猫耳帽子の彼女
後頭部だけでなく、背中にも穴が開いたと聞かされ肩を落とした。
休みを作るために一々体を弄らなければいけないのかとげんなりするしかない。
「後ろ見えないんだけどうなってんだ?」
「背骨に合わせて挿入箇所が一か所、腰の上あたりです」
「これでも人間って扱いなんだから不思議だよ、サイボーグ化みたいなもんか?」
「サイボーグ化している人たちは部位欠損を補う人が殆どですのでエイジのケースとは異なります」
ベヒモス化という決定的な違いはあるが人の状態だとサイボーグ化してるといえばプラグ挿入口に関しては誤魔化せるとエイジは一人納得し着替えていく。
「時間は?」
「十一時です」
「水槽の液体処置長すぎんだろマジで」
水槽の中の液体を外に出すわけにいかないのと粗末に扱えないとかでかなりの時間を消費していた。
ものすごくドロドロとしており流れるまでの時間、体内に入りこんだ分も含めて取り出すのは異常な気持ち悪さだった。
「まぁでも約束には間に合うな」
「オーガからまた期間限定のスナックの要求が来ています」
「間に合わせてくれたのと休みを作ってくれた礼には安いもんだ」
身だしなみを整え、模様を包帯で隠し外に出る。
幸い天気は良好、そろそろ秋に突入しようという時期で丁度涼しくなってくる頃だった。
日向の敷地を出て黒猫亭に向かいながらナインの疑問の答えを考えていた。
「……」
不思議と自分がベヒモスである事をどこかに置いてしまう事があった。
アヤとの会話をしていると特にそうなっている。
「俺がベヒモスである以上これ以上の仲は、無理だよな」
一人ボヤキながらため息を一つ。
エイジが黒猫亭に到着し中を見渡すと既にアヤは席に座っていた。
「早いな」
「そっちこそ」
「ま、楽しみだったからかな」
「お互い様だね」
自然と相席になり、エイジはまたも同じモノを注文していた。
「ガッツリ食べるね」
「まぁな、それで今日は何処に行こうか?」
「え」
「え?」
ポカンとしつつお互いを見る。
「……ノープラン?」
「エイジ君が考えてるものだと」
お互いに苦笑いしつつ呆れ顔になっていた。
「そういや何も言ってなかったもんな」
「そだね、なんか会う事ばっか考えてたよ」
「俺も、かな……」
「て、照れるね」
困っちゃうなーと赤面しつつ慌ててジュースを飲むアヤに対し、エイジは自分がベヒモスである事を忘れそうになっていた。
「真っ赤っかだよエイジ君」
「そっちこそ」
なんでこんなに惹かれるのか、自分では全く分からなかった。
「それは、暑いからだよ!」
「帽子取ればいいじゃないか」
「あー、これ外しちゃうと包帯目立って」
エイジのように肩と首元ではないので包帯を服で隠す事は出来ない。
どんな事情で着けているのかわからないが、エイジは帽子を外したアヤも見てみたかったのだ。
「俺は気にしないけどな、他の客は今日少ないし、外に出るまでは取ってていいんじゃないか?」
「そう?」
「ああ、何より帽子取った顔が見たい」
考えが漏れ、ストレートに言った後にハッとなってエイジの顔は真っ赤になる。
「自分で言っておいて恥ずかしくなるのは卑怯というかなんというか……」
「……嫌なら取らなくてもいいが」
ゆっくりと猫耳ニットを取るとおでこには包帯が巻かれていた。
「あんまり顔じっくり見なくてもいいんだよ」
「あ、悪い」
包帯よりも顔を見ていたエイジは落ち着こうと水を飲む。
しかし、エイジが座ってから水はまだ運ばれてきていない。
水はセルフサービスの黒猫亭。
アヤは頼んでいたジュースを飲んでいる、そしてハンバーガー等の位置で避けていた水は反対側に置いており……。
その事に気付いたエイジだが、このまま気付かない事にした方がいいかもしれないとゆっくりとコップを置く。
既に赤面した顔なら、これ以上赤面する事はないだろう。
「その水……、私の、なんだけど」
「ごめん!」
注意されれば答えるしかない、その事に気付かないほどエイジはテンパっていた。
「な、なんか今日俺調子悪いのかも!」
飲み切ってない水がバツ悪そうに真ん中に置かれ手が付けられない。
そんな空気の中、エイジが頼んだ物が運ばれてきた。
ちょっと空気が変わって安心しつつハンバーガーを食べていれば
アヤがポテトを摘まんでいた。
「ちょっといただきます」
「食べてから言うんだな」
「いいでしょ、水飲んだんだから」
「お、おう」
「結局、今日どうしようか?」
「電車でどっか行くか? 新宿とか」
「人混み、平日でもすごいよねあの辺」
「それ言ったらどうしようないぞ、この辺は特に」
「だよねー」
「アヤはどっかいいとこ知らないか? もうゆっくりできればいいかなってさ、買い物とかは置いといて」
「そうだねー、お台場とかは? 山手線ですぐだよ」
「そういや、行った事なかったなお台場」
「じゃあその辺ブラブラしてみよう」
なんとかいつものテンションに戻ってきたので一息つく。
知り合って話をして、メッセージやら通話して感じた事はやはり勘違いではない。
「なんか知り合ったのが随分前に思えてきた」
「だね」
共感されるとは思わなかったので思わず固まる、これが馬の合う人同士というやつなのかと思案する。
「アヤって、なんか不思議だよ」
「エイジ君もね、なんかペースみだれちゃうし、そっちは妙に大胆なとこあるし」
「自然と口から出るモノはしょうがないだろ?」
「そうかなー」
そう言ってアヤは先ほどの水を口にしていた。
ジュースを飲み干したのだろうと、エイジ自身がその事を見逃したように、悟られないようにハンバーガーを食べる。
しかしアヤの反応は変わらない。
気付いていないのか、気付いてやったのか。
「そ、そういやお台場って、えっとあれだ、落ち着けるとこあるのか?」
「潮風公園とかあるからねー、まぁ行きながら調べてみようよ」
「そうだな」
水の事が気になって仕方ない。
誤魔化しのハンバーガーは食べ終わってしまった。
残すはポテトのみだが、摘ままれていたせいか妙に減っている。
「どうかしたのエイジ君?」
「いや、別に……」
まだ熱いポテトを食べていると火傷しそうになる。
この体になってからは割と平気だがまだベヒモス以前の感覚が残ってるせいか食べるのに躊躇した。
「ここのポテトは火傷しそうになるな……、アヤは随分平気そうだけどさ」
「慣れだよ」
「慣れで熱さってなんとかなるもんかよ」
すげぇな、と感心しつつポテトを食べる。
最初にアヤが摘まんだ時も何事もなく食べているのでそこまで熱くないのかと勘違いしそうになった。
そういえばと、持つ時も特に熱がってはいなかった。
「ちょっと手を見せてもらってもいいか?」
「いーよー」
こちらに両手の手のひらを見せてくれるが、特に皮が厚そうという事もなく傷のない綺麗な状態だった。
「急にどしたの?」
「いや、綺麗だなって」
「新手の口説き文句かなにか?」
「……かもな」
「だから、自分で言っておいて紅くなるのはやめよ、ね?」
「わかってるよ、自然と口に出るんだからしかたねぇだろ」
自爆の多い日だと、思わずそっぽを向いていた。
「なんていうかさ、俺あんま女性と話すの慣れてないんだ」
「あれ、候補生さんは意外とモテるって聞いた事あるよ?」
「いや、言葉が足りなかった……、その……」
「なになに?」
自分が好きになった相手との会話、と言いかけてエイジは慌ててそっぽ向いた。
また自爆するところだったと、誤魔化し方を考える。
「……察してくれ、また自爆しそうになる」
「そなんだ」
逆にアヤが何かを察してしまったらしく紅くなる。
「お互いにコントでもしているのでしょうか?」
「うわぁ! またかよ!」
アヤと会話しているとナインの事を忘れそうになる。
一先ず端末をテーブルの上に置くのだった。
「お久しぶりです、アヤ」
「おひさーナイン、なんかメッセージだとナインが相手してくれることが多かったような?」
「エイジは最近忙しいですからね」
「ホントな、仕方ないけどさ」
「あれ、今は候補生じゃないんだっけ?」
「今は日向の社員だよ、ナイト関連の仕事でね」
嘘はついていない、主任に用意された身分証もそのようになっていた。
「またいいとこに就職したね」
「でも休みは少ないという」
「忙しいのはいい事だと、主任も言っていましたよ」
「そりゃ昔だろ、今はそれほど不景気じゃない」
「あれ、そうなんだ?」
「アヤも仕事してるなら色々ニュースとか見ような……」
「あれつまんないからねー、どこも戦争の事ばっかだし」
各国で小規模な小競り合いや戦争は続いている。
オーガの話通りならMRCのせいなのだが。
「戦争が続くと色んな物資を消費する、日本の製品もな」
「それでうちのお客さんも海外の人多いのかなー?」
「なんだ、輸出業でもやってるのか?」
「ま、似たような事はしてるかなー、部外秘だからこれ以上はエイジ君でもだめー」
「ま、こっちも内容言えないからな、日向はお堅い」
「寧ろ情報漏えい可能な仕事とはなんでしょうか?」
「映画に出てくるような情報屋さん?」
「あれはちょっと違うような……、てかああいう人とかって実際にいるのか?」
「火のない所に煙は立たぬって言うじゃない、きっとあるんだよ」
「情報ねー、あ、そういやさアヤって『へるおあへぶん!』って知っているか?」
アヤがビクッと反応した。
露骨に何か知っている様子に驚くが、どうしてそんな反応なのかの方が気になった。
「そんなに驚く事か?」
「いやー、エイジ君が見てるとは思わなくて、結構いい加減なサイトだし」
「そうか? 意外と面白いけど」
「ちなみにどんなとこが?」
「妙に食いつくな、まとめ記事が見やすいんだよ、戦争関連もどんどんやってるし、胡散臭いニュースも取り扱ってくれるし」
「そういうニュースコンテンツはアテにしない方がいいからね」
「そりゃ何処も同じだろ、精確なヤツってなかなかないだろうし」
「だ、だよねー」
「……、なんかあるのか?」
「そういうんじゃないけどね、ホントに面白半分で広めちゃう人も居るし、一応注意書きだったり規制とかもしてるんだけどサイトが大きくなって質の低いライターさんも増えたというか……」
妙に詳しいな、と疑問に思っているとナインが反応していた。
「へるおあへぶんの関係者なのですかアヤ?」
「まぁ一応ね、運営側ではあるよー」
「いいのかよ、部外秘なんじゃ?」
「こっちは副業みたいなもんだからね、気にしないで」
「意外な事やってんだな……不景気云々の事は実は詳しかったんじゃないのか?」
「ホントに運営しかしてないの、コンテンツの内容管理とかは他の人に任せてるし、私はレイアウトだったり注目ニュースがあればどうやってみせるかーって話するくらいだし」
「そうなのか」
あまり気乗りしない会話なのかアヤのテンションが下がっていた。
「悪い、仕事だとは知らなかったからな」
「いいのいいの、さて、そろそろ行く?」
気付けばポテトも食べ終えていた。
話の途中で摘まんでいれば早いものだとエイジは残った水を飲み干した。
「すっかりぬるくなって……あ」
「あ」
馬鹿じゃないのか、というツッコミを自分自身に入れたくなる。
「よし、行こうか!」
「誤魔化したね」
「何の事かな?」
「関節キスというものですねアヤ、エイジ」
「言うな!」
「言わないで!」
意識しないようにしていたので二人で真っ赤になる。
お勘定を済ませ、店長に「仲良くね」と声をかけられ店を出るころには顔が見れなかった。
「ナインのせいだぞこのやろう、しかも顔覚えられてるし」
「私は常連さんだし」
ナインをポケットしまいオービットを起動する。
お台場までのルート検索を映すためだ。
「あれ、端末どうやって操作してるの?」
「内緒」
「え、何そのハイテク! 同期しても動く?」
「ああ、見てみるか?」
「うん」
アヤもオービットを持っているらしく、ナインと同期させ、視界に同じモノを表示させた。
おぉ、感心しながら歩き出すアヤ。
気付くと二人の距離が縮まっていた。
ナインの解説を聞きながら並んで歩いていたが、不思議と緊張はしなかった。
「お二人とも楽しそうですね」
ナインが呼びかけるまで二人がくっついていた事す気付こうとしなかった。
「……手、繋いじゃう?」
「そう言われたら繋ぐしかないだろ」
「なんでこんなに居心地いいんだろね?」
「ほんと、不思議だよ」
「こういうのをお熱い、とでも言うのでしょうか?」
「かもな」
その後、二人はそんな様子のまま一日を過ごしていた。
……
その日の夜、エイジは機嫌がいいので秋葉原に向かいシロカラスに向かった。
「ん、誰だてめぇ?」
「え」
雰囲気が変わったせいか入り口で再び止められた。
「エイジですよ、オーガに連れていかれた」
知り合いとわかると態度が一気に変わった。
ここはベヒモスが集まる場所のせいか外の人には多少の警戒をしている。
「ああ候補生の、ずいぶん様子変わったな?」
「模様も以前よりずっとデカくなりましたからね、いま首までありますよ」
「オーガに関わるからだ、でも随分と楽しそうじゃねぇか」
「まぁやりたいことやってますからね、キドさんいます?」
「ああ、ボスなら中にいるぞ」
軽く会釈して中に入る。
相変わらず馬鹿騒ぎしてて少し安心しつつ、キドの姿を見つけた。
「お久しぶりです、キドさん」
「お前、エイジか?」
「そんなに変わって見えます?」
「かなり……な、みんな警戒するな、エイジだよコイツ」
「えっ!」
ただ馬鹿騒ぎ見えているようにして、全員が警戒していたという事実にエイジは驚きを隠せなかった。
「マジでみんな気付かなかったんですか?」
周りが一斉に頷く。
「ベヒモス化が一気に進んで……、お前ホントに八咫烏に所属したのか?」
「そうですね、もう引き下がれないくらいには任務をこなしましたよ」
「そうか……、まぁ暴れた連中が馬鹿だっただけだしな」
「もしかして、ここの人達も何人か?」
「いなくなっちまったよ、原因はわからねぇが」
「でも、ここの人達は暴れるような人なんて!」
「いないとは言い切れねぇ、もしかしたらお前さんの手に掛かっているかもしれん」
八咫烏からの依頼は暴れているベヒモスの鎮圧が殆どだった。
例えそれがシロカラスの連中でも、見逃したりはしない。
「しかし、おめぇは随分強くなったみてぇだな」
「自分でもびっくりするくらいには……おかげで報酬の殆どがオーガに持っていかれてますよ」
「今日はどうしたんだ、オーガの奴も忙しいって来なくなっちまったのによ」
「今調整中ってやつでして、オーガからベヒモス化するのを禁止されてます」
「……キメラでも投与したのか?」
「その辺はさっぱり、詳しくは教えてくれないもんで」
「すっかり上級ベヒモス種になっちまったようだな、それなら強いのも納得だ」
「ベヒモス連中が暴れるのを止めたいって一心だったんですけど、自分がベヒモスで暴れまわっているんですよね」
「そうだな……まぁ飲めよ、今日は奢ってやる」
「ありがとうございます、じゃあ梅酒で、今日はストレートにしてみます」
「そうか」
キドはグイッと残ったビールを飲み干した。
「ホント酒強いですよね」
「今ならお前も飲めるさ、ベヒモス化も進んだしな」
「それはどういう?」
「ここの連中はみんな酔えないんだよ、普通の量じゃな」
「副作用、ですか?」
「ベヒモスになったせいで、アルコールが直ぐに分解されちまう……個々の連中は場酔いしてるか酔ったフリだ」
置かれた梅酒を飲んでみても、以前感じた感覚は襲ってこない。
まるで梅のジュースを飲んでいるみたいだった。
「今回は水割りにしてないのに……」
「ベヒモス以前の感覚が残っている連中なら酒なんて美味しくもねぇだろうさ、だがここには同じ問題を抱えたやつらが集まっている、辛さを共有し吐き出せる連中がな」
そう聞くと馬鹿騒ぎの意味が分かる気がした。
発散できる場所がここで、度数が高い酒ならほろ酔いに近くはなる。
「ここバケモノと人間の中間地点だ、馴染めなかった奴はバケモノになって暴れ、馴染んだ奴は人間でいられるってな」
「……、俺ってどっちでしょうね?」
「自分ではどう感じる、どっちでいたい?」
「人間ですよ、こんな体になっても主任は人間だと教えてくれたんですから」
「じゃあ人間だ、お前が人間だというのを忘れなきゃ人間だ」
「ここの皆さんも、ですよね?」
「そうでありたいと思ってるさ」
周りを見ていても、人間にしか見えない。
ベヒモスであっても人であることには変わらないのだ。
「だがな、そうじゃない連中もいる……バケモノになりたいって連中がな」
「MRC、ですか?」
「MRCはベヒモスを商売道具という認識しかない、BELだよ」
オーガの話にも出てきた研究機関だ。
「BELって、日本じゃどんな事してるんです? ベヒモスの実験をしているというのは聞きましたけど」
「BELが子飼いにしてるグループがデータを集めてる、この辺りならグールヘヴンって組織だな、ベヒモスをばら撒いてる連中だ」
「グールヘヴン、聞いた事はないですね」
「恐らくお前の任務対象の殆どがグールヘヴンに所属してるだろうよ、チンピラをベヒモスに変えて好き勝手に暴れてる連中だからな」
「もしかして、あの駅での事件も?」
「奴らの仕業だ」
「主任に相談してみます、そいつらを潰せないかって」
「話をしなくても回ってくるだろうさ、もう実績多いんだろ?」
「それなりにですよ」
「そうか? さっきから女共が気にするくらいの気迫は持ってるみたいだぞ?」
いきなり何を言い出すんだこの人は?
エイジが思いっきり呆れ顔になるとキドは笑い出した。
「いい顔になってるんだよ、戦場を経験して変わったってとこだ」
「そんなもんですかね」
「今ならここの連中引っかける事も出来るぞ」
「もう一途な相手いるんで遠慮します」
「マジか!」
「今日もその帰りですし」
キドは思い切り怪しむような目つきでこちらを見てきた。
「あら残念、こっそり狙ってたのに」
「お前年下の方がいいのか?」
「キドやここの男どもの相手してれば嫌にもなるさ」
「そりゃないぜ」
カウンター越しのお姉さんにまでからかわれるが嫌な気分はしない。
「で、上手くいってるのか?」
「なんか急に親父臭くなってませんか?」
さっきまでマジな話をしていたのが嘘みたいだと、ちょっと安心する事が出来た。
この場所は真面目な話をするよりはふざけている方がいい。
「キド、会話ログならありますよ?」
ナインが外部音声に切り替えて喋りだす、席についた際にカウンターに置いたままであった。
「ナイン!」
「どれどれ?」
「ダメですって!」
「上級ベヒモス様の恋愛とやらを見せてもらおうか」
「嫌です!」
「写真くらいいいじゃねぇか」
「どうぞ」
ナインが表示するとキドが端末を掠め取った。
「お、結構可愛いじゃ……ん?」
キドの動きが急に止まりエイジが端末を取り返す。
「悪ふざけもほどほどに、てかいつの間に撮ったんだよナイン」
「エイジを驚かせようと撮っていました、必要と思いまして」
「……、後で見せろよ」
「なぁエイジ、そいつの名前は?」
「夕月彩って名前ですけど、もしかして知り合い?」
「いや、そうじゃないんだがよ……」
何か引っかかる様子でキドは雰囲気が変わっていた。
「見たことあるんですか?」
「多分勘違いだ、名前も聞いた事ねぇからな」
キドはそれで話を切ってしまった。
「エイジ、そろそろ帰らないと電車が無くなります」
「もうそんな時間か」
「またなエイジ」
「ええ、また来ます」
残った梅酒を飲み干し、キドにお礼をしてシロカラスを後にした。
キドの反応が気になる所ではあったが、アヤの写真を見ていると割とどうでもいいかなと、その日はオーガの頼まれたモノを少し多めに買っていくのだった。
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