疑問
カザミと一緒に働く事になって二週間が経った。
ナイトが使える日はそのまま任務に使用し、整備中なら今まで通りベヒモスで対処する。
この任務にも慣れてきて、エイジもナイトの拡張機能にも興味が出てきていた。
「オーガ、俺の機体って具体的にどんなの付けれるんだ?」
「アタッチメントか、武装を増やしたりブースターユニットの拡張とかあるな」
「燃料や弾薬費はこれ以上使いたくねぇな……、まぁ非常時があるかもだから嫌とは言わねぇけど」
「カザミが来たら相談するといい、整備するのは彼女だ」
「そうだな、リストみたいなのはあるか?」
「勿論ある、主任に言えばもっと種類があるかもしれんがね」
「……、リストに費用も書いといてくれよ?」
「チッ」
「金を払うの俺なんだぞ……」
「まとめて後でメールしとく、訓練でもしてろ」
「へいへい」
予算を押さえようとしないオーガの心境がエイジにはまだよくわかっていない。
ナインに聞いても「オーガなので」と返事をするあたり何か口止めされているような感じだった。
「最近は任務減ってきたな」
「エイジが暴れまわっていますからね、余計な被害は出したくないのかもしれません、もしくは新しいベヒモスを補充している可能性も」
「BELそのものを叩けないのか?」
「親元のMRCが日向を潰しに来る可能性もあります、八咫烏だけでは動けないのが現状です」
「人手不足か」
「それにBELに所属しているベヒモス部隊が驚異的な性能だとオーガは言っていました」
「即席で俺のようなベヒモスがいるんだから、例外的な強さのベヒモスがいても不思議じゃないか」
怪獣映画のような奴がいるかもなと冗談を言いながら訓練場に向かっているとメールが届いた。
「カザミか……ん?」
『今日は講義が長いからラボには寄らないけど大丈夫?』
「大丈夫だ、後で装備リスト送るから目を通してくれっと……送信」
送信した直後に主任から連絡が届くので直ぐに開くと、短く『シロカラスに来てくれ』と書いてあるのだった。
シロカラスに着いたが主任の姿は見えなかった。
「そういや主任の名前って聞いた事ねぇから誰にも居たかどうか聞けないんだよなぁ」
キドも見当たらなく、仕方ないとカウンターでウーロン茶を頼む。
「あれ、今日はお酒じゃなくていいの?」
「ええ、飲む訳にもいかないので」
ウーロン茶とお通しを受け取り時間を潰しているとカウンターの奥にキドが居た。
「あ、キドさんだ」
「なんか来客中でね、今は忙しんだって」
多分キドさんの相手が恐らく主任だろうとナインを呼び出し、時間を潰す事にした。
「そういやへるおあへぶんって最近チェックしてなかったな」
「了解、開きます」
サイトは相変わらずマイナーニュースまで事細かく書いており時間つぶしには持ってこいだった。
「MRC関連のニュースも多いな」
「戦争に関するニュースは誰もが興味を持っているという事でしょう」
「オーガに言わせたら本当に戦争しているか怪しいっていう事も言ってたな」
「あれは戦争ではなく出来レース、でしたね」
「やる前からどの位の期間戦うか、どっちが勝つかもうわかって始めるもんだからな」
酷い商売だと、今の戦争はそれが当たり前だった。
平和なニュース等もチェックしていくが特に目を引くようなモノはない。
「そういやなんでニュースの位置がここだったんだろうな」
「一般人には非常に危険ですが、
「ん?」
「ベヒモスは被害者でも犯罪対象者、きちんと被害届を出していない人は日向の『殲滅』対象者です」
「じゃあもし普通の人が来て通報されたらヤバい人もいたって事か」
「少なくともこの場所を移さなくてはいけないでしょう」
「……、なんか複雑な気分だ」
ベヒモス側としてはそうあって欲しくはないがベヒモスなる前の自分であれば通報すべきだと判断していたかもしれない。
再びカウンターの奥を見るとキドがこちらを見ていた。
話でも終わったのだろうか?
そう考えていたら手招きをしていたのでエイジは店の奥の方に入っていくのだった。
「来ましたね中村君」
奥に入るとキドの他にも主任の姿があった。
「どうもです、お話とは何でしょうか?」
「もしかして、コイツを使うのか主任?」
キドが微妙そうな顔つきで話してきた。
「……、任務ですね?」
「そうです、キドからグールヘヴンについての話は聞きましたか?」
「少しだけ聞きました」
「今回の任務はそのグールヘヴンへの直接攻撃になります」
「……、それ、日向的に大丈夫なんですか? BELの関連施設への攻撃になりますよね?」
「はい、ですから情報工作しつつ戦闘になります」
BELの関連グループへMRC所属の日向が攻撃するという事。
この攻撃失敗しても成功しても日向は八咫烏との関連性はないというだろう。
日向の支援無し、日本政府からMRCへの反撃が始まるという事だ。
「……、俺が参加してもいいんですね?」
「中村君はもう十分に使える戦力です、何のためにワンオフの機体があると?」
「わかりました、全力を尽くします」
「やれやれ、主任も人が悪い……」
「キド、何か問題でもありますか?」
「いいえ全く、シロカラスも予定通りに動く、それでいいか?」
「はい」
「わかった、決行直前に備えておく……、エイジも気を付けろよ」
「はい」
遂にエイジの目的でもあるBELへの直接攻撃が始まるという事実に興奮と不安を感じていた。
今まで戦ってきた連中とは違い、主力ベヒモスが控えているという事実。
「……怖気づいても仕方ないか、ラボに戻り準備します」
「宜しい、作戦に通達は無いのですぐ出撃出来る様に準備していてください」
「はい!」
今までと違い指令が届く訳ではないらしい。
店に戻り料金を払うとエイジはラボに走って行った。
……
「オーガ、頼みたい事があるんだが」
「んあ?」
如何にも寝てましたと言わんばかりに半目でオーガは椅子に座っていた。
エイジの様子に何か呆れるようなため息を付くとガレージの方を指さした。
「……行ってみ、カザミが急に来てな、もう大変だ」
「カザミが?」
今日は来ないと知らせていたはずだが、確かにガレージの方から音が聞こえていた。
エイジがガレージを覗くと、ナイトの周りには数多くの武装や装備が所狭しと置いてあった。
「あ、やっと来たよ、早くナインを繋いでくれない?」
「今日来ない予定だったんじゃ?」
「装備リスト見たらつい……、早速取り寄せてもらったよ!」
「まさかとは思うが、リスト全部じゃないだろうな?」
「え、ダメだった?」
そうだ、カザミはこういう奴だったと改めて思い出すが、今回に限っては好都合だった。
「いや、よくやったよカザミ、早速組もうか」
「どんな風に組む?」
「閉所での戦闘、一対多数戦が予想される戦闘に向けてだな」
「如何にも単機突撃かますよって感じだね」
「ああ、リストから装備を選ぼう、装甲もあった方がいい」
「りょうかいー」
費用をケチって死にたくはない。
カザミにナインを渡すと早速ガレージの機械が唸りをあげた。
「そういやなんか張り切ってない?」
「まぁ、デカい戦闘があるって事くらいだな」
「……、危ない事やってんだよね、やっぱ」
「今更だよ、カザミが来る前なんか色々やってたさ」
「人殺しも?」
「まぁ遅かれ早かれする事だったさ、ナイトに乗ってベヒモスを倒すって事はそういう事だからな」
「そだね……」
それっきりカザミは黙ってしまった。
ナインと機体チェックしつつ、新しい装備を弄っていた。
前向きになろうとしているカザミを見守りながら、エイジは武器の整備を始めるのだった。
後日、主任からの連絡はなかった。
出撃の通達も無いので緊張状態が続いていた。
情報は非公開なのかオーガ等にも反応はない。
「……、なんか落ち着かねぇ」
等とぼやいても変わらず、アヤとメールする時以外は落ち着く事がなかった。
装備と一緒にエイジ用の『キメラスキンスーツ』というベヒモスに対応した戦闘服も出来上がったので試着するがかなり落ち着かない。
服を着ているのに肌を露出したような、何も着ていないと錯覚するがこれで全裸にならなくてもよくなった事には助っていた。
優秀な下着にもなり、エイジのように体に出てる模様も隠せるのでまさにベヒモス用のスーツだろう。
検査も終わり、スーツを着た状態で訓練もしたがそれ以外の時間はやる事がなかった。
カザミは機械にご執心で、エイジの組もうとしたPCまで暇つぶしに組んでくれたのはいいが、おかげで手間は省けたがやる事はなくなっていた。
ナインもカザミに持っていかれ、ますますやる事がない。
ナイトの整備にはサポートAIがいた方が楽なのも事実なので返せとも言いづらい。
「ナインいねーとアヤと連絡も取れないしなー」
最近アヤの事ばかり考えているような気がしていた。
ここのところ毎日連絡しているような気がしてならない。
自分がベヒモスであるという事は嫌というほど理解しているが、いい雰囲気にはなりたいという気持ちが強かった。
「……、ダメだな」
気分を変えようと、訓練所に向かおうと部屋の外に出た時、オーガと鉢合わせしていた。
「おい、貴様何をやった?」
「は?」
オーガが珍しい顔をしながら訪ねてきたが、一体何の話だと首を傾げるばかり。
「前金で日向から大金が振り込まれたぞ」
「……、ああ、それなら主任から聞いてくれ、俺からは話せないんだ」
オーガは知らないのか? そう聞こうとしたが思い留まった、金が振り込まれたとなれば主任の作戦がそろそろ始まるという事だ。
「ガレージに行く、なんかあればまたなオーガ」
「……なんだ? その機嫌の良さは?」
「んな事はねぇよ」
オーガは何か納得いかないといった顔でただ首を捻るばかりだった。
ガレージに向かうと貧相に見えたナイトが別モノに見えた。
装甲と武装が追加された他にも、機動力確保のためのブースター、エイジの愛用武装でもある
「どうよエイジ? いい感じっしょ?」
「ああ」
「そんだけ?」
「見惚れてたんだよ、言わせんな」
燃料ソケットは減っているが今回は空を飛ぶ訳ではないので問題はない。
カザミからナインを受け取り、メッセージボックスには主任のメッセージが届いていた。
『二十三時決行』
ただ一言、概要は移動中に行われるのだろうとナインを起動した。
「今夜だってさ」
「……」
「おい、どうしたナイン?」
「……」
「なんか今日調子悪いね」
「オーガに見せようか」
「……問題ありません」
「ホントか?」
「またエイジが問題起こすかもよ?」
「問題を起こした場合、検討し、対処します」
二人は一瞬で固まっていた。
「問題しかない!」
「オーガ!」
カザミとエイジはそのままオーガの元へ駆けつけた。
ナインは移動中も呟いていたが二人はそれを聞く度に驚いていた。
嫌味も抑揚もない、よく聞く他人のAIと同じような喋り方になっていた事に。
オーガはまだ、首を捻っていたが二人の様子を見て、何事かと面倒くさそうに作業を止めた。
「ナインの様子が変なんだ!」
「ナインが? なんだエイジの事でも褒めたか?」
「そうだったらいいんだけど、まるで別人みたくなっちゃって」
「日向のAIがねぇ、見せろ」
ナインを受け取ると別人のような速さで調べ始めた、初めてオーガがまともな仕事をしているとも思ったが今は黙っておく。
「あん? なんだこれ?」
「どうしたんだ?」
「乗っ取られてるぞこれ」
オーガの動きがさらに加速し始め、画面が目まぐるしく変化していく。
「一体、どこから?」
出撃前に正体不明のクラッキング。
しかしオーガの表情には余裕の笑み、あっさりと問題を解決しているように見えた。
「ナインは無事なのか?」
「ああ」
端末を再起動し、ナインを立ち上げる。
「助かりましたオーガ、まさかエイジのようなミスをするなんて」
「よし、戻ったな」
「気にするな、クラッキングされたのもエイジのせいだからな」
「「え」」
カザミは「ないわー」と今にも言いそうな表情でエイジを見つめるが、エイジには身に覚えがなかった。
「端末の中にバックドアが出来ていた、しかもトロイの木馬よろしくといった古典的なやつがな」
敵兵を自ら街の中へ誘導していた事に驚くエイジだがやはり覚えはない。
「セキュリティはナインに頼りっぱなしだったけどさ、最近なんかネットから落としたりしてねーぞ?」
「メッセージです、エイジ」
「さっき主任からメッセージきただけだぞ?」
「少し古いヤツからだな、何がきっかけで動き出したのかはわからんが」
かなり前だが、文字化けしたよくわからないメッセージを受信した覚えはあった。
「でも、あれは削除したはず」
「クラッキング犯は日向のシステムに詳しいようです、あのメッセージを開いた際に私に関知されずに何らかのツールをインストールされたようです」
「とんでもねぇ奴……」
「だが安心しろ、先ほど対処しておいた、また攻撃してきたらナインに操られたフリまで出来る様にしておいたぞ」
「オーガさんが初めて仕事してるように見えます」
「酷いなカザミ、給料減らされても文句言えないぞ」
「減らされたらもっとエイジに頑張ってもらうだけです」
「良い提案ですチハル、最近のエイジは……」
「全員容赦ないなおい」
やれやれと呆れながらエイジは一息ついた。
ナインの問題は解決され今晩の攻撃に備え、周りに煽られながらも気持ちは徐々に昂るのだった。
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