第17話・高架下にて「事件の動機よ」

 「こっちだ、穂谷さん」


 新甘草区に広がる新興住宅街を横目に、北の高速道路の麓までやってきた貴史は、はやる気持ちを抑えながら穂谷を呼ぶ。

 ほぼ磐舟村の最北に位置するこの場所は、北の山脈の麓でもある。住宅地と高速道路を仕切るように設けられた植え込みや金網の向こう側に、暗渠化していない人工の川が流れていた。これが、長尾から得た情報を元に辿ってきた川である。


 「確かに、寺様でも通れそうなほどの川幅はありますわね。しかし、こんな上流でもこれほどの川幅とは、正直驚きましたわ」

 「洪水対策に、高架下に貯水槽があるんだ。一昨日みたいな大雨で、住宅地が浸水してしまわないようになっていたはずだ。その貯水槽が、例の暗渠に繋がっているんだろう。それに……迂回すれば金網も植え込みもないみたいだし、もう少し登ってみようか」


 そうして植え込みの向こう。住宅街からは見えにくくなっている高架下にたどり着く。そこは明るすぎるほど綺麗な住宅街から一変し、山と高速道路のコンクリートによって日差しを遮られた圧迫感のある場所だった。

 しかし、そんな閉塞感を味わうよりも先に、強烈な光景が視界に飛び込んでくる。


 「……っ!?」

 貴史の隣で穂谷も息を呑んだ。

 「なんだよこれ!?」


 一面に広がる赤黒い染み。

 乾いたコンクリートの地面を斑に染め上げるそれが、血痕だということはすぐにわかった。高速道路の橋脚にまで飛散し、ドス黒く固まっている。

 その光景だけで、鉄臭い血の臭いに鼻が曲げられる気がするほどだ。


 「もしやこれが、殺害された現場なのでしょうか?」

 「そうだろうな。だが、これは予想以上に最悪の光景だぞ」


 声を出し、なんとか気丈に振舞う貴史だが、実際に遺体がこの場に倒れていたら、どうなっていたか分からない。それほどまでに、凄惨な殺人現場だ。

 それに、警察はこの場所を発見していないらしい。封鎖もされていなければ、見張りの警官も立っていない。貴史たちが一番乗りであった。

 すぐさま貴史は、あらかじめ何かあれば連絡するように教えられていた番号に電話する。勿論宮野刑事の事だ。この現場、この状況。一刻も早く彼女に伝えなかればならない。

 数回コールして、ようやく電話が繋がった。


 「俺だ! 天野貴史だ! 宮野さん、悪いが今すぐ来てくれ!」


 焦りから場所を伝えることも忘れて、貴史はいっぺんにまくし立てる。

 しかし、電話口の相手は宮野では無かった。


 「おぉ、貴史君ですか。しかし……宮野警部は今会議中なんですよ。要件があるなら私が後で伝えましょう」


 磐舟村唯一の警官である星田巡査である。

 どこかのんびりとした印象を受ける彼の口調は、相手を落ち着かせる意味があるのかもしれないが、貴史に取っては気持ちが急くばかりであった。


 「後でとか、悠長な事を言っている暇が無いんだ! 寺栄一さんが殺害されたと思われる現場を発見したんだ!」

 「……本当かい!?」

 「この後に及んで嘘をつく理由なんてないだろう」

 「わ、分かった。すぐに伝えるよ」


 星田は慌てて保留にし、宮野に伝えに走っていった。

 貴史の剣幕がよほど険しかったのだろう。意図せず少し怒気まで孕んでしまったのは、この場に広がる異常な光景から目をそらしたかったからだろうか。誰だって、長居したい場所ではない。だがそんな貴史でも、ここが寺の殺害された現場だと冷静に確信できたのには理由がある。

 昨晩駐在所で寺が借りていた傘が落ちていたのだ。

 そこまで再確認すると、保留となっていた電話口から、ようやく宮野の声が聞こえてきた。


 「もしもし、話は聞いたわ。殺害現場……見つけたそうね?」

 「あぁ、そうだ。新甘草区の住宅街の北。山の中腹にある高速道路の下にいる」

 「わかった、すぐ行くわ。こっちも、会議で面白いことが分かったの。後で話を纏めてみましょう」


 最後に少し、宮野の微笑む吐息が聞こえた。

 あの刑事は子供のような純粋な目で、犯人を追い詰める手がかりでも手に入れたのだろう。そんな不謹慎な表情が、貴史には手に取るように分かってしまい呆れて溜息をついた。

 さて、彼女はいったい何を知ったのだろうか。そして、この現場から何を導き出すのだろうか。素人目ながら現場を見渡す貴史は、穂谷とともに宮野の到着を待った。


 ほどなくして宮野が現場に駆けつける。

 「ひっどい有様ね」

 開口一番に現場に対する端的な感想を述べた彼女は、顔をしかめながら貴史に尋ねた。


 「ここは見つけた時のままかしら?」

 「そうだ。ぱっと見つかったのは、この飛び散った血の跡と落ちていた傘だな」


 発見したものを指差していると、宮野とともに駆けつけた複数の警官たちが、写真やらなんやらの現場の捜査を忙しなく取り掛かり始めた。

 そこまでやって宮野は貴史の肩を軽快に叩く。


 「ありがとう! やっぱり、貴方に協力してもらった甲斐があったわ」


 随分と上機嫌な彼女は、そのまま続けて質問する。


 「それにしても、暗渠だっけ? そんなものよく知っていたわね。濁った水底に覆い被さる草の下にある暗渠なんて、完全に盲点だったわよ」

 「偶然だ……偶然、去年の七夕祭を夢に見た。そこでこの暗渠があったことを思い出したんだ。そういえば、その時、隆太兄さんに会ったな……」


 説明しながらふと、去年の出来事を思い出す。

 あの時森は、暗渠のことを知っていた。となると、寺の流されてきた場所も知っていたのではないだろうか。


 「森さんも、この暗渠のことを知っていたってわけね……もしかして、他にもこの暗渠がある場所を知っているかもしれない人っている?」


 「いや……他の人の事情は知らない。村長や松塚さんなら、村の開発に関わっているからあるいはと思うが」

 「ありがとう。それじゃあ地元の人でも、この暗渠を知っている人は少ないわけね」

 「そうなるな」


 隣町の市長である長尾も、暗渠の事を知っていただろう。だが去り際に交わした口約束がある。彼女が犯人だった場合は悲惨だが、容疑者は男だと考えられているから、その心配は杞憂のはずだ。それに加えて、直感が貴史にそう囁きかけていた。

 明らかに怪しい人物がいるだろう。そうやって貴史を急かしてくる声があった。だが真犯人が分からない貴史にとって、その声は悶々とするばかりである。

 自分の世界に入っていた貴史は、捜査が進む現場に意識を戻す。


 「捜査本部の会議で、新しく犯人の残した証拠が上がってきたわ」


 すると、ちょうど宮野がノートを広げて見せてきた。

 「新たな証拠?」

 「えぇ、昨夜に視点を変えてみたおかげでね」

 「ってことは、やっぱり動機に七夕祭は関係なかったってことか?」 


 七夕祭をいくら調べても、証言どころか動機も手がかりも得られない。そんな状況だった宮野と貴史は、一度考えを改めて、被害者が殺された理由から捜査を進めていた。それが実を結んだということだろう。


 「ええ、お陰でおおよそ分かってきたわよ。犯人も、犯人の動機もね」

 「そこまでわかったのか!?」

 「やっとここまで分かったって感じよ。もう事件発覚から丸一日が経とうとしているのよ? 連続殺人事件だから実は大規模な人員が導入されているの。起こった事件を別々に捜査しても十分にお釣りが来るくらいにね。それで、これがその成果」


 宮野は自慢げにノートを指差す。

 そこには書きなぐられた文字が、線やら点やらで結び付けられていた。

 集められた情報を彼女がまとめた物である。


 「二件目の幾野恵美さんが殺害された場所で、新しい証拠が見つかったの」


 そう言いながら彼女が見せてくれたのは、無理やり繋ぎ直された壊れた木箱の写真だ。電子レンジほどの大きさの木箱で、表面にはヤスリで削られたような痕跡がある。


 「これが証拠?」

 「ちょうど磐舟山の頂上にあったわ。この木箱に、幾野さんの衣服の繊維が引っかかっていたのよ。これがどう事件に関係していたのか調べているの」


 最初に見たとおり、この木箱は表面を削られている。犯人が削ったのだとしたら、犯人にとってそうしなければならないだけの理由があったはずだ。それが犯人自身に繋がると、宮野は考えているのだろう。

 貴史には、少し思い当たる節があった。これも夢で見た記憶だ。

 木箱と言われて一番に思い出すのは、森が暗渠に流されたと言っていた木箱だろう。

 宮野は続ける。


 「三件目……旭あかりさんの寝室が爆破された事件ね。こっちは前の二件と比べると少し杜撰な犯行だったと言わざるをえないわ」


 一晩の内に神器を盗み出し二人を殺害しただけでなく、こうして証拠が集まるのに一日近く時間を要したのに比べて、爆破事件では半日もしない内に十分な証拠が上がってきたらしい。

 ノートに書き込まれた文量が、それを物語っている。


 「花火?」

 貴史は、宮野のノートに書かれた似合わない単語を呟いた。


 「そう花火。貴方も聞いたでしょう? 今年の七夕祭の花火は例年より増やすって。その花火が、爆弾の元だったってわけ。花火師に確認をとったら、持ち込んでいた花火の数が三分の一ほど足りなかったわ」

 「そんなことまで分かったのか!」

 「えぇ、初動捜査で判明していたように、アレは素人に毛が生えた程度の人間が作った即席の爆弾でね。そうなると、手に入れる手段なんて限られてくるわけ」


 彼女はボールペンをくるくる回しながら語る。


 「だけど、花火を爆弾に転用するなんてできるのか?」

 「量さえ揃えればね。実際に過去には大量の花火が爆発して工場が全壊した事件もあるほどよ。今回はその事件よりも小規模だけど、人一人に死傷を与えるには十分な量の火薬が使われていたと判断しているの」


 花火は安全に安全を重ねて作られている物だと思っていた貴史は、その威力に狼狽した。

 例年、七夕祭の空に打ち上げられる花火を貴史は見ている。

 それが、あかりに牙を剥いた物の正体だった訳かと、貴史は怒りに震えた。

 だが貴史を驚かせたのはそれだけに留まらない。


 「最後にもう一つ。殺害された寺さんの自宅を家宅捜査していた班が、これを見つけたの」


 そう言って彼女が見せたのは、寺に宛てられた一枚の手紙だった。


 「それには何が書いてあったんだ?」


 貴史が尋ねると、宮野は回していたボールペンをピタリと止めて言い切る。

 「今回の事件の動機よ」

 「事件の動機?」

 「これのおかげで、私の中に一つの推測が浮かんだわ」


 一枚の手紙。そこには今からもう三年前の日付が印字されている。

 そして差出人の強い意志が感じられる力強い筆跡があった。


 『大切なものを奪われた痛みが癒えることはあるだろうか』


 そんな一文で始まった手紙には、その詳細が書かれている。


 「高速道路建設で失った……ぶどう園?」

 「おそらく、それが彼の彼の大切な宝だったってことでしょう」


 手紙のその一文を目に通した瞬間に、貴史は差出人が誰なのか分かった。

 磐舟村でぶどう園を所有していた知り合いは、彼しかいない。


 「この手紙の差出人は、隆太兄さんか?」


 思わず零したそのつぶやきに、宮野は首を縦に振る。

 彼女が手紙の入っていた封筒を貴史に見せると、そこには間違いなく森隆太と書かれていた。これが事件の動機という事は、森が犯人だと暗に言っているようなものである。


 「いったいどうして……」


 貴史は信じられなかった。そもそも貴史の本心では、知り合いが犯人であって欲しくなかった。それが小さな頃からの付き合いがある人となると尚更だ。

 だが、その本心とは裏腹に、貴史は宮野の推理が気になった。

宮野は言う。


 「この手紙が捜査本部に上がってきたときに、私はこれが動機だってピンと来た。でもそれだけならただの推測の一つだったわ。だけど、貴方がこの場所を教えてもらってから推測は確信に変わったの」

 「この場所?」


 貴史は周囲を見渡す。新興住宅街のさらに北。山の斜面と麓を分断する高速道路の高架下。新しく引っ越してきた住民には、この光景が当たり前。

 だが、昔から岩船村に住んでいる貴史は、この場所に何があったか知っていた。


 「ここって……隆太兄さんのぶどう園があった場所じゃないか……」


 それを思い出した瞬間に、当時の情景が浮かび上がる。

 山の斜面に広がる広大なぶどう園。それだけではない、蜜柑の木もあったし、下流には彩り豊かな畑もある。もともとの甘草区の由来は、この豊富な果物や野菜から来ていた。七夕の今頃は早い品種だともう収穫時で、幼馴染たちと共にぶどうの収穫を手伝うこともあった。採ったぶどうをひと房丸ごとつまみ食いしたことも、既に懐かしい。

 そのぶどう園があった場所が、今では高速道路に覆われ見る影もなかった。かつての楽園が、血飛沫に染め上げられている。なるほど、これほどまでの偶然があるだろうか。


 「そう。だからさっき言った木箱も花火も、すでに森さんとの関連で調べ出しているの」


 そして、彼女の言葉で思い出した。

 「その表面が削られた木箱……あれだ。果樹園とか畑で採れた商品を入れている木箱だ!」


 間違いない。一年前、暗渠に流れたと言っていた木箱も、同じものだったはずだ。

 そこには森家の物だとわかるロゴが判で押されていた。だからこそ、山頂にあった木箱は表面が削られていたのだろう。それを聞き、宮野は「正解よ」と頷いた。

 彼女の方で、既に調べはついていたらしい。


 「花火も、元はといえば隆太兄さんが例年よりも多く用意していた物だ。全部この為か」


 宮野は、森が犯人だと暗に告げていた。

 だが、決定的な証拠が足りない。どれもこれも、状況からの推測。ほぼ間違いないと言い切れるが、その『ほぼ』が取り払えない。

 貴史は頭を抱える。

 そんな貴史に、宮野は少し焦りを含んだ声音で言った。


 「今までの推測が、貴方のお陰で現実味を帯びてきた。でもそうなると厄介ね」

 「まだ何かあるのか!?」

 俯く宮野に嫌な予感を駆り立てられ、思わず叫びそうになる。


 「盗まれた花火の火薬の量と、旭家を爆破した火薬の量が合わないの。ここに来るまでは余分に盗んだのかとも思っていたけれど、花火の量を増やした頃から考えていたのなら話は変わってくる」


 唾を飲み、宮野の言葉を逃さないように聴く貴史に、彼女は続けた。


 「森さんは、旭家を爆破した何倍もの火薬を、爆弾にしている可能性があるのよ」

 「隆太兄さんは……まだ何か企んでいるってことか?」


 あかりの家を爆破したのは前座。火薬の量から考えると、むしろ本番はここからかという事か。家を一件半壊させる爆薬が、まだまだ残っているのだ。

 それまで黙って聞いていた穂谷も息を呑む。


 「だったら……早く隆太兄さんに事情を! 合って話を聞かないと……手遅れになる」


 悠長している暇なんてなかった。

 彼はその目すらかいくぐって、あかりの家の爆破を実行してみせたのだ。物的証拠のあるなしなどを論じていれば、取り返しのつかないことになるのは明白。

 流石に宮野は分かっている。貴史が言葉にする前に、携帯を耳に当てていた。貴史は知らないが、十条が春香やああかりと一緒にいたように、森や松塚の動向を監視している警察官もいる。彼らに連絡を取ろうとしているのだ。

 森に話を聞いて、犯人ならば捕まえるしかない。若しくは、これまでの推理が全部間違いで、犯人が別にいるなら貴史としてはそれでもいい。森の事は、生まれた時から兄として慕ってきたのだ。殺人鬼であって欲しくない。

 しかし貴史の一縷の望みは、無情なる携帯の通知音で終わりを迎えた。


 『……只今、電話に出ることが出来ません。発信音の後にお名前とご要件を……』


 貴史の耳にも、携帯電話から漏れる音が聞こえてくる。


 「繋がらない……」

 ボソリと宮野が呟く。その表情は唖然。

 そして繰り返す。


 「いつでも連絡を取れるように徹底していたのに繋がらない……」


 どうして繋がらないんだ、などと聞けるような余裕はもう無かった。

 これまでの状況がある。貴史は察することが出来てしまった。森が、見張りの警察官の口を封じた可能性。それが一番しっくりくる。

 そうでなければ、なぜ警察官が電話に出ないのか説明がつかない。そしてここは事件現場。宮野と貴史の混乱を、さらに増長させる単語が飛び込んできた。


 「靴だ! 水中の柵に掛かっていやがった靴から全部わかったぜ!」

 壮年の鑑識が手招きし、宮野と貴史はその場所に寄っていく。

 「いまさら靴がどうしたんだよ……」


 その様子を見ながら貴史は溜息をこぼす。今は落し物に構っている暇では無いだろう。連絡の取れない警察官のことが先ではないのか。

 だが、その考えはすぐに改められた。


 「靴って……幾野さんの靴!?」

 宮野の問いかけで、貴史も思い出す。幾野が発見されたとき、靴を履いていなかった。


 「そっちじゃねぇ。犯人だ。山に残ってた正体不明の足跡の方だよ。水に浸かってしまって随分落ちちゃいるが、血もついている。染み込んだ血と泥を見れば一発だ! それにだ……靴裏の足跡もピッタリ合ってやがる」


 そこでようやく貴史も気が付く。

 とうとう犯人に直接繋がる物的証拠が出てきたのだ。


 「誰のものかまで分かるのかしら?」

 「こいつがあっさり判明した。靴ひもと足を突っ込む穴の周りに指紋がびっしりだ」


 壮年の鑑識は、靴を持ち上げて見せつけるように指して続ける。


 「……ついている指紋は森氏の物だ。だが、血痕は寺と幾野の両方確認できた」


 つまり幾野が殺された後に、寺が殺されたのか。

 貴史はその順序に何か引っかかったが、それ以上に急を要することがある。


 「……っ! 本当に、犯人は森さんって事で間違いないようね」

 次々と判明していく新情報を、なんとか頭の中で整理しながら話す宮野。


 「だとしたら尚更だ! 尚更連絡の繋がらない警察官が危険なんじゃないか!?」


 犯人は、もう森で間違いない。そしてその森を見張っていた警察官との連絡が途絶。いくら推理をしたとしても、肝心の森が行方をくらましてしまった。


 「いったいどうなっているのよ……」


 宮野が焦りに溜息をこぼし、貴史は状況の激変に頭痛に襲われたような気分になる。


 「隆太兄さんの行方まで、推理しないといけねぇのかよ」

 「それに、まだ彼は火薬を使う気でいる可能性があるわ。一刻も早く見つけ出さないと」


 宮野は新たな捜査の指針を打ち出す。


 「容疑者は森隆太! 彼を大至急捕まえるために全力を尽くすこと!」


 それは、磐舟村に広がった全ての警察官にも通達される。

 そして貴史も、事件現場に別れを告げて走り出していた。その額には、ベッタリと嫌な汗をかいている。今、貴史の思考の大半が嫌な予感に対して警告を発していた。

 森が持っている爆弾は……一体誰を狙うために用意しているのだろうか。

 思い浮かぶのは最愛の彼女。再びあかりが狙われるかもしれない。そう考えると、もう足は止まらなくなっていた。

 まず先に、あかりの安否を確認しなければならない。

 これで何度目か、貴史の思考はあかりで埋め尽くされていた。

 それが、貴史の最優先事項であった。

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