?」

「へっ、それはお互い様さ」

「よくそれで納得しましたね」

「じゃあ兄貴は何で俺達を助けに来たんだ?」

「BELを潰したい、その助けが欲しいのもあるけど……」

「姉貴のためでしょう?」

「惚れた弱みかな……」

「敵機接近、早く攻撃してください」


 ナインの警告で二人は動き出す。


「じゃあ、俺は先頭のトラックに」

「逃げた奴らの面倒はお任せを」

「お願いします!」


 アヤと合流し、後方に向かう敵を迎撃していると、一風変わったコンテナが動き出す。


「あれの中身は?」

「わかんないけど嫌な感じね」


 中から出て来たのはナイト、しかし中身は乗っておらず何処となくエイジのナイトのように着込むような小さめのサイズだ。

 更にその先のコンテナからは、日向のロゴのキメラスキンを纏った兵士達が続々と動き出していた。


「あのベヒモスは敵だよな?」

「うん、多分日向のベヒモスだよ、あんなに真っ白なベヒモスはうちらにはいない」

「敵、日向ライブラリに情報有り、試験型キメラを投与した隊員で構成された、情報収集や実験を目的とした日向の試験部隊です」

「あのナイトは?」

「推測ですが、エイジのナイトの量産型と思われます……、敵部隊のナイト装着を確認、アヤは後方に」

「ありゃ蹴っても刺しても元気そうだもんね」

「ヒートランスにて、敵ベヒモスの撃破を」

「おう!」


 やっと出番だと言わんばかりに敵部隊に突っ込み、エイジは起動シーケンス中のベヒモスを倒していく。

 起動したところで何の武器も持っていなければ怖くはない。


「呆気ないな?」

「エイジ、何度も言いますが……」


 その瞬間、起動完了した連中が一斉に襲い掛かり、銃器やら近接武装でエイジは後手に回る。


「油断は禁物です」

「うるせぇ、わかってるよこのやろう!」

「では反撃を」

「弾数に余裕がない、困ったな」


 幸いにもトラックが頑丈なお蔭で銃弾の雨は回避したが、身動きが取れず、何体か後方に行かせてしまった。


「足止めだけかよ、厄介だな」

「問題ありません、クインシー」

「もう近くにいるッスよ、アヤさんも一緒ッス」


 クインシーの上で、アヤはマイクロガンを乱射していた。


「なにこれすっごい楽しい!」

「それ撃ちまくると弾が切れやすいんだが……」

「もうちょいで無くなるけど敵も逃げたからいいっしょ」


 カラカラと音を鳴らしてマイクロガンの弾は無くなるが、敵も離れて行った。


「助かったよ」

「エイジはもうちょい活躍してくれないと意味ないッスよ」

「全くです」

「容赦ないなこのやろう」


 トラックは走り続けているが銃火の音は響かなくなった。

 そろそろ撤退するか、それともこのトラックの足を破壊するかで悩み始めた所で通信が入ってくる。


「この辺で引いてくれますかね、中村君」


 ノイズ交じりの通信、しかしハッキリと聞き覚えのある声。


「……主任」


 その声が聞こえた瞬間、エイジは寒気を感じずにはいられなかった。

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